第41話 飛竜討伐への道

 2日後、準備を整えた俺たちは四足鳥に乗って街道を走っていた。目的地はワイドビークから一日半ほど進んだ所。飛竜は数日前はもっと離れた場所に居たが、街道沿いにかなり近くにまで来ているようだった。

 戦闘が長引いた時のことも考えて多めに荷物を持って来てある。普通は車を引かせるらしいが、俺には大容量のアイテムボックスがあるので全員がほぼ手ぶらのまま四足鳥に乗れていた。


「おいグレイ、なんでアイテムボックスがそんなに大きいんだよ。普通はもっと別な魔法を憶えるだろ。お前バカなのか」

「リョウゾウさんはお黙りなんし。わっちらの分まで持っていただいているのにバカ呼ばわりするなんて失礼でありんすよ」


 エロイサに怒られてリョウゾウは不満顔だ。


「そうだよリョウっち。ここはボクらだけで飛竜を倒すから、グレイさんたちは見てて下さいって言うところだよ。ね、ピピリリ」

「……」


 キルマーは後ろに乗っているピピリリへと声をかける。ピピリリはキルマーにしがみついたまま俺をチラリと見て、すぐに顔を背けた。


「今回の依頼はワタシたちのランクアップがかかっています。あなたはワタシたちの妨害をするつもりですか?」

「パドマさ、落ち着くだよ。キルマーさんはそんなつもりではないだよ」


 キルマーはミミルのフォローにあわてて同意していた。

 パドマはまだリョウゾウたちを許していないらしい。俺もパドマの信頼を裏切らないように気をつけよう。


 あの会談があった次の日、キルマーが半日かけてリョウゾウを説得して、全員で頭を下げてきた。

 こいつらに出した依頼に同行する条件は三つ。

パドマたちにちゃんと謝ることと、キルマーが言っていた使ってない装備を譲ること。そしてあとひとつは俺のちょっとしたワガママだ。

 渡された装備は金属鎧と武器で、この周辺で手に入るものより格段に性能がよく、鍛冶屋の娘であるミミルも驚いていた。

 なんでそんな武器を使わずに、しかも売らずにいたのか聞くと

「新しく仲間になる人に渡そうと思ってたんすよ。記念品みたいなものでもあったし。つまりは貧乏性のおかげっす」

 と言われた。


 パドマもミミルも重い装備に慣れているのか、不都合を感じてはいないようだ。四足鳥を普通に乗りこなしている。

 ザラは精霊魔法の邪魔になるからいらないらしい。なんでも精霊は金属素材を嫌がるのだとか。

 俺もいちおうもらっているが、フル装備すると四足鳥が悲鳴を上げるので封印中だ。鎧の重さは以前のミミルほどではないが、素の体重がそれ以上だから仕方ない。装備は戦闘直前にすればいいだろう。






 適度に休憩を挟みつつ、かなりの距離を進んだ。

 地図からすると、このまま行けば明日の昼前には目的地に到着できそうだ。飛竜の移動可能距離を考えると、朝から警戒しながら進んだ方がいいかもしれない。

 そんなことを考えていたら、ザラが話しかけてきた。


「ねえグレイ。こいつら連れてきて本当によかったの?うるさいだけで邪魔になりそうなんだけど」


 リョウゾウが相変わらずグチグチ言い続けていたので、ザラもさすがに嫌気がさしたらしい。俺にはよく聞こえなかったが、気配察知の能力が高いザラにはうるさかったようだ。


「俺もそう思うが、実力はあるらしいから我慢してやってくれ。長くて明後日までの辛抱だ。相手は飛竜だし、油断はできない。なら、戦力になる奴が多い方がいいだろ」

「そうだけどさ、こいつらに恩を売ってあっちの女の子たちに何かしようとか考えてるんじゃないでしょうね」

「なにバカなことを言ってるんだよ。あの話し合いの時にも言っただろ。せっかく上手く収まりそうなのを邪魔するわけないじゃないか。俺ひとりじゃ全員を救えない。別なヤツがアイツらを救ってくれるんなら、それを手助けするのがイチバンだ」


 そう。それが俺のワガママである条件の3つ目。

 リョウゾウたちが連れてるエロイサとピピリリは、ゲーム時代の俺の被害者だ。その彼女たちを助けるのが俺の大目的なのだから、そのために協力してもらえるなら何だってするつもりだ。

 

「それでも、ウザイものはウザいのよ」

「わかったよ。あとで黙るように言っておく。それと調子が悪いなら休むか?トイレとかなら早めに言ってくれよ」

「何言ってんのよ、バカ!」


 杖で脇腹をつつかれた。







 その日の夕方、陽が傾いてきたころになってから野営の準備を始める。今回は燃料も食料も持ってきているので、集める手間はない。

 リョウゾウたちは普段の野営では料理らしい料理をしていなかったようで、ミミルの作った料理をしきりと褒めていた。


「おお、美味いなこれ。携帯食料を美味いと感じる日が来るなんて、思ってもなかった」

「外でこんなにいいもんが食べれるなんて、わっちも驚きんした。リョウゾウさんじゃありんせんが、ミミルさんと離れたくなくなりんすねぇ」

「えへへ、そんなに褒めてもらえるとうれしいだ。でもおらはグレイさのものだからな。グレイさとは離れらんねぇだ」

「それはとっても残念でありんすねえ。ならわっちだけでもグレイ様について行こうかしら」


 そう言いながら俺の方ににじり寄ってくる。

 そんなエロイサを、リョウゾウが慌てて引き戻した。


「だ、ダメだぞ!お前を買ったのはオレなんだから、そんな勝手は許さないからな!」

「もう、そんなことは分かっていんす。ちょっとした冗談ではありんせんか」

「お前の冗談は冗談に聞こえないんだよ。お前がいなくなったら困るんだから、そういうのはやめてくれ」

「まあ、リョウゾウさんもなかなか嬉しいこと言ってくださる。珍しいこともありんすね」

「え、あ、そ、そういう意味じゃないぞ!オレが言ったのはパーティーとして成り立たなくなるから困るって言ったんであっでだな」


 しどろもどろになるリョウゾウが面白いので、そのまま2人の会話を見守る。リョウゾウは口は悪いがエロイサのことを嫌っているわけではなく、むしろ気になっているのに素直になれない不器用なだけのようだった。

 つまり……。


「男のツンデレは見苦しいな」

「おい、いま何か言ったか?」

「いや別に何も」

「セリフが棒読みなんだよ。言いたいことがあるならハッキリ言えよコラ」

「そのセリフをそっくりそのまま返したいよ。やさしい言葉遣いで、ってのを付け足してね」

「は?どういう意味だよそれは」

「話はキルマーから聞いてる。個人の感想だけど、優しいだけじゃダメだからな」

「いやマテ本当になんの話だよ!!」


 こういうのは自分で気づかないと意味がない。現に、ピピリリ以外のメンバーは俺の言葉に深くうなずいている。

 リョウゾウは言動に反して純情だったというのが、あの日キルマーが話した中で一番面白いものだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る