第25話 冒険者魔法

 憶えたい魔法を決めると、容量を調べる時と同じように水晶玉に手を置いてくれと言われた。言われた通りにすると、手のひらから脳まで針で刺されるような痛みを感じた。でもそれは一瞬だけで、職員はもう魔法を使えるようになったと教えてくれた。

 一気に憶える容量が大きいほど、痛みは強くなるらしい。アイテムボックス3つ分ともうひとつの魔法を憶えたせいか、できれば二度と味わいたくないくらい痛かった。


 アイテムボックスを試してみると、目の前に半透明のスクリーンが浮かび上がり、そこにアイテムが入れられることがわかった。


「魔法は使う人のイメージに左右されます。最初は使いにくいかもしれませんが、使っているうちにすぐに慣れますよ」

「えっと、これにアイテムを入れることができるんですよね?」

「はい、試してみてはどうですか?」


 促されて、普段使っている荷物袋に手を入れる。回復薬、気付け薬、etc etc……。袋の中身を全て入れても、アイテムボックスの三分の一も埋まってなかった。

 次に硬貨袋に手を入れる。

 硬貨は種類ごとにスタックされるようで、コインのアイコンの下に小さく数が表示されている。アイテムボックスの中ならスリ取られる危険もないだろう。


 まだ空きはたくさんあるが、入れるものがなくなった。

 今度は取り出しを試してみることにする。銀貨を1枚取り出そうとしてしてみると、目の前にポンと飛び出てきた。

 いろいろ取り出し方を試して、手の上に出すのが安全だろうと思った。ポケットの内に取り出せないか試したが、服の内側に出てきた時は少しびっくりしてしまった。まだまだ慣れが必要なようだ。


「だいたい分かりました。面白いですね、これ」

「初めてで貴方ほど使いこなせる人は少ないですよ。もしかして有名な冒険者に師事してましたか?」

「いいえ。ただ冒険譚が好きで、いろんな話を聞いてたからじゃないですかね?」


 ゲームで似たようなものを知ってるからだなんて言っても、理解してもらえないだろう。職員は納得できない顔をしていた。

 他の魔法も試していると、別の職員が素材の査定が終わったと知らせにきた。

 時間がかかりそうだったから、この村に着くまでに倒したモンスターの素材を見てもらっていたのだ。

 一番高く売れたのは、もちろんボスである剣鹿の角だった。とてもいい武器の素材になると、素材買い取りの人が喜んでいた。


「容量の検査と魔法習得の料金は、素材の買い取り分から引いておきました。こちらがその伝票になります。ご確認ください」


 硬貨の入った袋と共に、一枚の紙を受け取る。

 またお金が増えた。普通は残ったお金で装備を整えたりするんだろうけど、俺たちはガルドさんたちからお礼として色々もらっているからその必要もない。

 あと買わなきゃいけないのは、旅に必要な道具だろうか。火をつける魔法道具や調理道具、食材や調味料、そしてテント。その他もろもろのアイテムを、お金もアイテムボックスがあるからと少々多めに買った。


 これで準備が終わった。それじゃあ正式に冒険者になるために、初の依頼をこなそうじゃないか。


「待ってましたよ。さあ、行きましょう」


 そう言って出てきたギルド職員の後ろには、物々しい装備の5人の冒険者がいた。俺たちが砦に置いてきた野盗を回収するから、その監視のために雇ったらしい。全員がこの村の出身のドワフで、しかもガルドの工房の弟子だそうだ。

