第29話 今日の終わりに
冒険者ギルドから連絡が来たのは、空が赤く色づき始めた頃だった。
かろうじて破壊を免れていた調理場で夕食の準備をしていると、出発前にギルド職員から渡された木の板が急にカタカタ震えだした。
近くにいたパドマがすぐに反応し、それを本のように開く。するとそこにあった黒板に、白い文字が書き込まれていた。
『冒険者グレイのパーティーへ。状況が変わったため、そちらへの合流は不可能になった。調査は現段階で打ち切り、明日中に帰還するように』
「ギルドで何かあったのでしょうか。状況が変わるとはいったい」
「聞いてみるか。確かここに……」
木の板の横側をスライドさせ、中から一本の白墨を取り出す。
書かれていた文字を布で拭いて消してから、白墨で文字を書き込んだ。
「えっと、『こちらグレイパーティー。指示は了解。可能なら、現在の状況が知りたい』っと。これでどうかな?」
待つまでもなく、書いた文字が消されて新しい文字が浮かんできた。
『ヒュマの一団が来た。回収した野盗を彼らの国まで送還するとのこと。我々の法で裁くように言ったが、難しいだろう。依頼は現時点をもって完了とするので、気をつけて戻ってくるように』
「ヒュマが何で。それにしても早すぎやしないか」
「このアジトが壊滅したのが伝わったからだとしたら、野盗たちに何か連絡手段があったということです」
「今ヒュマって言った?あいつら、また何かやってきたのね」
「ザラか。冒険者ギルドが罪人の引き渡しを断れない人物がワイドビークに来たらしい」
「権力を持った悪人かしら。目的はやっぱり女神像よね。この砦の重要そうなものってそれくらいしかなかったじゃない?」
「砦そのものの価値も、見つかれば誘拐の拠点として使えなくなりますしね」
「だな。よし、すぐに撤収しよう。急げば暗くなる前に森の奥のセーブゾーンに着けるはずだ」
広げていたものをどんどんアイテムボックスに放り込んでいく。整理整頓は後回しだ。
エプロン姿で料理をしていたミミルを連れて砦を出ると、もうザラとパドマは準備を終えて待っていた。
「忘れ物はないな。じゃあ行こう」
自作のマップ片手に、セーブゾーンまで急いだ。
暗くなったセーブゾーンで、焚き火を囲む。砦で下ごしらえはできていたので、夕食は美味しいものができた。
「ミミルが作ったこれ美味いな。お代わりあるか?」
「もちろんあるだよ。たんと食べてけろ」
「あ、アタシもそれ食べるから、残しといてよ」
「はいはい、ちゃんととっとくからよく噛んで食べるだよ」
「ミミルさんて、なんだかお母さんみたいですね」
「オラんちは弟とかお父ちゃんのお弟子さんとか沢山いたからな。お母ちゃんの手伝いばっかりだったけ、口癖がうつっちまっただよ」
「たしかにそうしてると、3人の中で一番落ち着いているように見えるな」
「むっ、それはアタシが幼稚だって言いたいの?これでも成人してから25年以上経ってるんですけど」
「エルフの感覚で25年って言われてもな。俺にもわかりやすく換算すると、今は何歳くらいなんだよ」
「だいたい20歳よ」
言ってからデリカシーないと怒られるかと思ったが、こいつ普通に答えたな。どうだわかったかと言わんばかりに笑っているが、口の横に大きな食べかすがついている。
「ドヤってるところ悪いが、そういうのが子供っぽく見える原因だぞ。それに子供っぽいってのは可愛いってことだから、悪いことじゃないと思うんだがな」
「な、何を言ってるのよ!アタシは大人だし、可愛いとかバカじゃないの!?」
「グレイ殿グレイ殿、ちなみにワタシは共通換算で18になります」
「パドマは見た目より若いんだな。世界のこととかいろいろ知ってるし、もっと年上かと思ってたよ」
「そ、そうですか」
褒めたつもりだったのだが、分かりやすく落ち込んでいる。ええと、パドマが会話に割り込んできた時、何の話をしてたっけか。
「印象と実際が違うっていうのも、ギャップがあってとても可愛いと思うぞ」
「そ、そうですか?そうですかあ」
今度は分かりやすく喜んでる。今のでよかったか疑問が残るが、本人が喜んでいるならいいだろう。
「オラはその、共通換算で24歳くらいだが、グレイさはもっと若い方がよかっただか?」
「そんなことないさ。ミミルはミミルだろ、歳なんか関係ないさ」
「ありがとう。そう言ってもらえて、オラ嬉しいだ。さあどんどん食べてけろ」
ミミルが満面の笑みで、肉を皿に山盛りにして渡してくる。ザラに横からつつかれ、パドマに別な肉を差し出しされたりしながら、夕食の時間は賑やかにすぎていった。
