第38話 意外な客

 支払いを済ませて酒場の出口までくると、そこでザラが待っていた。見慣れない2人の女性と話していたので何かあったのか聞けば、俺の客だという。


 一人はダークエルフの女性。エルフの割には肉付きがよく、妖しい雰囲気を振りまいている。

 もう一人はバーディアンの女性。小柄で線が細く、うかがうような上目遣いが庇護欲をそそる。

 やっぱりどちらも見覚えがない。それでも俺の客だということは、もしかしてゲーム中での関係者ということだろうか。


「やあ、俺はグレイだ。キミたちはもしかして、あの小屋で会った……」

「そのとうりじゃ。ほれ見ろピピリリ、主様はちゃんとわっちらのことを憶えておいでであったぞえ」


 食い気味に肯定された。

 ダークエルフの方はとても喜んでいるが、バーディアンの方は怯えている。ダークエルフの後ろに隠れて、その服の裾を握っている。そんなバーディアンを気にすることなく、ダークエルフは俺の前にひざまづいた。


「主様、わっちはエロイサでありんす。こちらはピピリリ。わっちらは主様と会える日を心待ちにしてありんした」

「エロイサ、さん?立ってくれないかな。ほらここは人が通るし、話なら中で座って聞くからさ」

「まあ、なんてお優しいお言葉でありましょうか。ですがわっちのことは呼び捨ててかまいんせん。それに長話をしてはお連れのかたのご迷惑にもなりんしょう。ですので本日は謝罪だけで勘弁してくだしゃんし」


 そう言うとエロイサは深く頭を下げて言った。


「先ほどはわっちの連れがご迷惑をおかけしんした。このお詫びは後日必ずさせんすので、どうかご容赦してくんなんし」

「連れだと?それってまさか……」

「はい。リョウゾウとキルマーの2人は、わっちらの連れでありんす」


◇◇


【名前:エロイサ

 種族:ダークエルフ

 体力:42

 理性:47

 友愛:82

 忠誠:202

 愛溺:221

 状態:    】


【名前:ピピリリ

 種族:バーディアン

 体力:32

 理性:56

 友愛:-173

 忠誠:98

 愛溺:86

 状態:   】


◇◇


 翌日の夜に会う約束をしてからエロイサたちと別れ、宿にさせてもらってるガルドさんの家へと向かう。今日はさっきの飲み会で気疲れしてしまった。

 暗い夜道をトーチ片手に歩いている途中で、ザラが声をかけてきた。


「ちょっといい?さっきの2人について聞きたいんだけど」


 やっぱり聞かれるか。説明しないわけにはいかないし隠す必要もないだろうけど、やはりゲームの中のことについては話しづらい。


「彼女たちは、俺が改心する前の関係者だ。ザラとパドマにとっては先輩みたいなもんだな」


 ピピリリの方はかなり初期で、エロイサはしばらく経ってから来た娘だろう。

 効率重視のプレイ方針だったし、あのパラメータを見ればたぶんそれで合ってる。


「それで、それがどうして今更アンタに会いに来たっての?」

「それを聞くために明日の夜に会うことにした。ここで会ったのは偶然だろうけどな。もし話を聞きたいなら、お前らも同席するか?」


 そう聞くとパドマが後ろでうなずいた。


「ワタシは彼女たちがなぜあのような男たちと共にいるのかが気になります。もし彼女たちもスキルによって強引に意思をねじまげられたのなら、あの男たちから救わなくてはいけません」

「なあなあグレイさ。もしかして、あの娘たちも連れてくとか言うつもりだべか?」

「それはどうだろうな。なにかを判断するには、やっぱり話を聞いてからになるだろうし。今日のところはもう店じまいだ。早く寝たい気分だよ」


 大きなあくびが出てしまった。


「眠そうなところ悪いけど、あとでちょっと聞きたいことがあるわ」

「あとでじゃなく、今じゃダメなのか?」

「さっきアタシがいなかった時のことを聞きたいの。パドマは冷静に話せそうにないでしょ。だからあとででいいわ」


 たしかにパドマは、リョウゾウを許せてないみたいだ。今もミミル相手にいろいろと愚痴を言っている。

 昼間にずっと一緒に行動していながら、あいつの本性に気づけなかったことが悔しいようだ。


「わかった。じゃあ後でな」


 俺が約束すると、ザラはパドマたちの話しに加わった。それを背後に聞きながら、家へ向かった。





 