 こうして、俺たち4人とギルド職員、そして冒険者の合わせて10人で、再び森の砦へ向かった。






 半日ぶりの砦は、最後に見た時よりもさらに酷い状態になっていた。砦を突き破っていた木々がさらに成長し、幹が太く縦横じゅうおうに伸びている。


「うわー、こりゃまたたまげただ」

「ザラ、これはどういうことか説明してもらえるか?」

「アタシのせいじゃないわよ。アタシが昨日やったのは、樹精に魔力を渡して急成長させただけ。普通は樹精もとっくに魔力を使い果たして枯れてるはずよ」

「でもなあ」

「本当よ!精霊は渡された魔力はすぐに使い切るのが普通だわ。魔力を循環させるのが自然の摂理であって、計画的に使うなんて理性は持ってないもの」

「そうか。ザラがそう言うなら信じるよ」

「……ふん、分かればいいのよ。アタシの言ったことが理解できてるか怪しいけどね」


 憎まれ口をきいているが、落ち着いたようだ。ザラが嘘を吐いている様子はない。

 砦の前までいって見てみると、木は生き生きとしていて枯れかけてるようには見えない。魔力を使い果たしたら枯れるなら、今もまだ魔力は供給され続けているのかもしれない。

 俺たちが木を調べていると、職員は冒険者を連れて砦の中に入っていった。


「木の中に魔力が流れてるわ。でもアタシのとは違うみたい」

「別の誰かが魔力を渡しているってのか。でも急成長してる様子はないな。過不足なく巡ってる感じか」

「アンタもけっこう魔力の動きを感じとれるのね。魔法の才能があるんじゃないの?」

「だとしても、冒険者ギルドじゃザラが使ってるような魔法は憶えられないだろ。容量の限界もあるし、戦闘に役立つ魔法はザラに任せるよ」


 ここではそれ以上は分からなかったので、職員たちを追って砦に入る。中も木の幹がそこらじゅうに伸びていて、けっこう歩きづらい。崩れた場所もあるので慎重に進んでいると、職員たちの姿が見えた。


「こんなところで立ち止まって、みなさんどうしたんですか?」

「君たちか。この通路が木で塞がれててね、迂回ルートを探したんだけど見つからなくて困ってたんだ」

「木をどければいいんですね」


 ザラに合図すると、下がっているように言われた。

 いつものようにザラから魔力が溢れ、それが通路を塞ぐ木に流れ込む。すると木が音を立てて道を開いた。


「な、これは……!」


 中に入った職員たちの驚く声が聞こえた。続いて入ると、何に驚いたのかすぐにわかった。

 昨日俺たちが捕まえた野盗たちが、木の枝でぐるぐる巻きになって捕まっていた。


「こいつらから魔力を奪ってたのね。でももう吸い尽くされてる感じだし。まだ別の何かがあるのかしら」

「悩んでないで、今は助けるぞ。まだ生きてるみたいだし」


 ザラは乗り気ではなかったが、野盗たちを木の枝から解放していく。野盗たちはだいぶ衰弱していたが、全員生きていた。反抗する気力もないようで、むしろ助けたことに感謝された。


「野盗たちを先に護送した方がよさそうですね。これだけ大人しければ私たちだけで大丈夫でしょう。彼らを村に預けたら戻って来ますので、それまでこの砦の状態を調べておいてほしいんですが」

「わかりました。準備もしっかりしてますから、任せてください」


 そういうことで、俺たちだけでこの砦に残ることになった。ぞろぞろと連れて行かれる野盗たちを見送ってから砦に戻ると、比較的まともな部屋に全員で集まった。


「ではどう調査しましょうか。どのように調べるにしても、まずはマップが必要でしょう」

「アタシはもうちょっとこの木について調べたいわね。こんなことになってるの、今まで見たことないし」

「オラも頑張るだ。なんでもするから言ってけろ」

「そうだな。じゃあ、まずはマップを新しく作ることにしよう」


 早速、憶えた魔法の出番のようだ。紙と鉛筆代わりの木炭を持ってから、呪文キーワードを唱える。


「『地図表示マップサイト』」


 目の前に半透明のスクリーンが浮かび上がり、そこにおれを中心とした簡単な俯瞰図が表示された。俯瞰図はだいたい直径10メートルくらいの円形で、歩ける地面と壁が分かりやすく区別されていた。


「マップを見れる魔法を憶えただか?」

「そうだよ。これから色んな所へ行くだろうし、地形が分かった方が便利だからね」


 表示されたマップを紙に書き写していく。マップを動かそうとしたが無理だったので、書けるところまで終わってから範囲外まで移動して、また魔法を唱えた。


「使った場所を中心とした範囲しか見れないか。他の場所を見たいなら移動してから使いなおしとか、効率悪いなあ」

「それでも周囲のマップを知ることができるのは大きいですね。慣れればもっと使いやすくなるかもしれませんし、積極的に使っていきましょう」


 慣れれば、か。そういえば魔法はイメージが重要だと言ってたし、いろいろ試してみるのもいいかもしれない。

 さっそく目の前のマップをぐりぐりいじってみる。見れる範囲が円形なのだからもしやと思ったら、やっぱり上下の階層も見ることができた。

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