第36話 イケメン?
「あ、来ましたよ。彼らです」
パドマが入り口へと手を振る。酒場のテーブルをぬってこちらへ来たのは、色黒のエルフと派手めな鳥の獣人という2人の男だった。どちらもイケメンオーラを放っている。
パドマが隣の空いているテーブルを持ってくると、それを並べるのを自然に手伝った上にイスを引いて座るまでエスコートしていた。
行動までイケメンだ。
全員が席に着きパドマが俺たちのことを紹介してから、イケメン2人を紹介した。
「こちら、ダークエルフのリョウゾさんと、バーディアンのキルマーさんです」
「リョウゾウだ。呼びにくかったらリョウとでも呼んでくれ」
「キルマーです。キルっちでもキルくんでもいいよ。ヨロシクネ」
リョウゾウはいわゆる細マッチョというヤツだろう。ダークエルフという割にはかなり筋肉がついている。自分でもそれを意識しているようで、シャツの胸元は大きく開いているし、肘と膝から先も露出した服を着ている。
キルマーはバーディアンと言われた通り、鳥系の獣人だ。服に隠しきれてない鮮やかな黄緑色の羽は自前のものなのだろう。手入れもしっかりしているようで、きれいに整っている。
「キミら2人だけのパーティーなのか?狩りの依頼で一緒だったんなら、もっと人数がいると思ってたんだが」
「もちろん他にもいる。美人の女2人なんだが……さっき急用を思い出したとか言って宿に戻って行っちまった。そのうち来るだろうし、先に始めても問題ないだろう」
どうやら連れは女の子らしい。イケメンの男たちのなかにパドマ1人だけだったわけでないと分かって、内心でホッとした。
こういう飲み会はカンパイから始まるものだろう。全員分の飲み物が届いたところで声をかけようとしたら、キルマーが勢いよく立ち上がった。
「みんなコップ持ったね。じゃ、今日の出会いに感謝して、カンパイ!」
先を越されてしまった。
でも俺のパーティーメンバーはいつもの調子でノリが控えめだ。
パドマは楽しそうではあるがいまいちノリについて行けてないし、ザラはそもそも興味がないようだ。まともにカンパイしたのは俺とミミルだけだった。
飲み会は問題なく進んでいく。キルマーが盛り上げようと頑張っているが、空回りしてる感がある。
リョウゾウは女性陣が質問すると答えるが、いちいち自慢話を混ぜてくる。
俺も2人と話しをしようとするが、こいつらあからさまに女性陣狙いでまともに話す気がないようだ。色んな意味で、早く向こうの女性陣に来て欲しかった。
酒が進むにつれ、場の雰囲気がどんどんくだけたものになっていく。
女子との距離を自然に縮めようとするのはイケメンの習性なのかもしれないが、ミミルとパドマはだいぶ男あしらいに慣れているようだった。
ザラは……むっつりと黙って薄い酒を飲んでいる。
「ザラ、無理しないでいいぞ。気分が良くないなら、ガルドさんとこまで送っていくか?」
「別に平気よ。ただああいうウザいのがちょっと苦手なだけ。だから……」
「やっほーザラちゃん。今ボクの方見てた?何か用?この羽さわりたい?」
「う、ううん。そういうのじゃないから、ちょっと静かにしてたいかなって話してたの」
「あれ、もしかして気分悪い?外の風に当たってくる?任せて、オレが付き添うよ」
「ほんとそういうのいいから、ひとりで大丈夫だから」
「えー、女の子ひとりじゃ危ないよ。ボクこう見えてもけっこう強い……」
「黙ってろって言ってんのよ。その羽残らず
「あっ、はい」
人を殺せそうな視線に射抜かれて、キルマーは元の席に戻っていった。
ザラが席を立ったので俺も立とうとしたら、必要ないとそっけなく言われた。
出口へ向かって歩いていくザラを見ていたら、ミミルに腕をつつかれた。
「ザラさんなら大丈夫だべ。それでも心配なら、早めに切り上げればいいだよ」
「そうだな。そうするか」
あまり盛り上がっているとも言えないし、頃合いを見て終わらせよう。そう思いながらテーブルを見回す。
今の席順は俺の左にミミル、その奥にリョウゾウ。向かいにパドマがいて、その左にキルマーという風になっている。ザラの席は俺の右隣のお誕生日席だった。
ザラが立ち去ったせいで冷えた場の空気を暖めようと、イケメン二人は気合を入れている。だがパドマとミミルは、テーブルの上の料理を片づけることに興味を移していた。
冒険者は体が資本だから、食べられる時に食べるのが普通だ。
