第55話 占い師の導き
◆◆◆
占い師との話が終わり、二人の亜人女性はカフェを出て行った。
ドラゴニュートの方は頭を下げたが、エルフは終始ツンとした態度だった。
彼女たちが出て行った扉を見ながら、ジークロードはため息をついた。
「はあ、まさかあんなキレイな人が探しているのがオーカスだなんて。もしかしたら彼女は悪い奴にだまされてたりするんじゃないかなあ」
「都合のいい妄想に浸って喜ぶなんて、大変キモいですよ。勇者の子孫のすることじゃありません」
占い師の女が、ジークロードの女々しい言葉をバッサリ切り捨てる。
「でもさあ」
「あのエルフの警戒心の高さはジーク自身が分かっているでしょう。それほどの警戒心がありながら、見知らぬ人間に行方を占ってもらうほど心配しているのです。あなたに勝ち目はありません」
「なんだよそれ。もっと優しい言い方してくれてもいいじゃんよ」
「調子に乗って勘違いして恥をかかせないための配慮です。今なら心の傷にもならないでしょう」
「ぐぬぬ」
はがみするジークロードを見つめる占い師の顔は、言葉とは裏腹にやさしく微笑んでいる。
そんな二人のやりとりが終わったのを見て、小柄な男が話しかけてきた。
「なあ占い師さんよ、勇者くんのしりぬぐいするのはいいけどよ、教えるだけでお別れしたのは失敗だったんじゃないか?対価に情報を聞くくらいしてもよかったろうに」
「対価なら十分いただきましたよ」
「は?」
「話をちゃんと聞いていたのかしら。私が彼女たちとどんな話をしていたと思うの?探し人はここでいなくなった。その重要な手がかりはこの街にある。だからこの街での行動範囲を詳しく聞いたのよ。このゼニスで活動する冒険者のよく行く場所のことを」
「ああー……、なるほど」
彼女の言うことがだんだんと頭に染みてきたのだろう。小柄な男は感心したようにうなずいた。
「冒険者ギルド、宿屋、アパート、食事処、鍛冶屋、道具屋、それから行くべき場所と近づかない方がいい場所。言われてみればオレたちにとってこれ以上無い貴重な情報だな」
「ええ、彼女たちには感謝しなければなりません。探し人が早く見つかるといいですね」
占い師はにこやかに微笑んだ。
◆◆◆
パドマとザラは、大きな橋の下に来ていた。
グレイを最後に見た場所である店から冒険者ギルドへ向かう道をつなぐ橋、その下を通る裏道の橋だ。
人通りは少なく、通りかかる者たちは二人へとぶしつけな視線を向けていく。
なれなれしく触ろうとしてきた若者の腕をひねり上げてグレイを知らないか訪ねれば「知ってるかもしれないヤツを連れてくる」という胡散臭い答えが返ってきた。
「あの占い師の言うことは正しかったようですね。これで少しでもグレイ殿に少しでも近づければいいのですが」
「いなくなった場所のすぐ近くって当たり前のような気がするけど、でもアタシたちが気づいてなかったのも確かね。はっきり言って悔しいわ」
ザラは自分の杖をぶんぶんと振り回す。杖の先で足下をカツカツ叩く様子は、遠くから見れば相手が遅いためにイラ立っているようにも見えるのかもしれない。
先ほどの若者が逃げ腰になりながら、ガラの悪い男を数人連れて戻ってきた。
「アンタたちがグレイを知ってるヤツ?」
「ふうん、なかなかいい女どもじゃないか。よくやった、お前はもう行っていいぞ」
リーダー格の男は若者を追っ払ってから、ザラたちに向き直った。
「姉ちゃんたちはあのブタ野郎の知り合いかい?残念だったな、あいつを探してた人がいてな、今はその人の所にいるんだよ。姉ちゃんたちがどうしてもっていうなら、案内してやろうか?案内料はもちろんもらうけどな」
ザラはリーダー格の男が顔へと伸ばしてきた手を叩き落とした。
「汚い手で触らないでよ、どうせ今どこにいるか知らないんでしょ。それを知っているヤツを教えなさい」
「ちっ、バカな女だな。やさしくしてやろうと思えばつけあがりやがって。大人しくついてくればよかったと後悔させてやる」
リーダー格の男が指示をすると、背後にいた男たちが二人をとり囲んだ。
パドマがザラを庇うように前へ出る。
「素直に教えておけばよかったと、そちらが後悔することになりますよ」
「やれるもんならやってみやがれ!」
合図と同時に襲いかかってくる男たちを、パドマは的確にいなしていく。相手はチンピラではあるが複数いるとさすがのパドマも瞬殺とはいかない。だが確実に攻撃を受け止め、避けて反撃することで、すぐに手下の男たちは道の上に倒された。
「これで終わりのようですが、素直に話す気になりましたか?」
「で、デカいクチ叩くだけはあるじゃねえか。だが後ろを見ても同じことを言えるか?」
パドマが振り返る先、ザラのすぐ背後に先ほどの若者が忍び寄っていた。ザラが遅れて振り返るより早く若者の腕がのび、その背中に棒のようなものを押し当てる。次の瞬間、電撃がそこから放たれた。
「電撃による麻痺を起こす魔導具さ。お前も喰らいな!」
パドマが振り返った隙に走り寄っていたリーダー格の男が、パドマの肩に電撃の魔導具を押し当てる。
電撃が放たれたことを確認したリーダー格の男がやってやったと嗤うが、次の瞬間に驚きの表情に変わる。
「なるほど、雷に注意ですか。占いの通りですね」
「ますます悔しいわね。ヒュマの言葉に助けられるなんて屈辱だわ」
ザラたちの周囲には、水の精霊の気が満ちている。
ここは川の上にかかる橋の上であり、水の精霊はすぐ近くにたくさんいる。先ほど男たちを待っている間にザラは水の精霊へと呼びかけ、雷をそらす守りを自分たちにかけていたのだ。
パドマのこぶしがリーダー格の男を吹き飛ばし、ザラの杖がなれなれしい若者を打ち据える。そうして倒れた男たちに向かって、ザラが杖を突きつけた。
「さあ、大人しく白状するか無理矢理言わされるか選びなさい」
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