第27話 VS女神像?
倉庫にたどり着くと、一息つく間もなく砦が大きく揺れる。壊れた床のひび割れが広がり、いくつかの棚を巻き込んで壁と天井の一部が外へ向かって崩れていった。
そして床下から、女神像を抱え込んだ木の幹が伸びてきた。
「なんか、女神像が怒ってるようにも見えるな」
「謝ったら許してくれないだかなあ」
「無理だと思いますよ」
木の幹が形作る大きな舞台の中央で、女神像が俺たちを見下ろすようにしていた。
「きゃっ!ちょっと、どこ触ってるのよ!今はそんなことしてる場合じゃないでしょ」
振り返ると、足を押さえているザラと目が合った。ザラは俺を不思議そうな顔で眺めてから、押さえた手の下を見る。そこには緑色をした木のツルが、ふとももにしっかりと巻きついていた。
「なに見てるのよ!このヘンタイ!」
「なんで俺にキレるんだよ。それにまず触ったのが俺じゃなかったことを謝るべきじゃないかな!」
「知るかこのドスケ……あっ、」
急にフラついたザラを慌てて抱きとめる。
「どうした、立ちくらみか?」
「違うわよ。コイツ、アタシから魔力を吸い取ってる。早くなんとかして」
寄りかかられた状態で、上目遣いの潤んだ目でお願いされた。心なしか呼吸が弾んでいる気がする。
「なにしてるの?早くしてよ」
「あ、ああ。悪い」
しゃがみこんで、ザラのふとももに巻きついたツルを引き剥がしにかかる。しかし予想以上に硬く巻きついているので、なかなか剥がれてくれない。けっして、ザラのふとももに見とれているわけではない。その上の、スカートに隠れている部分が気になるとかそういうことではない。
本当にツルが硬いのだ。
「……きゃー、オラも捕まっちまっただ。グレイさ、助けてけろー」
「ちょ!?ミミルなにやってんだよ。パドマ、頼む!」
「え!?えっと、はい」
手首にツルが巻きついてたミミルが見えたので、その横にいたパドマに声をかけるとなぜか戸惑っていた。こうなったらモタモタしているヒマはない。剣を引き抜いて、ザラの足に巻きついているツルを切り離す。
「もう、できるんなら最初からそうしなさいよ」
「普通はありがとうが先じゃないか?」
「はいはいありがとう。それよりも、早く向こうに行ってあげたほうがよさそうよ」
そう言われて振り返れば、ミミルとパドマの体中に何本ものツルが巻きついていた。
「あーん、本当に助けて!なんとかしてほしいだよ」
「すいません。ワタシもお願いします」
「お前らなにやってんの!?」
とりあえずツルは切り離したが、残りはしっかり巻きついてしまっている。2人とも自力で外そうとしているが、簡単に外れそうにない。痛いとか苦しいわけではないようなのでそのままにしてある。外すのは落ち着いた後ででいいだろう。
別に荒縄のなんとか縛りみたいで見た目がエロいことになってるから取ってないわけではない。服の上から縛られることによって体のラインがより強調されているところがさらにエロい。だから外してないわけでは断じてない。
一方ザラは足だけだから、見た目にそれほど変化はなかった。
「アタシになにか言いたいことがあるの?」
「いや、特になにもないけど」
「どーせアタシは2人と違って胸が小さいわよ。悪かったわね」
「言ってない。俺なにも言ってないから!」
そんなやり取りをしてる間にも、四方八方から何本ものツルが伸びてきた。野盗たちも同じように魔力を吸い取られたに違いない。
「グレイ殿、どうしましょうか。我々が依頼されたのは砦の調査のみ。危険の排除は含まれていません」
「だとしても、この木を砦に突っ込ませたのは俺だ。まったく関係ないとは言い切れないし、それにあの女神像がちょっと気になる」
「アンタ石像にまで欲情してんの?ホント節操ないわね」
「してねえよ!無限に魔力を生み出すってところがすごい気になってるんだよ!」
女神像はたしかにおっぱいの大きな美人がかたどられているが、石像すぎててそっちの興味はわかない。それよりも、あの女神像に近づいた時に見えた妙な気配が気になった。
世界から魔力をくみ上げていくいるとザラは言ったが、何のためにそんなことをしているのだろうか。何かの装置に組み込むため?でもそれらしきものは部屋には残っていなかった。あの女神像を調べれば、なにか分かるかもしれない。
「ザラ、樹精と話ができないか試してみてくれ。あの女神像と何か他のアイテムを交換できるか聞いてほしい。肥料とかならワイドビーク村で買ってこれる」
「わかったわ」
「パドマはミミルを守ってやってくれ。相手は木のツルだから、槍じゃなくてそこらへんにある剣に持ち替えた方がいい」
「わかりました」
「グレイさ、オラはなにすればいいだ?」
「ミミルは、もしもの時のために逃げ道を探してくれ。頼んだぞ」
「了解しただ!」
走りだすミミルをパドマが追いかけていった。
俺は剣を抜いてから、魔法を使うために集中しているザラをかばうように立つ。そんな俺たちを威嚇するように、木のツルが
ザラの魔力が外に出てくると、そのツルはこちらへ向けて伸びてきた。
剣でツルを切り払う。不規則に揺れてやりにくいが、動きは遅いのでなんとか対応できている。でも数を増やしながらどんどんよってくるので、だんだん捌き切るのが難しくなってきた。
「ザラ、まだか?」
「やってるわ。けど、アタシの声が届いてないみたい。何か強い力に邪魔されてるみたいなの」
いったい何にと思ったが、思い当たるものが1つあった。女神像を見上げれば、その腕に抱えた結界石がザラの魔力に合わせるように光っていた。
「女神像が邪魔をしている。やっぱりあれをどうにかするしかない」
「どうにかって、どうするのよ」
「魔法で木は操れないか?」
「木を操るのは樹精にはかなわないわ」
「ならそうだな……。囮になってくれるか?」
「『
ザラの術理魔法が木の幹に向かって飛ぶ。それは木の表面を少し焦がしただけですぐに消えてしまった。いっぽう木はザラへ向かってツルを伸ばす。ザラはそれを軽やかにかわしながら、次の魔法を準備し始めた。
呪文を詠唱するザラへ、地を這うようにツタが迫る。ザラは詠唱を止めることなく飛び上がり、棚を蹴って倉庫の上へ昇った。今度は正面から別のツタが伸びてきたが、ザラはそれへ向かって杖を構えた。
「『
伸びてきたツタは魔法の直撃を受けて燃え上がり、ひるんだように巻き戻っていく。しかしまた別のツタが左右から迫ってきていた。
ザラは倉庫へ降りてそれをかわすと、また呪文の詠唱を始めた。
俺はそれを横目で見ながら、木の幹を登っていた。先ほど使ったマップサイトの効果が残っているので、歩ける場所は簡単にわかる。それを使って木の上を渡り、女神像を目指して走る。
ザラの放った火球が、また木の幹に当たった。やはり大した威力はなく、反撃のツルがザラに向かってのびる。頼んだ通り、ザラはうまく囮になってくれている。俺の道を邪魔するツタはほとんどなかった。
目の前を横切るツタに触らないように、飛び越えたり回り道しながら進み、やっと女神像の真上にたどり着いた。
よく狙いをつけて剣を構える。
チャンスは一度きり。大きく深呼吸をしてから、思い切って飛び降りた。
「チェストーーー!!」
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