第73話 暴れる姫騎士にお目覚めを

盾に群がっていたモンスターを倒してフィーの元へ駆けつけると、モンスターに囲まれていた。

モンスターを圧倒しているようではあるが、それがいつまで保つかは分からない。

指をくわえて見ているわけにはいかない。


イシャンはモンスターにあまり狙われていないようで、傷は少ない。それでもある程度モンスターを受け持ってくれていたようで、フィーがまだ戦えているのはそのお陰もあるのだろう。


「残っているのは雑魚ばかりだ、今のお前らなら落ち着いて対処できる。仲間と連携して戦うんだ」


イシャンと槍持ちたちに残りのモンスターを倒すように言って、俺はフィーに向かった。


「フィー、もう大丈夫だぞ。落ちつ……おおっと!」


近づいて声をかけたとたん、目の前で剣が振り抜かれる。当たらなかったが、顔に当たった風圧が剣のそれではない。

だがビビっているわけにはいかない。フィーから感じられる魔竜の魔力が、少しずつ強くなってきている。今すでに理性がないのに、このまま放っておいたらどうなるか分からない。


振り回される剣に技術はない。俺もパドマに訓練をしてもらっているので、対応することはできる。問題はバカみたいな力だが、体力と重量に自信がある俺ならなんとかなるだろう。

叩きつけられる剣をいなし、盾に盾をぶつけてバランスを崩させる。

無理な体勢からなおも動こうとしてくるが、それは自分で隙を大きくしているようなものだ。振るわれる腕を受け流しつつ足を払えば、簡単に地面に転がった。

倒れた衝撃で手放した剣を蹴飛ばして、胴の上に馬乗りになる。なおも暴れようとするので両腕を押さえつけるが、全体重をかけないとはね退けられそうだ。


「フィー、落ち着け。俺だ、分かるか?」


「うがあああぁぁぁ!ぬうううぅぅぅ!」


完全に理性が飛んでいるようだ。あまりやりたくなかったが、覚悟を決めるしかない。


「舌を噛むなよ!」


噛みつこうとしてくる頭に向けて、勢いをつけて頭突きをかます。鈍い音が聞こえ、目の前に星が飛ぶ。痛いが、大した事じゃない。

抵抗が弱まったので下を見れば、涙目のフィーと目が合った。


「痛いです。そんな無理に起こさないでもいいじゃないですか」


「寝ぼけるな。今の状況を分かっているのか?」


「え?えーっと……あれ、なんで外で……あっ、そうだ!敵は、どうなりました?」


正気付いたようなので手を貸して立ち上がらせる。キョロキョロと辺りを見回すが、すでに残りのモンスターは倒されていた。


「見ての通りだ、もう終わったよ」


「あうう、活躍したかったのに。ごめんなさい」


分かりやすく肩を落として落ち込んでいるから、すぐに叱るのはなんだか可哀相だと思えてしまう。

こういうときは、どういう風にすればいいんだっけか?


「ええと、自分の何が悪かったか分かるか?」


「その、周りが見えてませんでした。私もすごいんだぞってところを見せたくて、モンスターに向かっていったら囲まれちゃって、まともに戦えませんでした。役に立てなくてごめんなさい」


この様子だと、暴走している時のことは憶えていないのだろう。理性があったならまだしも、完全に暴走してるのなら自力で戻るのは難しそうだ。戦力に考えるのは危険だろう。


「原因は分かってるみたいだな、なら俺から言うことはない。これからはちゃんと言うことを聞いて、勝手に行動しないように」


「はい、分かりました」


これで同じ事はしないだろう。それにしてもあんな暴走をすると思っていなかった俺の予想も甘かった。

フィーの事はこれからも気をつけて置いた方がよさそうだ。





倒したモンスターの片付けはほどほどにして、迎撃位置に戻る。

エルフたちによればまだ次があるらしいので、もう一度迎撃態勢を整える必要がある。


「壁を抜けられるような小物は今ので終わったようだが、次は壁の穴を広げて抜けようとしている大物が複数来る。アレはおそらく狂騒状態のウェアウルフだ。難敵ではあるだろうが、先ほどのアレを見た後でなら、心配はいらなそうだな」


ブリセイダがフィーの方を見ながら言う。フィーは何のことか分かっておらず、あなどられたと思ったのか悔しそうだった。


「理性の無い獣であり、発生したなら周辺の環境を破壊しつくす怪物だ。ただこの周辺にそのような形跡はない。つまりは……」


「別な所で捕まえられて、ここに送り込まれたってことか」


「うむ。そしてヤツラが来た方向には、ヒュマの勢力圏だ」


うすうす予感はしていたけれど、やっぱりそういうことになるのか。

奴隷商人はヒュマの国の者だ。奴隷が着ていた服は奴隷商人が用意したものだろう。同じニオイがする服があっても不思議じゃない。

それを目印にして、モンスターをけしかけてきたのだろう。

どこにいるか分からない襲撃者を狙ったんだろうが、あの通商路には他の商人もいたはずだ。無関係の者たちまで巻き込まれかねないやり方には、とても腹が立つ。


「逃げ切ってやるのが、一番いい復讐になりそうだな。どう仕返しするかは後で考えよう」


「うむ、それがいいだろう。雑魚は我々が引き受ける。大物は貴殿らに任せたぞ」


そうして、最後の迎撃準備が整った。

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