第66話 冒険者登録と取り調べ

中央区から戻った俺たちは、冒険者ギルドでフィーの登録をしていた。

俺のように記憶がなかった者でも登録できたのだ。フィーが登録できないわけがない。

ステータスも見てもらったが、フィーはレベルは低いが基礎能力が高かった。担当した職員がしきりに褒めていたので、本人はとても上機嫌だった。


スキルの習得の話になった時、別な職員がやってきた。

俺と話がしたいというので、後をパドマたちに任せてメガネの女性職員についていく。案内された場所は窓のない小さな部屋で、なんとなく取調室を連想した。

席について早々、職員はメガネを光らせながら聞いてきた。


「突然で失礼ですが、今日までの五日間どちらにいたのか教えていただけますか?大変重要なことなので、虚偽判定もさせていただきます。よろしいですね?」


どうやら本当に取り調べされるらしい。

探られて痛い腹もないので、真偽判定も了承して正直に話す。水晶玉に手を置いて話すのだが、ウソをつくとビリっとくるのだとか。

フィーは勇者との取り決めどおり、あの商人に捕まっていた被害者の一人と説明した。ウソではないから反応しなかったので、よかったと内心でホッとする。

時間はかかったが、一度もビリっとせずに話し終わった。


「……なるほど、それは大変でしたね。勇者の子孫の方が来ているという噂は聞いていましたが、まさか本物でしかも魔竜と戦っていただなんて。中央区へ確認しますが、虚偽判定に反応がなかったので、問題は無いでしょう。ご協力ありがとうございました」


丁寧に頭を下げられた。疑いが晴れたようなのでよかったが、なぜこんな取り調べを受けたのかとても気になる。


「俺がなんで疑われたのか聞いてもいいですか?ゼニスに来てからも悪いことはしてないつもりなんですけど」


「そうですね、事情を説明するのが先でした。大変言いにくいのですが、グレイさんは、いえ、あなたのパーティはとある事件に関わっているのではないかと疑われています」


メガネのギルド職員は、まっすぐに俺を見つめて言った。


「とある事件?」


俺が中央区の地下で捕らわれている間に、何か起こっていたようだ。


「はい、ゼニスは比較的ヒュマ領に近い場所にあり、交易も行われております。当然ヒュマの商人も多数いるのですが、その商人たちが襲われる事件が多発しているのです」


「ヒュマの商人だけがですか?」


「そうです。亜人の護衛を雇っていたり、亜人の商人がヒュマの護衛を雇っている場合は見逃されています。ヒュマの商人がヒュマの護衛を雇っている場合のみ襲われているのです」


亜人の護衛がいる場合も襲われない、か。だとすると犯人は金目当てではなく、ヒュマに強い恨みを持っているということか。


「その襲撃者はエルフ、ドワフ、ドラゴニュート、そしてその他の亜人であるとの目撃情報があります。なので……」


「俺たちが疑われたというわけですか」


納得した。ザラはヒュマを嫌っていることを隠そうとしないし、パドマもミミルもその影響か、あまりヒュマに近づかないようにしている。


「冒険者ギルドへは、商人ギルドから問題解決するように依頼が出されています。ゼニス市からも解決を急ぐように話が来ているので、今回のような少々強引に協力していただくことになりました」


そういえば魔竜素材のオークションがあるのだから、ゼニス市としてもそれに影響が出るのは避けたいだろう。開催日までまだ時間があるからいいが、時間が経てば経つほど捜査は厳しくなるに違いない。

狙われているのがヒュマだとしても、平和に暮らしている亜人が疑われるのは腹が立つ。


「少し話しすぎましたね。グレイさんは聞き上手なので、ついつい話してしまいます」


「女性の話を聞くのには慣れてますから。ちょっと聞きたいんですけど、ギルドに依頼が出てるって言ってましたよね?俺たちがその、商人襲撃事件を解決してもいいですか?」


「えっ、それはもちろん、かまいませんよ」


女性職員は意外そうな顔で言った。






「それでなんで、アタシたちがヒュマを襲う犯人を見つけなきゃならないのよ。そんなにあの職員にいい顔したかったの?」


現場に向かう道すがら、予想通りザラに文句を言われた。


「違うよ、むしろお前ら……じゃない、俺たちのためだ。だいたいのパーティは同じ種族で固まるけれど、俺たちは種族がバラバラだろ?犯人たちも色んな種族がいるらしいから、俺たちは疑われやすいんだよ」


「疑われるって、アンタはギルドの取り調べで潔白を証明したじゃない」


「冒険者ギルドがそうだと言っても、ギルドを信用しているヤツしか信じない。ゼニスは大きな都市だから、色んな人がいてその大部分は冒険者ギルドとは関係ない。ただ多種族のパーティってだけで疑われるのさ」


そう説明しても、ザラは不満そうなままだ。

ちょっと重くなった空気を変えようとしたのか、パドマが間に入ってきた。


「それでワタシたちは現場に向かっているワケですよね。ヒュマの商人が襲われているとのことですが、通商路なら人目があると思うのですが、他の商隊からの助けなどはなかったのでしょうか」


「それがなんでか知らないんだけど、どれも普通の通商路から外れているみたいなんだ。詳しく聞きたかったんだけど、商業ギルドから口止めされてるらしくて教えてもらえなかった」


「普通の通商路から外れているというと……」


「あっちの森の中に、馬車が通れる別の道があるらしい」


ギルドから教えられた事件現場は、整備された通商路からはよく見えない森の中だった。

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