第67話 襲撃事件の犯人は
通商路では多くの商隊とすれ違った。もう魔竜の素材のオークションが行われるという話が広まっていて、それ目的でゼニスにやってくる商人もいた。勇者の名前も魔竜討伐の話といっしょに広まっているらしい。
また、ヒュマ狙いの盗賊の話も商人の間で噂になっていて、護衛には亜人を使っているのがほとんどだった。
「もしかしてあんたらがやったんじゃないよな?」
聞き込みをしていた時、ヒュマの商人に言われた。口調は冗談めかしていたが、目には疑いの色が見えた。
「まさか。ヒュマ側から報復されるかもしれないじゃないですか。そんな危ないことしませんよ。犯人がわざわざ自分から顔を晒すようななマネしますか?きっとどこかに隠れて、騒ぎが収まるまでじっとしてますよ」
事件が起きてから数日経っている。ならば今は遠くの街で、略奪品を売り払っている頃だろう。俺は犯人の手がかりを見つけて報告すればいい。そう思っていた。だがこの商人は違う考えを持っていた。
「普通だったらそう思うだろうが、あの犯人たちはそうじゃないだろうな。今も近くで獲物を探しているはずさ。なぜなら……っと、まあそれはいいとして、辺境伯は商人ギルドから文句を言われてイラ立っているから、気をつけた方がいいぞ。噂じゃ軍隊を通すには時間がかかるから、非合法な手段で犯人を捕まえようとしてるらしい。お前らは何も知らないようだから、巻き込まれないよう気をつけろよ」
何か知っていそうだったが、逃げるように行ってしまった。
その後も聞き込みを続けたが、めぼしい情報はなかった。やっぱり現場へ直接行ってみるしかないだろう。
問題の道は、狭くて薄暗い一本道だった。視界は通りにくく、隠れ潜むのには最適だろう。
「こんな危ない道を通る人がいるんですか?私には信じられないのですが」
フィーが兜をカチャカチャいわせながら聞いてくる。まだ装備になれてないから、動きづらいのだろう。並んで歩いていたパドマが兜の止め紐を調整しながら答えた。
「よっぽど他の人に見られたくないものを運んでいたのでしょう。高級品を見せびらかせば悪い考えを起こすものが出てきます」
「そのためにこの道を通って襲われては本末転倒なのでは?」
「そ、それは……」
言葉に詰まってこちらを見てくる。しかたないなあパド太くんは。
「ここは見通しが悪いけど、実は通商路とはかなり近いんだよ。だから争う音が聞こえればすぐに駆けつけられる。通商路は人通りが多いから、自分の護衛が戦っているうちに応援が来てくれる。だから意外と盗賊被害は少なかったらしい」
「なるほどお」
冒険者ギルドで教えてもらったことをそのまま伝えているだけだが、感心してもらえるのは気分がいい。
「じゃあ、今回の襲われた人たちはなんで助からなかったんでしょう。たまたま近くに誰もいなかったんですか?」
「それは俺も不思議に思ったよ。だからギルドの職員に確認してみたけど、『間違いなく他の商隊が近くにいたが、誰も気づかなかった』と言われたよ。だからきっとそこに何か秘密が……」
「結界よ」
不意に、前を歩いていたザラが言った。
「ここから先に結界が張られているわ。アタシほど上手くないからすぐに分かったわ。現場はこの先だっけ?結界の中心は森の奥にあると思うけど、どっちへ行く?」
結界か。
結界を張れるくらい優秀な魔術師ならば、盗賊なんてしなくても雇ってくれるところはいくつもある。命の危険も無く、収入も安定する場所を捨ててまで盗賊になろうだなんて普通は考えない。それはつまり、相手は普通の盗賊じゃないということだ。
「結界があるってことは、まだこの森にいるってことか。なら現場は相手が待ち構えてる可能性が高い。結界の中心は相手の巣になってるだろうから、そっちを潰した方が早いだろうな」
「わかったわ。でもこのメンバーじゃ、隠れて進むのは無理そうね。一気に道を開くから、駆け抜けるわよ、いいわね」
言うなりザラが呪文を唱え始める。
止めようかと思ったが、ザラが言うことも一理ある。間違いなくバレるなら、一気に乱戦に持ち込むのも悪くない。
「ミミル、来い。フィーは走れるな?」
「大丈夫です」
「パドマは先頭を、ザラはそれに続いてくれ」
最後尾を歩いていたミミルを抱え上げて、走る準備を整える。
全員の準備が整ったところで、ザラが杖で地面を叩いた。
「『
目の前の木々が大げさに左右に分かれて道ができる。そこへパドマが飛び込み、俺たちが続いた。
「来たわね」
ザラが走りながら言う。
「まさか敵に見つかったのか!?いくらなんでも早くないか?このままだと横から襲われるんじゃ……」
「大丈夫よ。向こうもアタシに気付いたみたいだから」
「なんだよそれは。お前だと分かるとどうして大丈夫なんだよ」
「もう着くわよ。そしたら話すわ」
ザラは何か知っていた?いや、ずっと俺たちといたし、何かするような時間はなかった。じゃあ今の言葉はどういう意味だ?
疑問に思いながら足を動かしていると、先を走っていたパドマが立ち止まったのが見えた。
木々の切れ目の向こうを見ていたパドマが振り返り、戸惑った声を出す。
「グレイ殿、これは一体……」
パドマの横に並んで立つ。そこで見たのは、いくつかのテントと粗末な服を着た亜人たちだった。
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