イケメンたちが空回りしているのは見ていてかわいそうだが、そもそも俺がフォローするものじゃないだろう。
だから俺も食べることをやめたりはしない。なにせこの体になってから、胃袋はかなり大きくなっているのだから。
そうして周囲のテーブルよりも比較的静かに時間が流れていく。そんな状況だったので、キルマーの次の一言ははっきりと聞こえた。
「パドマっち、ウチのパーティーにこない?」
これは予想していたことだから、うまく気づかないフリができた。こいつらは元々パドマに声をかけてきていたのだ。最初から勧誘するつもりだったのだろう。
横目でパドマをうかがう。
「いえ、ワタシはグレイ殿と共に行くと決めているのです。これはワタシ自身への誓いであり、決して違えることはありません」
「えー、そんなこと言わないでさ。ちょっと考えてみない?ボクらってさ、前衛できるのがリョウっちだけしかいないんだよ。ボクも前衛とか苦手だし、女の子2人もサポート寄りだしさ、あとひとり守れるのがいてくれたら、オレたちすっごい助かるんだよ」
「でしたら、他をあたってください。ワタシはグレイ殿から離れるつもりはありませんので」
パドマにすげなく断られたからか、こんどはリョウゾウがミミルの方を見る。
「ミミルちゃんはどうなんだい?オレらと一緒に来ないか」
「残念だども、オラはもうグレイさのものだからそういうのは無理だよ。パドマさの言うとおり、別な人を探した方がいいだ」
「でもよ……」
「俺の目の前で仲間を引き抜こうとするのは、その辺にしといてくれないか?それ以上続けるなら、仲良く酒を飲めなくなるぞ」
「なんだと」
顔には出さないようにしているが、パドマもミミルも迷うことなく断ってくれてすごく嬉しかった。ふたりが選んでくれたなら、男としてきっちり言っておかなくちゃな。
「こいつらは俺の大切な仲間だ。お前らのような軽そうな連中にくれてはやるわけがない。あきらめるんだな」
怖い顔を意識したつもりだが、自然と口角が上がってしまうのを抑えられなかった。でもそれが逆に不気味な笑顔に見えたのか、男2人はひるんだようだった。
空気も悪くなってしまったし、これをいい機会にザラと合流して帰った方がいいだろう。向こう側の女の子たちに会えなかったのはちょっとだけ残念だけど。
イスから立とうとしたちょうどその時、リョウゾウがテーブルを強く叩いた。
「おいブタ。オマエ、こいつらを洗脳してんだろ。だったらすぐに解放しろ」
「は?何言ってるんだ?どういう意味で……」
「とぼけんな!オレがスキル使ったのにあっさり断ってくるなんて、すでに誰か他のヤツに洗脳されてるしかあり得ないだろ!早くスキルを解除しやがれ!」
スキル、洗脳。こいつ、まさかただの冒険者じゃないのか。
イヤな予感に顔をしかめると、図星だと勘違いしたのかリョウゾウは口の端をゆがめた。
「やっぱりか。彼女たちの弱みにつけこんで好き勝手してたんだろうが、それもここまでだ。オマエのやってることはお見通しなんだよ」
「洗脳なんて心当たりないね。自分の思い通りに行かないからって、難癖つけるのはやめてもらえるかな?」
俺は立ち上がって、リョウゾウを睨みつける。コイツのステータスは覗き見れない。いままでこんなことは一回もなかった。そのことがより警戒するべき相手だという証拠。弱味は絶対に見せられない。
「俺は洗脳だなんて卑怯なことをした憶えはないね。オマエのスキルとやらがショボいだけなんじゃないか?その辺で草食ってるウシにも効かないだろ」
「言うじゃねえか。ならオレのフルスペックでスキルかましてやんよ。後で泣いてもしらねえからな」
「はっ、せいぜいウシにもたかるハエとでも仲良くなればいいさ」
「ちょっとちょっとリョウっち、止めといた方がいいって」
「キルは黙ってろ。これはオレのプライドの問題だ」
コイツはやはり、かなり自己中心的な性格なようだ。洗脳された女性を救うという建前がどっかに行ってしまってる。
キルマーがしつこく止めようとしているが、リョウゾウは気にせず立ち上がった。そしてカッコつけているような変なポーズをとり、天井へ向けて手を掲げた。
「『フルスペック』!からの、『チャーム・フレグランス』!」
リョウゾウの体から瞬間的に魔力が溢れ、それが酒場全体に広がった。
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