第48話 商都ゼニスへ

 テレグ山のふもとで先に逃がした村人たちと再会し、そこで夜明けまで休んだ。

 近くには正規の国境警備隊の拠点があるためヒュマの軍の心配がなく、さらにリョウゾウが秘蔵していた結界石を使ってくれたおかげで十分に休むことができた。

 日の出前に目が覚めた俺は、ひとりで近くにあった小川に来ていた。用を足して戻ろうとしたとき、ちょうど反対側から向かってくる人影があった。リョウゾウだ。少し疲れたようではあるが、スッキリした顔をしている。


「よう、おはよう。気分はどうだ?」

「最初に会ったのがアンタじゃなかったら最高だったろうよ。でも最悪じゃあないがな」

「なに言ってるんだよ。お前ら昨日はお楽しみだったんだろう?」

「あ、アレは飛竜のキモのせいだろうが!誰だよあんなの入れたのはよ。精力増強(中)とかバカじゃないか。てかそれ言うならそっちの方がお祭りだったじゃないかよ」

「たしかにな。もう俺は絶対に飛竜のキモは食べないようにするよ」


 昨夜はみんなが無事にピンチを乗り切れたということで、余った食料のほとんどを使って村人たちにご馳走を作ったのだった。その時に使った食材のなかに、レアドロップだった飛竜のキモが混ざっていたのだった。

 残念なことにまともな鑑定技能持ちはキルマーだけだったのでその発見が遅れ、精力増強効果が全員に行きわたってしまったのだった。

 その後は大事件の後とは思えないほどの乱痴気騒ぎになってしまった。

 村人たちは開拓の第一陣だったようで、働き盛りの者たちばかりなので効果は抜群だった。人一倍精力の強い俺も当然食べてしまっていたので大変だったが、人数が多かったのが幸いした。これが普段だったら、ザラたち3人がもたなかったかもしれない。少なくとも今日一日は動けなかっただろう。

 また、リョウゾウたちもそれぞれ無事にくっついたようだった。これで俺の心配事が少しだけ減った。


「エロイサのこと、頼んだからな」

「けっ、飛龍討伐の条件にする必要なんてなかったんだよ。オレは頼まれる前からアイツを手放す気なんてなかったんだからな」

「それを聞いて安心したよ。そういえば、あいつらを見つけたのは商都ゼニスだって言ってたよな?」

「ああ、ここから半日で行ける所にある大都市だ。ヒュマ領とも交易してるせいでかなり栄えてる。そこの奴隷商から引き取ったんだよ」

「奴隷商か。他にもいたんだろうな」

「売られてたヤツだろ。かなりいたぜ。残念ながらオレはそこまで金を持ってなかったからな。あの2人が限界だった」

「金があったら買ってたか?」

「……買わなくて正解だった。エロイサだけでオレは手一杯だよ」


 とても正直な感想だった。なぜか疲れたような表情であさっての方角を見ている。


「ああそうだ、ところでレベルは上がってたか?」

「露骨な話題の変え方だな、別にいいけど。レベル?そういや確認してなかったな」

「ワイバーンはけっこう経験値おいしいから、上がっててもおかしくないぜ」


 言われて自分のステータスを見ると、本当にレベルアップしていた。


【名前:グレイ

 種族:オーカス

 体力:212(+12)

 理性:75 (+5)

 状態:

 技能:超絶倫 調教Ⅱ ステータス窃視Ⅱ スキル隠蔽Ⅱ(女殺しⅡ)

    アイテムボックス+Ⅱ 地図表示

 EX:女神の許し】


 レベルは1だけだったが、スキルが軒並みレベルアップしている。心当たりがあるような無いような。『女神の許し』が別の欄に分けられているのはステータス窃視がレベルアップしたからだろうか?他にも変更点がありそうだが、すぐには見つけられそうもないので後回しにしよう。

 スキル隠蔽がレベルアップしてるので、今度はステータス窃視を隠蔽した。


「そういやリョウゾウよう、そっちのスキルってどんな感じなんだ?」

「どんな感じってのはなんだよ。別に変なものなんてないぞ。武器・防具・アクセサリーにそれぞれひとつずつ付いてて個人スキルが1つか2つ。キャパシティーによって複数付け外しできる後付けスキルと、あとは種族特性もスキルって言えるか」

「うっそ装備品にスキル付いてるのかよ。ぜんぜん知らなかったぞ」

「バカかよお前ら。この世界じゃパーティーにひとりは鑑定スキルか鑑定魔法を持ってるヤツ入れとくのは普通だぜ。てかだから鎧を渡してもリアクション弱かったんだな。あれ敏捷Ⅱとか付いてるんだぜ」

「本当かよ知らなかった。次に覚える冒険者魔法は鑑定にしておく」

「そうしとけ、絶対に使えるからよ」


 そんな話をしているうちに、他の人たちも起き出してきたようだ。何人かこちらへ歩いてくるのが見える。


「やべ、人が混む前に済まそうと思ってたのに、もう来るのかよ」

「引き止めて悪かった。ゼニスはここから半日だって言ってたよな?人が多いから今日の移動は大変だろうから覚悟しとけよ」

「りょーかい、リーダーさん。街までしっかり先導してくれよ」


 道を知っているのはお前の方だろとか思ったが、俺の地図表示マップサイトがあれば問題はないのか。アイツは頭がいいのかバカなのかイマイチ分からない。


「ああそうだもう一つあった」

「なんだよ」

「きのう使った結界石、余ってたら売ってくれ。野営するのに見張りが要らないとか便利すぎる」

「ゲームからの持ち込み品だから高いぞ。なにせモンスターどころか他の敵意ある侵入者も防げるチート性能だからな。数が少ないからそんなには売れないぞ」

「それでいい。少しだけでも、有ると無いとじゃ大違いだ」


 きのうの戦闘では負担もかけたし、お礼の意味も込めて多めに払っておいた。これで野営の時に少しばかり溜まって・・・・しまっていても問題ないだろう。






「あれが商都ゼニスか。なかなかすごい所だな」

「ほえー、大きいだなあ。オラこんなの見るの初めてだよ」


 商都ゼニスが見えたのは、陽が傾き始めたころだった。道中はモンスターも野党もなく、平和な道行きだった。

 背の高い外壁の内側に、ビルのような建物の頭がいくつも見えている。また、外壁を囲むように見慣れた木造建築の街が広がっていて、そのギャップがなかなかに面白い。


「ふん、この程度の街なんて大したことないわよ。アタシのいた森の方が広かったわ」

「森と都市を比べるなよ。それに人口はこっちの方が多そうだけどな」

「くっ、人が多ければいいってもんじゃないでしょ。アタシのいた森の方がいい所だったわよ」

「そうかもな。こっちもいい街でだといいな」


張り合う必要ないだろと思ったが、それを言うと長くなりそうなのでやめた。


「まだ街に着いたわけではありません。日が暮れる前に壁の中へ入りましょう」

「外側の街では休めないかな」

「あそこにいるのは我々のような冒険者と、それの相手をする商人たちがほとんどです。村人たちには向かないでしょう」


 頑丈そうな壁に囲まれているだけあって、検査は厳しいのかもしれない。現に門へ繋がる道には入門待ちの長い列ができている。

 列に近づいた辺りで門の方から衛兵らしき人がやってきた。冒険者ギルドに連絡をしておいたので、俺たちのことがちゃんと伝わっていたらしい。簡単な検査だけですぐに入ることができた。

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