第39話 休日

 太陽のまぶしさで目が覚めた。

 閉めたはずの部屋のカーテンが開けられていて、明るい陽が差し込んでいる。そんな床の上にザラが寝転んで、なにかやっていた。


「おはよう、何やってんの?」

「起きた?見ての通り買っておいた本を読んでるのよ。今日は夜まで何もしなくていって言ってたでしょ」


 そういえば今日は休みにすることにしていたんだっけ。

 休養を取ることも冒険者の仕事のうちだと色々な人からも言われていたし、今夜の話し合いのために休むのはちょうどいいと思っていた。

 休み方は人それぞれだし、俺が何か言うべきことでもないだろう。

 

 俺の場合は休むといっても、ゴロゴロしているのは性に合わない。ゲームもないこの世界では部屋にいるだけだと暇を持て余すので、気分転換に外へ出てみることにした。


 玄関でミミルを見つけたのでデートでもしようかと声をかけたが、急な鍛冶仕事が入ったのでその手伝いをしているとかで断られてしまった。


「じゃあ俺も何か手伝おうか?」

「ううん、大丈夫だ。ウチのお父ちゃん、鍛冶のこと分からない人さ近くにいるのすっごい嫌がるんだべ。だっけ、悪いけんどグレイさにやってもらえることは無いだ」


 そんな風に、とてもすまなそうな顔で言われてしまったら強く言うこともできない。

 気にしないように言って外へ出ると、今度は薪割りをしているパドマを見つけた。どうやらパドマも手伝いをしているらしい。


「頑張ってるじゃないか。ちょっと代わろうか?」

「いえ、これはワタシの仕事です。グレイ殿は気にせず、休んでいてください」


 気をつかってくれてることは分かるけれど、二連続で断られるのはちょっと悲しかった。

 仕方なく近くにあったイスに座って、次はどうしようかと考える。

 目の前ではパドマが楽し気に次々と薪を割っている。それを見ていると、すぐにあることに気が付いた。


 揺れている。

 胸部についている大きな2つの丸いそれが、薪を割るたびに大きく揺れている。あれだけ大きいものが揺れると動きにくそうな気もするが、慣れているのか全く気にしてないようだ。斧を雑作もなく丸太に打ち付け、振り下ろして両断している。

 地面を踏みしめる足、しっかりと体を支える腰、力強く振るわれる腕。なめらかに動くその全てが、健康的であるのにとてもエロい。

 そのまましばらく眺めていたが、もっと別なまともなことをした方がいいんじゃないかと気づいてその場を離れた。よく考えると、パドマの集中を邪魔をしていただけの気もする。あとで謝っておこう。


 今後の予定を立てるために情報収集しようとギルドへ顔を出すと、ちょうど通りかかったギルド長ユルトロに呼び止められた。


「やあグレイ君、調子はどうだね?」

「問題なくやってますよ。仲間がみんな頑張ってくれてますから」

「うん、キミたちはよくやってくれている。すぐにでも冒険者ランクを上げてもいいくらいだ。だがキミたちがパーティーとして活動するつもりなら、ひとつだけ問題を解決しなければならない。それはパーティー単位での審査が必要だということだ」

「パーティー単位でですか」

「そう、キミたちパーティーでの依頼をひとつこなせば、冒険者ランクを上げよう。そういえば、ちょうどいいものがあったな。ちょっとこっちに来てくれ」


 ユルトロは受付嬢となにやら話すと、一枚の依頼書を受け取って見せてきた。


「これなんかどうだね?【商都ゼニスとの通商路に現れたワイバーン退治】。キミたちなら問題なくこなせると思うが……」

「ちょっと待った!」


 突然の声に振り返ると、そこには見覚えがある顔がいた。


「お前はリョウゾウ、だったな」

「あっ、オマエは昨日の……えーとブタ野郎!」

「グレイだよ。名前憶えてないのかよ」

「ふん、モブの名前なんて憶えるかよ。そんなことより依頼の話だ。おいオッサン、その依頼はオレたちが受けることになってるはずだ。アンタが誰か知らないが、勝手に依頼を流すんじゃねえよ」


 リョウゾウはユルトロがギルド長だということを知らないようで、いまにも殴りかかりそうな体勢でガンをつけている。

 一方ユルトロは慣れているのだろうか、涼しい顔をしている。


「キミはリョウゾウくんだね。確かにキミたちがこの依頼を受けることになっているのは知っていたよ。でもね、キミたちがこの依頼を受けるには条件があったね?」

「前衛をもう1人確保することだろ?それはもう少しで見つかるはずだ。それに依頼の予約をしてからまだ1日しか経ってないだろ」

「残念だが、キミたちはその条件を達成できない」

「何っ!?それはどういう意味だ」

「昨晩、キミが自分でやっただろう。誘惑スキルによる強引な勧誘とその態度。あれを見てキミの仲間になろうとする者はこの村にはいない」

「な、アンタ見てたのか……!?」

「私ではないよ。でもあの場にいたみんなが見ていたんだ。ここは娯楽の少ない村だからね。噂話が広がるのはとても速いのだよ。例えば今みたいにね」


 そう言われてはじめてリョウゾウは周りから向けられる気配に気がついたようだ。

 ここはワイドビーク村の冒険者ギルドであり、ユルトロはそのギルド長である。冒険者たちがリョウゾウを睨み付けながら囲むのは当たり前のことだった。

 血の気の多い冒険者たちにずらりと並ばれて、リョウゾウの顔が青くなった。


「分かってくれたかな?キミたちはこの村に来てまだ日が浅いから知らなかったかもしれないが、ここの冒険者のほとんどは昔からの知り合いだ。誰かが悪いことをしたなら、それがすぐ村中に伝わると考えた方がいい。キミたちはまだ若い。急ぐあまり失敗することもあるだろう。だが時間は私よりもたくさん持っているんだ。落ち着いて、ひとつひとつ信頼を築きあげるということも、覚えた方がいい」


 ユルトロが俺に目線だけ送ってきて、その場を離れる。それを追いかけながら振り返ると、リョウゾウは悔しそうに立ち尽くしてた。


 依頼:テレグ山道のワイバーン退治 を受注した。

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