第54話 捜査の基本は足でする

パドマはずっと聞き込みを続けていた。

オーカスいう種族は亜人の中でも数は多い方であるが、だいたいが同種族連れで行動したがる。そうでなかったとしても単独行動を好むものはいない。

グレイのような一人で行動する者は珍しかった。

なのですぐに目撃されればすぐに分かるはずなのだが、そのような目撃情報は全くなかった。


冒険者ギルドから始めてよく行く場所を中心に捜索するが、誰も見ていないと言う。

まさかと思い出入りの門でも確認してもらうが、記録には残っていなかった。

門番の詰め所から出て途方にくれる。

パドマは、どうすればいいのか分からなくなっていた。

やるべきことが示されていれば、それに全力をかけることができる。やり方がわかれば、その通りにこなすことはできる。でも、それが上手くいかなかった時、やるべきことが分からなくなった時、パドマは動けなくなってしまった。

出国用の門には人々が途切れることなく並んでいる。彼らにはそれぞれ目的があって外へいくのだろう。パドマはそれをただ眺めることしかできなかった。


そうして、どのくらい立ち尽くしていただろう。不意に声をかける者があった。


「パドマ、こんな所にいたのね。収穫はあった?」


「ザラ、さん?いえ、何もありませんでした。ところでどうしてここに?」


「パドマと同じよ。アイツが外に出てないか聞きに来たんだけど、アタシの手間が省けただけみたいね。どこまで調べたか、情報交換しましょ?」


ザラに引っ張られて、近くのカフェへと向かう。最初は断ろうとしたのが、タイミング良くお腹がくぅと鳴ったので、うつむいて付いていくことになった。


冒険者が行き来する門も近くなのもあって、カフェといえど腹持ちのいいメニューもある。パドマは迷わずそれを選び、ザラは苦笑しながら少し軽めのものを選んだ。


「それで、どうだったの?」


「すいません、成果はありませんでした」


食事をしながら、パドマが経過を報告する。ザラは相づちをうちながら、その一部始終を聞いた。


「……ということでした。誰も知らないって、まるで煙のように消えてしまったようで、わたしは、また、おいていかれたのでしょうか」


「アイツがそんなことするわけないでしょ。前に誓ってたじゃない。アイツはアタシたちをを放さないってさ。しっかり覚えてるでしょ」


「そうですが、もしかして心変わりでもしてしまったのではと考えてしまって。わたしはどうしたら……」


小さな声でぐちぐちと続けるのをさえぎって、ザラが顔を近づけて言う。


「よく考えてみなさい。アイツがアタシたちと離れたらどうなると思う?きっと娼館に通い詰めることになって、すぐに借金まみれになるわよ」


「ああ、それはありえそう……」


パドマは数秒固まってから、表情をぱっと輝かせた。


「そう、それです!娼館を探してみれば!!」


「もう行ったわ」


「え??」


「アタシはそっちを中心に探してみたの。だけどそれらしきオーカスは見てないってさ。昨日今日だけでなく、その前もね」


「そう、ですか」


パドマは気が抜けたように、イスに深く座った。そのまま黙ったままの時間が続く。

カフェの客が何組か出て行き、入れ替わりに数人の男女がが賑やかに話しながら入ってきた。遠くから来たのだろうその者たちはヒュマばかりであり、辺りを物珍しそうに見回している。

それを見たザラの表情が硬くなる。男の一人と目が合ったからだ。

ザラはすぐに視線を外したが、男が微笑みながら近づいてきた。


「そこのキレイなお嬢さん、ちょっと聞きたいことがあるんだけどいいかな?オレたちはこの街に来たばかりで、いろいろと教えてほしいんだ。君のような美しい人が案内してくれたら、とても嬉しいんだけれど……」


ザラははっきりと無視するが、男は話を続けた。


「あの、キレイなお嬢さん?美しい人?えーと、美人さん?スレンダーなお方?なあオーイこっち向いて……。おい聞こえてんだろオイ!」


「はは、シカトされてやんの。ダッセー」


「ちょっとやめなさいよ。そんなこと言ったらカワイソウでしょ」


仲間たちの声に男は顔を赤くする。

引っ込みが付かなくなったのか、男はザラのすぐ横まで近づいた。


「なあオイ……」


「うるさいから黙ってどっかいきなさい。迷惑してるの」


目線もくれずにバッサリ切られて、男は一瞬呆気にとられる。バカにされたと思った男が腰の剣に手を伸ばすが、その手首が横から押さえられた。


「街中で武器を抜くのなら警邏ガードを呼びますよ。あなた方もそれは困るのではないですか?」


パドマが男の後ろに立っていた。


「オレの邪魔をするな。この手を放せ」


「お断りします、ワタシの仲間に手出ししようとする者を、黙って見過ごすことはできません」


「おいっ、お前ら、コイツをなんとかしろよ」


「やだよ。ガード呼ばれたくないし」


仲間が役に立たないと分かった男は空いている手でパドマの手を引きはがそうとするが、指の一本も動かせない。

ならばとパドマへ手を出そうとするが、それも掴まれぐるりとひねられ、後ろ手に拘束されてしまった。


「あなたはもう少し落ち着いて行動しなさい。そうでないと、すぐに命を落とすことになりますよ」


「くそ、離せよこのデカ女。オレは次代勇者、ジークロードだぞ、こんな扱いしていいと思ってんのか」


「威張るのなら、それに相応しい品格と実力をつけてからにしなさい。でないと笑われるだけですよ。そこの笑っている人たちも、従者だというなら主人の愚行を止めるのが忠義ですよ」


「従者じゃないんだけど、そいつが捕まるのも面倒なんだよね」


「ちょっと待ってくださいな」


拘束された男を見てやっと立ち上がりかけた仲間たちだが、その後ろにいた女が微笑んで言った。


「同行者がご迷惑をおかけして申し訳ありません。お詫びと言ってなんですが、あなた様の大切なお人の居場所を占わせていただけませんか?」

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