 部屋で一戦交えたあと、ザラに酒場であったことを話した。短い話しだったが、それを聞いたザラは黙ってしまった。


「どうした、寝てるのか?」

「そうじゃないわよ。ちょっとヘンだなって思って考えてたの。ダークエルフって種族は強化や弱化の技に長けてる種族なのよ。なのにそいつが使ったのって、状態異常を起こさせるスキルだったんでしょ?それってちょっとおかしいのよ」

「そうか?状態異常も弱化の一種のような気がするけどな」

「アンタにはそう見えても、使う方としては違うのよ。そうね……アタシは毒や薬を作るのは得意だけど、料理を作るのは苦手。そういうことよ」

「あー……、なるほど、すごく理解できた」


 やり方が似ているように見えても、目指すものとアプローチの仕方が全然違うってことか。

 毒や薬は人を強くしたり弱くするのが一番の目的で、相手の料理はそれよりも味や見た目、つまり相手の感情を揺り動かすことを優先する。

 普通のダークエルフだったらザラの料理と同じように、相手の感情を動かすようなスキルは苦手だということか。


「なんかちょっとムカつくわね」

「自分で言ったんだろ。つねるなよ」


 深くうなずいたのが気に入らなかったのだろう、長めの爪で腹肉をつねられる。ベッドはそれほど広くないので逃げ場がない。


「あいつがダークエルフらしくないスキルを使ったってのは分かった。けどそれが何だって言うんだ?いろいろなスキルを憶えるのは、冒険者なら悪いことじゃないだろ?」

「アンタは、貴重な時間と容量キャパを使って、ろくでもないスキルを憶えたいの?全力を出しても抵抗されるようなスキルよりも、もっと実戦で使えるようなものを憶えるでしょ普通は」

「……言われてみれば確かに。そう考えると、あれは趣味的な……遊び的なスキルの覚え方をしてるように思えるな。でも、だとすると、そういうことなのか?そんなことがあり得るのか?いや、無くはないのか」


 ザラがヒントをくれたおかげで、あいつらについて一つの可能性を思い付いた。思い付いた自分ですら疑うようなものだが、わりと外れてはいない気がする。


「何か気づいたことがあるの?」

「ああ、お前のおかげでな。明日あいつらに会う時に、直接確かめてみるよ」

「ふうん、まあいいわ」


 ザラは起き上がってベッドから降りた。


「あれ、どこ行くんだ?」

「ちょっと熱くなったから風に当たってくるだけよ」

「なるほど、トイレに行くのか。暗いから気をつけろよ」

「分かってるならいちいち言い直すな!バカっ!」


 頭の下から枕を引っこ抜かれ、それを顔に叩きつけられる。

 視界をふさがれた暗闇のなかで、ザラが足音を立てながら出て行くのがわかった。


◇◇


 5日間経過分


【名前:グレイ

 種族:オーカス

 レベル:9(+1)

 体力:220(+14)

 理性:68(+8)

 状態:   】


【名前:ザラ

 種族:エルフ

 レベル:12(+1)

 体力:58(+3)

 理性:48(+15)

 友愛:3(+40)

 忠誠:125(+11)

 愛溺:155(+8)

 状態:   】


【名前:パドマ

 種族:ドラゴニュート

 レベル:23

 体力:90

 理性:44(+12)

 友愛:158(+35)

 忠誠:116(+10)

 愛溺:66(+9)

 状態:    】


【名前:ミミル

 種族:ドワフ

 レベル:5(+2)

 体力:64(+19)

 理性:79(+3)

 友愛:134(+41)

 忠誠:61(+8)

 愛溺:42(+25)

 状態:   】

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