満天の星が輝く空の下、木のうろの寝床を整えているとザラがやってきた。
「結界石はもう十分に力を取り戻してたわ。あれならモンスターは入ってこれないだろし、見張りはいらないわよ」
「そうだなあ。ここまでの道も、俺ら以外に通った人はいなかったみたいだし、全員寝ても大丈夫かもな。パドマ、そういうことだから、今夜は見張りはいいぞ」
「そうですか?グレイ殿がそう言うなら休ませていただきます。でも4人でうろの中だと少し狭いのでは?」
「そうだな。じゃあテントを……」
「そんなもの使わんで、みんなでくっついて寝ればいいべ」
アイテムボックスを開いたところでミミルが横から現れた。
「やっぱり、狭くないか?」
「アンタが場所を取りすぎなのよ」
「ワタシも大きくて、すいません」
「えへへ。ぴったりくっついちまうが、狭いから仕方ないべな」
全員で入った木のうろは、寝返りをうてないくらい狭くなってしまった。ザラのいいにおいがすぐ近くにあるし、パドマのおっぱいが普通に当たっている。ミミルに至っては堂々と抱きついてきている。なんとうれしくも苦しい寝床だろうか。
「ちょっと、鼻息荒くしないでよ」
「これだけ近いんだからしょうがないだろ。それに、最近アレは控えめだったから耐えるのがつらいんだよ」
「はあ?毎日誰かとヤッといて、少ないってどういうことよ」
「お前、旅に出る前は俺がどういう生活してたか一番よく知ってるだろうが」
同人フリーゲームの主人公であるこの体は、その設定に合わせるためか【超絶倫】なんていう技能を持っている。そのためゲームでは体力が続くなら、それこそ一日中ヤり続けることができたという壊れ性能を発揮していた。
さすがに旅に出てからは移動するだけで体力が削れるし、モンスターとの戦いでフラストレーションを発散することもできていた。だが、普通の人間の何倍も多く溜まり続けるそれを我慢しつづけるのは、いささか限界が近づいていた。
それでもまだ我慢できると思っていたが、この状況のせいか我慢のひもが急速に緩んでいくのを感じている。
「アンタまさか、今日は3人同時に相手にする気なの!?」
「今日の夕飯食ってから、なんか調子がいいんだよ。死にそうな目に合ったからかもしれないな」
「なにアホなこと言ってるのよ。ミミルからも何か言ってやってよ。……って、ミミル。なんで目を逸らすの?」
「お、オラは別に、夕飯に変なものを混ぜたりなんかしてないだよ。元気になってもらうために、ちゃんと精のつくものを用意しただけだ」
「なんてことしてくれてんのよ。別なところが元気になっちゃってるじゃない」
ザラが相変わらず強い口調で文句を言っている。俺としてはみんなに仲良くしてほしいので、それを止めるためにザラの目を見て言った。
「ザラ、今日はお前が囮役を引き受けてくれたから上手くいったんだ。感謝してるよ」
「い、いきなり何を言うのよ。いちおう仲間なんだら、それくらい当然よ。べつにアタシにとっては危なくもなんともなかったし」
「お前みたいないい女がいてくれて、とてもうれしいよ」
動きを止めたところを見逃さずに唇を奪う。驚いて硬直したものの、いつも通り情熱的に仕掛けるとすぐに俺を受け入れてくれた。
「アンタ、いつも強引なのよ」
「そうしないと、お前は逃げるだろうが」
「フンッ。勝手なんだから」
文句を言いつつも、抵抗はしないようだった。
「グレイさ、オラもむちゅーってしてくんろ」
「ミミルは俺の言うこと聞かないで帰り道を見つけてなかったから一番最後」
「そ、そんなあ」
「あとパドマ」
「は、はい!」
「お前もミミルを止めなかったから同罪だからな。激しくしてやるから覚悟しとけよ」
「わかりました。心の準備をしておきます」
この夜はそうして、今まで我慢していた分を存分に発揮してしまった。おかげで目が覚めた時には、翌日の昼を回ってしまっていた。
【名前:グレイ
種族:オーカス
体力:206
理性:60(-10)
状態: 】
【名前:ザラ
種族:エルフ
体力:55
理性:33(-2)
友愛:-37(+8)
忠誠:114(+3)
愛溺:147(+10)
状態: 】
【名前:パドマ
種族:ドラゴニュート
体力:90
理性:32(-4)
友愛:123(10)
忠誠:106(+5)
愛溺:57(+12)
状態: 】
【名前:ミミル
種族:ドワフ
体力:45(+4)
理性:76(-5)
友愛:93(+3)
忠誠:53(+2)
愛溺:17(+12)
状態: 】
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