第74話 最後の襲撃

第三波は予想通りの激戦になった。

ウェアウルフは二足歩行もできる野生の狼のようなモンスターだ。立ち上がれば2mを越える長身で、毛皮の下はボディビルダーのように筋肉が盛り上がっている。

知能があるようにも見えるが意思の疎通は不可能で、噛まれると死に至る病気になると言われている。

魔術で治療することができるらしいが、それでも簡単ではないらしい。噛まれないようにするのが唯一の対処法であり、普通は完全武装した兵士たちが数人ががかりで狩るものらしい。そんな相手とは戦いたくないが、避けることはできない。


二体のウェアウルフのうち片方を俺が受け持ち、もう片方をパドマと他の全員で囲む。

俺は盾と剣を使って防御に徹する。例え攻撃をしても毛皮の表面をすべるだけで、傷つけるまでには至らないだろう。それなら傷つくリスクを負うよりも、安定した戦いをしたほうがいい。

振り回される爪もしっかり防げばどうということはない。大丈夫、十分耐えられる。


敵は二体のウェアウルフ以降はやってこない。まだ残っているはずだが、それらは休憩から復帰したザラがエルフを率いて壁を補強しに行ったので、そこで食い止められているのだろう。

弓エルフ隊が雑魚の処理をしてくれているから、ウェアウルフに集中できるのだろう。きついが今が粘りどころだ。

ウェアウルフとの戦闘にも慣れてきたが、そろそろスタミナが切れそうだ。このレベルの相手は一人でするものじゃない。モンスターは理性がない分、戦闘に特化しているのだ。このままだと……。

いけない、弱気になっている。ここで俺が倒れるわけにはいかない。俺は耐えるのが仕事だ。みんなを支える柱になれる、それが俺のアイデンティティだ。

できる、俺ならできる。頑張るんだ。


「一体を倒しました。これからそちらへ向かいます!」


「よし、俺が押さえつけるから、そこを狙ってくれ」


待ちに待った声が飛んできた。

パドマが槍を構えながら走って来るのが見える。他のやつらは半分くらい疲れ果てているようだ。パドマに続いて来れているのはフィーとイシャンくらいか。

それなら、できるだけ早く終わらせた方がいいだろう。


ウェアウルフは凶暴で力も強いが、どちらも暴走したフィーほどではない。動きは速いが単純であり、間違いなく戦闘経験は少ないだろう。

わざと剣を放って手を前に出すと、罠など疑いもせずに噛みついてきた。

ウェアウルフには噛まれない方がいいが、例え噛まれたとしても唾液が体内に入らなければ問題はない。あらかじめ小手の内側に布を詰めておいたので、たとえ隙間に牙が入ったとしても傷つけられることはない。

そのままウェアウルフの舌を握りしめ、頭を抱え込んで固定すれば、もう逃げることはできない。


苦しがって暴れるが、ぴったりくっつけば殴る威力も半減する。多少のダメージにひるむ俺ではない。


「今だ、やれ!」


「この一撃で、貫きます!」


パドマの槍が輝き、加速する。

高速で突き出された槍がウェアウルフの腹から飛び出てきた。俺にはかすりもしてないのは、さすがパドマと言うべきだろう。

槍を引き抜くと大量の血が地面に流れ出る。ウェアウルフの力が抜けていき、そしていくつかのドロップアイテムへと姿を変えた。


「助かったよ。まさか一撃で倒せるとは思わなかった」


「グレイ殿がしっかりと押さえていてくれたお陰です。助走をつけた上で力のタメを作れたので、あれくらいは当然です」


理屈では納得できるが、俺にマネできる自信はない。

と思っていたら、駆け寄ってきたフィーがパドマを真似て剣を振った。


「なるほど、こうすればあの防御を突破できるのですね?」


「パドマくらい経験を積めばできるだろうが、お前はまだ無理だろうな。練習するなら、この襲撃が終わった後だ」


「むー、私にも活躍させてください」


「練習してない技を本番で使えるわけがないだろ。ほら、次の相手が来たらしいぞ。今はしっかりと経験を積む時だ」


森の奥を見るのと同時に、甲高い笛の音が響いた。

エルフからの警告音は三つ。三匹のウェアウルフが壁を抜けたということだ。これは少しマズいかもしれない。

俺が安全に受け持てるのは一匹だけだし、パドマも同じだ。他のメンバーは少しは休めたのか陣形を整えているが、それでも同じくらい戦えるとは思えない。ならば別の方法をとる必要があるだろう。

指示を出そうと周囲を見ると、フィーが前に出た。


「今度こそ、私がやります」


「ダメだ。お前はパドマたちと一緒に戦え」


「でもそしたらどうするんですか?私たち全員でなら二体いけると思うんですが」


「そうなる前に、もうひとつ手を打っておく。ミミル、やってくれ!」


櫓にむかって手を振ると、元気のいい返事が返ってきた。

櫓に固定されたバリスタに赤い光が集まり、それが大きくなっていく。普通に撃ったら反動で狙いがブレてしまう大技も、しっかり固定できれば狙い通りの場所に撃つことができる。


「いくだよ!【グレープ・ショット】!!」


スキルの光とともに放たれた砲弾が、森の奥へと一瞬で消える。直後に二度目の爆発音が聞こえた。

様子をうかがっていると、森の奥から三匹のウェアウルフが出てくる。だがそのどれもが体の一部が欠けていて、今にも死にそうな様子だった。


「囲め!一気に叩くんだ!!」


「「おう!!」」


ボロボロだったウェアウルフたちはろくな抵抗もできずにドロップアイテムへと変わっていった。





間を置いて、警告音が一つ鳴った。もうこれでウェアウルフは打ち止めなのだろう。

俺たち最後の一匹とが戦っている間に雑魚の処理が終わったらしく、弓エルフ隊も駆けつけてきてくれた。

そうして、俺たちはモンスターの襲撃を乗り切ることができたのだった。

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