第51話 幕間 男たちの飲み会 後編
料理も酒もなくなり、話すこともなくなってきたころ、リョウゾウが思いついたように切り出してきた。
「そういや、いい装備があるんだ。買わないか?」
「装備?もらったヤツとは別だよな。でも性能はゲームよりも劣化してるって言ってただろ。代えがあってもいいかもだけど、そんなに多くはいらないな」
「いやいやいやいや。数値は確かに弱くなってるかも知れないけど、特殊効果はちゃんと残ってるんだよ。むしろそっちが便利なくらいさ」
それならいいのかもしれない。が、なんでそんな便利なものを手放そうとするのだろうか。
「オレたちは自分に合った別なのがあるからな。エロイサもピピリリも後方支援型だし、アタッカー向けは必要ないんだ。それに魔術士装備にも、ぶっちゃけ上位互換もあるし。アイテムボックスを圧迫するくらいなら、金にした方がマシなんだよ」
「素直に信頼できる人に売りたいって言えばいいのに」
「うるせ」
ありがたい話だが、余分な金はあまりない。ゼニスは商人の街だけあっていい物が集まり、その分物価が高い。
これから先がどうなるか分からないので、無駄遣いはしたくなかった。
「くくく、そういうなよ。きっと気に入ると思うぜ。各種能力アップが取りそろえてあるが、なにより注目すべき所は……まあ見れば分かる」
そう言って卓上に並べられたのは、水着を始めとしたセクシー装備だった。
「夏が来る度に追加される水着。客寄せ用の奇抜な服。新たなデザイン、新たな能力。集める必要はないと分かっているが、それでも買わずにはいられない。自分では装備できなくとも、サブキャラやマネキンを使って楽しむことはできる。だからオレは集めた。お前だってそうだったろう?」
「気持ちはわかる」
とあるゲームでセクシー装備が大量実装された時には、思わず俺も始めようかとしたほどだ。
「特別価格で売ってやる。有効につかってくれ」
「できれば着用した姿をスクリーンショットで送ってね」
「それは断る」
そんなわけで、所持金の半分以上が減ることになった。だが後悔はしていない。
「それでこのような装備を買ってきたのですね」
「ふうん、なかなかいいじゃない」
「いろいろ見たことないのがあるだなあ」
見せたら白い目を向けられるかと覚悟していたが、思ったよりも興味津々のようだ。全員に複数枚買ってはあるが、似合いそうなのを俺の独断で選んでいるので偏りがある。
パドマはビキニ系を体に合わせている。メリハリがあり筋肉もついているから、露出が多くても健康的で健全だ。
ザラも水着に興味があるようで、多めに用意してあるコスチューム系には目もくれない。特殊能力的に合っているから是非とも着てほしいのだが。
まあ水着は服の下にも着れるから効果を重ねられるのだけれど。見れないのはちょっと残念だ。
ちょっとしたファッションショーみたいだなと思っていると、ミミルがひとつの服を持ってきた。
「これはなんだべ?同じもんがもう持ってるはずだあが」
「それそれ、すごいやつだぞ。付属してる効果がミミルにぴったりだと思って用意したやつだ」
それはどう見てもエプロンだった。家庭で使うような、ピンクのかわいいエプロン。その名もスイートハニーエプロン。
「料理・裁縫系の技能に大幅な+補正がかかるんだ。実は今回買った中で、一番高いんだぞ」
「本当だか!それは大切にしなきゃならねえな。ありがとう、感謝するだよ」
ミミルの分は他の二人よりも少なかったが、値段ではダントツだった。
後方支援が多いミミルは、ステータスアップ系よりもこっちの方が合っている。前準備の段階で強化できるので、より安全に依頼をこなすことができるだろう。
さらに驚くべきことにこのエプロンは男でも装備ができる。どうでもいい情報だ。
「みんな気に入ってもらえたみたいだな。喜んでもらえたならよかったよ」
「どうしてもって言うなら、使ってあげてもいいけど?」
「グレイ殿からの贈り物、大切に使わせていただきます」
「ところでグレイさはどれを着て欲しいだ?いろいろあってオラ迷うだよ」
どれでも似合うと言いかけて、リョウゾウに言われたことを思い出した。
あいつはこの装備を渡す時、まさにこの状況を予測していたのだ。
「そ、そうだな。こっちのとかがカワイイと思うぞ」
内心で緊張しながら、それぞれに服を選んでいく。不満の言葉がなかったので、及第点はもらえたのだろう。
こうして、意外なことで戦力アップをすることができた。
そして当たり前の結果だが、当座の目的は金を稼ぐことになったのだった。
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