第57話 中央区での聞き込み

簡単な検査を受けただけで中央区へと入ることができた。

中央区は古くからあると言われるだけあって、趣のある外観のものが多い。そしてしっかりした地面があるためか、背の高い建物がそこら中に建っていた。


「それじゃあまずは中央区役所へ行こう。あそこに時計塔が見えるだろ?あれが目印だ。ゼニスのお偉いさんから許可をもらえば、中央区の中を自由に見て回れるようになる。普通じゃ見られない所も行けるようになるし、きっと面白いよ」


ジークロードが先頭を切って歩き出すが、ザラたちは動かなかったのですぐに振り返る。


「どうしたんだ?まず役所で挨拶しないと」


「勝手に行ってきなさいよ。アタシたちはアタシたちで調査するから。あ、そうだ、ここまで連れてきてくれてありがとね」


「やっとお礼を言ってくれた……じゃくて、中央区は普通の人が入れる場所は限られているんだぞ。許可がないと警邏ガードに捕まる。そしたら人探しどころじゃないだろ」


「ジーク、彼女たちの探し人のことなんだけど、たぶん役所の許可は必要ないわ」


「お前、何を言ってるんだ」


ジークロードは占い師にまるで後ろから撃たれたような顔を向けた。


「誘拐犯は街のそこら辺にいるシロウトを使ったのよ。お偉いさんが関わっているのなら、そんな信頼できない者は使わないわ。役所で調査の許可がもらえたなら、それの裏付けにもなるわ。隠すものなどないってことだから」


「じ、じゃあどこに隠してるっていうんだよ。中央区の中は警備の目が行き届いてる。それなりの権力がなきゃ、隠したまま運ぶなんてできないぜ」


「なら、街中を運ばなければいいのよ」


占い師の言葉に、ジークロードは頭をガシガシとかく。


「んーーー、お前は何を言いたいんだよ。わけがわからない。とにかく役所に行く必要がないないんだな。なら思いつく場所から探すか?」


「いいえ、役所に行く必要はあるわ。忘れたの?私たちも目的があってここに来ているのよ。ザラさんたちを手伝うのは、言い方は悪いけど、そのついでなの。しっかりしなさいよ」


「なんでオレが怒られなきゃならないんだよ。そういう流れだったか?」


意見を求められた二人の仲間は、そろって深くうなずいた。


「話し合いは終わった?ならアタシたちはもう行くわよ」


「待った、ザラさんは中央区の道を知らないだろ?オレは地図をもってるんだ。役所へはコイツらが行けばいいし、オレが案内するよ」


一歩踏み出したジークロードを制して、占い師が前に出る。


「私が一緒に行くわ。いつも面倒くさい手続きは私にばっかりさせるじゃない。たまにはジークも苦労しなさい」


「そんな、ウソだろ?」


「ジークに案内させたら、観光スポットしか行かないでしょ。それじゃあいつまで経っても見つからないわ。それに、女同士の方が安心できるでしょ」


「そういうわけだから、行きましょう」と、占い師はザラたちの前を歩き出した。

その後姿をジークロードが悲しそうな顔で見送っていた。






「あなたたちの情報から考えられるのはこの倉庫街よ。何らかの方法を使ったにしろ、警備の目をかいくぐるのは簡単じゃないから、船はずっとは使えない。この近くには昔に使ってた小さな船着き場が残っているし、大きな倉庫の中なら隠しやすいわ」


占い師が案内したのは、寂れた倉庫街だった。昼間だというのに人の気配は少なく、川を流れる水の音がよく聞こえている。


「たしかに、昨日調べた場所が向こうに見えますね。グレイ殿を運んだというなら目立ちそうですが、この人の少なさからするとあまり期待はできなさそうですが」


「精霊もあまり多くないわね。これじゃあ使える魔術も限られるわ」


「街中で魔術を使ったら怒られるべ。んなことよりも、近くにいる人にグレイさのこと知らねか聞いてみるべさ」


さっそく小さな倉庫で作業している者たちから日陰でじっとしている老人まで、目につくもの片端から聞いてみたが、目ぼしい情報は得られなかった。


「手がかりはないけど、どこかちょっと怪しいわ。魔術を使えればいいのに」


「ザラさが勝手できなくて良かっただよ。無関係の人にまで魔術をかけたらダメだべ。怒られちまうだよ。それよりここで聞ける相手はもういねえなら、向こうにも行ってみるべか?」


ミミルが見た方向には、目立つ色の看板が並んでいた。

看板には色っぽい姿をした女性が描かれていて、字が読めない者でもそれが何を表しているのか簡単に分かるようになっている。


「色街ね。確かに情報が集まりそうだけど、ちょっと離れているから期待はできないわよ?」


「いえ、いい考えだと思うわ。グレイが何日もしない・・・で耐えられるはずないもの」


「え?」


「そうですね」「んだな」


「え?え?」


「じゃあさっそく聞き込みに行きましょう」


「本気なのそれ」


占い師のつぶやきは、先を行く三人の背に届いていないようだった。






人が集まる色街といえど、今は昼なので外に出ている者は多くない。

店の前で気だるげにしている娼婦がいたので話しかけると、無言でタバコを要求された。タバコはありふれた嗜好品ではあるが、ザラたちは吸わないため持っていない。おもわずお互いの顔を見合わせた時、占い師が箱ごと横から差し出してきた。


「ふうん、気前いいのね。あなたが男だったらサービスしてあげるんだけど」


「そういうのはいいから、あっちの倉庫に関して詳しい人を紹介してほしいんだけど」


彼女たち娼婦は金に関してシビアであるが、金に正直だとも言える。協力する利益をはっきりさせれば、その分話は早く進む。

タバコを受け取った娼婦は一本だけ取り出して確かめ、感心したようにつぶやいた。


「ベステリア王国の本物じゃん。あーし触ったの初めてよ。あーた何者?っていいや、倉庫のことだっけ?だったらきっと誰に聞いても同じよ。あっこでしばらく住み込みできる女を募集してるわ、一人だけ。しかもオマケに炊事洗濯までさせようってんだからあーしらのことナメてるわよね。支払いも大したことないし、行くやつなんていないわよ。あーたたちも良さげな売り言葉に釣られて来たんだろうけど、やめとーたがいいよ」


娼婦の言葉に、ミミルとザラは目配せしてうなずく。パドマと占い師はそんな二人の様子には気づかず、怪しい荷物を見たことはないかなどの質問をしていた。

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