第40話 酒場での会談
夜になり全員で酒場で待っていると、リョウゾウたちがやってきた。
エロイサは俺を見つけるなり、すぐそばまで来て頭を下げた。
「本日は無理を言って申し訳ありんした。本当ならわっちらの方が先に来るべきなんに、遅れてほんに申し訳ありんせん」
「気にしてないよ。それよりもまず座ったらどうだ?話はそれからでいいだろ」
「お気遣いに感謝いたしんす。ならお言葉に甘えて……」
エロイサが俺の対面に座ろうとするのを見て、リョウゾウが強く顔をしかめた。
「やっぱりこいつ顔は見たくない、飯が不味くなる。俺は帰るぞ」
「ちょっと!待ちなんし」
「なんだよ、こいつは俺らの依頼を横取りしたんだぞ。そんな奴と話し合えって言うのかよ」
「それとは別な話だとわっちは言いんした。昨夜はリョウゾウさんも納得していたではありんせんか。あんまりわがまま言うと、わっちも怒りんすよ」
エロイサに言われて憮然としながらも、リョウゾウはこっちを向いた。
「……昨日のことは悪かった。でもな、依頼を横取りしたことは許してないからな!」
それだけ言うと、リョウゾウは酒場を飛び出して行った。エロイサは申し訳なさそうに頭を下げて、リョウゾウを追っていった。
残されたキルマーが居心地悪そうにはにかみ、ピピリリがその影に隠れるようにこちらを見ている。
とりあえず挨拶をして、キルマーが俺の向かいに。ピピリリはその隣に座った。
「リョウっちのことはすんません。思ったようにならなくて、ちょっち焦ってるんすよ」
すでに料理は注文してあったので、キルマーが話し始めるとすぐに大皿が運ばれてきた。
「うちらは商都ゼニスからここまで来たんです。目的としては、飛竜討伐の依頼がこっちで受けられるって聞いたからです。知ってました?飛竜の素材って、並の鉄素材よりも丈夫なうえに軽いんすよ。ほら、うちらのパーティーって筋力強いのあんまりいないじゃないすか。だから軽くて強い防具ってマジ必須なんすよ。いやー、まえ使ってた防具もけっこうあるんすけど、なんか前より性能落ちちゃってて。こんなことになるんだったらネタに走るんじゃなく、もっと使いやすいのも取っておくべきだったかななんてハハハ」
キルマーは休むことなく話し通している。途中で何度か口を挟もうとしたが、必死そうにも見えて止めることができなかった。
「そういやゴツイ鎧余ってるんすけど要ります?あれデザインしたヤツ絶対バカですよ。だって動こうとすると鎧のパーツがぶつかってまともに動けないんすから。着れなくてもバラして素材にしちゃえばいいもの作れるんじゃないすかね。どっちにしろ重いの着ないんでいいんすよ。あ、その代わりといっちゃなんですが、うちらも飛竜討伐に参加させてもらえないかなあ、なんて」
こちらをうかがうような目。つまり今の言葉は冗談めかしているが、本気がかなり混じっているのだろう。本当に飛竜討伐の依頼を受けたかったようだ。
「いやいやいや、べつにボクも本気で言ってるわけじゃないんで許して下さい。昨日あんなことしといて、わがまま言える立場じゃないってことは分かってるんで」
「キルマーさん。あんたらはなんでそんなに飛竜討伐にこだわるんだ?高くても素材は金を出せば買えるだろうし、別に飛竜製じゃなくてもいい防具はあるだろ」
「それは……」
キルマーは横にいるピピリリを見た。彼女はキルマーを見上げて辛そうな顔をして、そして黙ってうつむく。そんな彼女の頭をやさしくなでてから、キルマーは話し始めた。
「一年前、ピピリリは飛竜によって住んでいた村を壊されたんです」
平原のただ中ある小さな村、そこにピピリリたちバーディアンの一族が住んでいた。
慎ましくも平凡な、穏やかな日常。恵まれているとは言えないが、それでも一族は助け合って暮らしていた。いつまでも続くまどろみのような日々。それが終わる時がくるなど、誰が想像しただろうか。
ピピリリはその始まりを見ていなかった。仲のいい友達と一緒に狩りにでていたからだ。
仲間の誰かが気づいて悲鳴を上げ、全員がそちらを見る。それは村があるはずの方角。そこから黒い煙が立ち上っていた。
村へ全速力で向かっている時、突然空が暗くなった。何事かと見上げれば、そこには翼を大きく広げたワイバーンの姿があった。
空からの急襲によって、ひとたまりもなく気絶させられたらしい。気がついた時には檻の中だった。仲間がピピリリをかばってくれたところまでは憶えている。でも、その時のピピリリはひとりぼっちだった。
地下室のような暗い場所に、檻がいくつも並んでいる。その中には見知らぬ亜人の女性たちが同じように捕まっていた。
「わたしたち、奴隷商人に捕まったのよ」
ひとりの少女が言った。
「どれい商人?それって何??」
「あなた何も知らないのね。奴隷商人っていうのは、私たちのような亜人を捕まえて売り払う商人のことよ。普通は労働力として売るものだけれど、ここに集められたのが女の子ばっかりなのを見ると、もっとろくでもない目的なのかもしれないわね」
大人びた物言いをする少女の言葉をピピリリはあまり理解できなかったが、なにかイヤなことが起こりそうだというのは分かった。
地下室に入って数日も経たないうちに、ピピリリは連れ出されることになった。
世話役の男に目隠しを着けられて地下牢を出る。そして連れていかれた先で、人に逆らわないように
「なにをされたのかピピリリは教えてくれなかったけど、とても辛いことだったのは間違いないです。ボクにはこうして懐いてくれてるけど、他の男を見ると怯えちゃうんですよ。リョウっちも未だにちょっと避けられてるんですよ」
重くなり過ぎないように気を使っているみたいだけど、俺はキルマーたちを見づらかった。
その教育というものに心当たりがありすぎる。というか間違いなくその教育とやらをしたのは俺だろう。
あのゲーム、始めてすぐはスキルも低く時間に余裕がないから、とにかく忠誠を上げて売れるようにする必要があった。そうしないと返済の日までに間に合わず、あっさりとゲームオーバーになってしまう。相手の心を考えている余裕なんて全然なかった。
……なんてことをいうのは言い訳だな。過去がどうあれ、今の俺の目的は被害者の救済だ。目の前にその対象がいるのだから、何もしないわけにはいかないだろう。
「その娘が大変な目に合ったってのは分かった。でもそれが飛竜討伐とどう関係あるんだ?飛竜を倒してその素材で防具を作って、みんなでその奴隷商人を潰しに行くとか言わないよな」
「まさか、昔ならともかく今のボクらにそんな力はないっすよ。ボクらは防具が欲しくて、そのついでにピピリリにトラウマを克服してもらいたいだけっす。ボクとリョウっちで飛竜を弱らせて、ピピリリにトドメをささせるんです。そうすればきっと、ピピリリも自信を取り戻せると思うんすよ。それに昔ほどじゃないけど、今でもボクら強いんすよ?ここまで来るのも、ほとんどボクとリョウっちで無双してたんすから」
自慢げに力こぶをつくるキルマー。ピピリリはその影に隠れながら俺をじっと見ている。
パドマたちに視線をやるが、全員俺の判断を待っているようだった。
「キルマー、キミたちが飛竜討伐をしたがってる理由はわかった。もし俺の言う条件を飲めるなら、共同で依頼を受けることにしてもいい」
「ホントっすか!?あ、でもその条件って……」
警戒するキルマーに、俺はその条件の内容を告げた。
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