第50話 幕間 男たちの飲み会 前編

テレグ山から帰って数日後、リョウゾウ達がワイドビーク村に戻ることになり、その前に男だけで飲み会をすることになった。

理由はもちろん、男の友情を深めるため、ではなく、元の世界の話をするためだ。


ここがゲームの世界に似ているとは俺も思っていたが、リョウゾウとキルマーはちょっと違うと思っていたようだ。


「オレたちは最初は完全にゲームの世界に来たんだと思ってたんだよ。でもよ、色んな部分が違ってたんだ。困ったのは装備が弱体化してたことだな。余裕のはずの雑魚の攻撃も、当たるとけっこう痛いんだよ」

「武器もそうだよ。一発で倒せるはずの敵でも、戦いに慣れてないとあんまりダメージが通らないんだ。魔術とかスキルの方がゲームに近くて使いやすかったくらいだよ」


つまりはゲーム的に数値化されていた部分が現実に寄ったという認識でよさそうだ。ただ、俺のバカみたいに高い体力のように、ゲーム感覚のものも多い。


「そうそう、ステータスとかはゲームそのものだよね。毒とかの状態異常もパッとかかってパッと直せる感じ。かかると気分が悪くなって、薬を飲んだら一瞬でスッキリするとか不思議だよね」

「酒で酔うのも状態異常扱いだよな。二日酔いも簡単に治って助かるぜ」


リョウゾウは麦酒をぐびぐび飲む。

そういえば俺は以前は酒に弱かった気がする。相変わらずはっきりとは思い出せないが、酒に対していい感情は浮かばなかった。なのに今は普通に飲めている。


「って、そうだ。リョウゾウたちは、ここに来る前のことは覚えているか?ここってのはこの世界のことで、つまりゲームに入る前って意味なんだが」

「オレらはゲームをやってたぜ。それで気がついたらこっちに来てたな」

「そうそう。オレとリョウっちとフレンドとで毎日ゲームやってたんだけど、いつの間にか現実になってたんだよね。ゲームじゃないって気づいた後、確認のために殴り合ったりしたよ」


その時のことを思い出したのか、キルマーがリョウゾウの脇腹をつついた。それに対してリョウゾウが肩パンを放ち、キルマーが裏拳で腹を打つ。

音がする威力でじゃれ合う二人を見ながら考える。

気づいたら、いつの間にかここにいたということは、明確なきっかけがあって来たわけではないのだろう。


「つまり、リョウゾウ達も前の世界のことは覚えてないんだな?」

「まあな。ロスエン……このゲームをやりまくってたのは確かだけどよ、それ以外はうろ覚えだ。普通の常識は大丈夫なんだけどな」

「常識もダメだったろ。誘惑しようとして酒場でスキルばらまくとかよ」

「おいその話はもうやめろよ。あの時はマンガとかみたいにオレツエーができると思ってはしゃいでたんだよ」

「そうだねー。異世界転移ものってありふれてるけど、実体験できるなんて思ってなかったもんね。オレもリョウっちがいなかったら危なかったよ」


残念ながらあまり俺と変わりないようだった。

そっちはあきらめて、これからに使える話題に切り替える。

例えばゲームでの有用なスキルやアイテムの話。俺は時間つぶしにやっていた程度の知識しかなく、やりこみ勢の情報はとてもありがたいものだ。


「スキルの重複は知ってたけど、かなり複雑になってるな。知らないのもかなりあったし、試しながら覚えていった方がよさそうだ」

「つーかグレイの知識が古すぎなんだよ。VR版を知らないとかどんだけ田舎だったんだよ」

「VRくらい知ってるさ。ヘッドマウントディスプレイ付けるアレだろ。それにウチは田舎ちがう。いちおう首都圏だ。かろうじて」


電車で一時間以内に都内に入れたのだ。首都圏だろう?

そう思っていたら、リョウゾウに怪訝な顔をされた。


「はあ?首都県??それどこの国だよ」

「国って、日本に決まってるだろ」

「ニホンなら電脳率ほぼ100じゃん。ヘッドマウントディスプレイなんて使う必要ないだろ。棄民てほど落ちぶれてるようにも見えないし、なんで電脳化してないのか分からないんだが」

「待て待て、電脳とか、俺の時代じゃまだマンガの世界の話だぞ」


なにかおかしい。リョウゾウは嘘をついている様子はない。その隣にいるキルマーもリョウゾウの話に同意している。


「ええと、お前らって西暦何年産まれ?」

「「思い出せない」」

「奇遇だな、俺もだ」


背中に冷たい汗が流れる。

これは偶然じゃあない。記憶がはっきりしないのは、俺たちがここに来た原因に誰かの意思が関わっている。でもそれは誰だ?


そう思った瞬間、答えが浮かんだ。あの女神だ。


「なあ、お前らは女神に会ったか?」

「女神?ゲームでなら何回か倒したことあるけど、そっちじゃなさそうだな」

「こっちに来てからの話だ。野盗のアジトの隠し部屋に封印された女神像を見つけて、それと戦って破壊したら、その日の夢に出てきたんだよ」

「女神像?そんな敵はゲームにはいなかったな」

「それで、その女神に会ったらどうなった?怒られたとか?」


キルマーが興味津々で聞いてくる。

短い間だったがいっしょに旅をして、協力して戦ってきた。最初こそ人間性を疑ったが、いまではもう、悪い奴ではないのだと分かっている。

こいつらになら、話しても大丈夫だろう。


「その女神像は封印らしくて、それを壊した報酬だとかでスキルをもらえたよ」


名前はともかく、そこそこ使えるスキルであるのは間違いない。


「へえ。なら女神像を見つけて壊せば、オレらもスキルをもらえるのか」

「たぶんな。気配が普通の像とは明らかに違うから、すぐに分かると思う。反撃してくるから油断はするなよ」


出来る事なら俺も女神に確認したいが、あれ以来夢に出てこない。またあそこに行くには、女神像を破壊するしか思いつかない。

これからは積極的に女神像の情報も集めよう。

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