第12話 パワーレベリング
それからしばらくして、ザラが水浴びから戻ってきた。
特に何も言われなかったので、こちらも何も言わないでおく。覗きがバレてないようで、本当によかった。
ザラを待ってる間にパドマが鳥の卵を取ってきてくれたので、目玉焼きも朝食に追加。なかなか豪華な朝食になった。
「あら美味しい。これ全部アンタが作ったの?」
「まあな。材料さえあれば、このくらいなら簡単なもんだよ」
「へえ、人には何かしら特技があるものね」
「それ、俺が料理だけの人間だって言ってないか?」
「あら、それを理解できる頭の中はあるみたいね」
「ははは、こやつめ」
確かに昨日は料理以外2人に頼りがちだったので、悔しいけれど反論ができない。でもこれからレベルを上げて、俺も戦えるようになってやるんだからな!
「グレイ殿はすごいですね。ワタシではここまで見事な料理はできませんよ」
「だろ?一人暮らしが長かったからな。毎日同じだと飽きるから、少しでも味を変えるために色々と研究したんだよ」
「なるほど。後でワタシにも教えて頂けませんか?」
「ああ、野営でも作れるものがいっぱいある。いっしょに作ろう」
「ありがとうございます!」
パドマはいい女だなあ。俺を褒めてくれるし、フォローしてくれるし。
これなら俺の方からも、優しくしてあげたくなるってものだ。
それにしても、こんな風に美女と話しながら食事ができる時が来るなんて、想像もしていなかった。
この世界に来る前は、ひょっとしたら死ぬまで一人なのかもしれないとか考えていたから、今この瞬間が幸せすぎてヤバイ。
ずっとこの幸せが続けばいいのに……って、今は人身売買組織から逃げているんだった。全然平和じゃなかった。
昨日パドマとも話し合ったが、冒険者になれば世界中を
ギルドがある町についたら、冒険者登録を忘れないようにしよう。
「そうだザラ、パドマと話したんだけどさ……」
ザラにも冒険者になるという話をしてみると、特に反対はないようだった。
「別にいいんじゃない?アンタのことなんだから、アタシが口出すことじゃないし」
「そんなこと言うなよ。俺たちの今後に関わる話だぞ」
「アタシたちの……?え、それ、ど、どういう意味なのかな?」
ザラはなぜか声をうわずらせながら聞いてきた。
「どういう意味もなにも、昨日の夜、俺に付いてくるって話しになったじゃないか」
「え、あー、そういうことね。たしかにそう言ったかもしれないけど、アタシも冒険者をやるとは言ってないじゃない」
「そっか仕方ない。じゃあ俺とパドマだけで冒険者やるか」
「待って、やらないとは言ってないわ!」
「どっちだよ!」
「どっちだっていいじゃない!」
「いやよくないだろ!」
「うるさい男ね。細かいことにいちいちツッコミ入れないでよ」
以下、辛辣な罵倒混じりの文句を受けることになった。
だがそれもザラらしくていいとか思ってしまう俺は、Mの素質があるのだろうか。できることなら、もう少しだけ言葉遣いを優しくして欲しいんだけどな。
そんな話し合いの末、結局ザラも冒険者になることになった。パドマのフォローがなければ、話はいつまでも終わらなかったかもしれない。
閑話休題。
楽しい朝食も終わり、出発のための準備を整える。
セーブゾーンの掃除もしたし、結界石への魔力の補充も終わった。俺は武器にも使える包丁を研ぎ直したし、パドマは木を削って丈夫な棒を作った。
水袋も満タンにして、全員がそろったところで号令をかける。
「じゃあ出発しよう。今日の方針は、レベル上げしつつ道なりに進むことにする。それでいいな?」
「はい、問題ありません」
「別にどうでもいいわよ」
「よし、行くぞ!」
こうして、俺の異世界2日目の冒険が始まった。
【名前:ザラ
種族:エルフ
体力:55(+7)
理性:32(+10)
友愛:-45(+4)
忠誠:111
愛溺:143(+2)
状態:】
【名前:パドマ
種族:ドラゴニュート
体力:90
理性:28
友愛:96(+1)
忠誠:90
愛溺:36(-1)
状態: 】
◇◇
「グレイ殿!そっちへ行きましたよ!」
「ちょ、ま、これ無理!無理だから!!」
俺の異世界冒険2日目は、半日ですでにピンチを迎えていた。
パドマが俺でも倒せそうな弱いモンスターを見つけては、追い立て弱らせ俺がトドメを刺す。パドマ頼りのパワーレベリングではあったが、最初はうまく行っているように見えた。
ネコくらいの大きさのネズミから始まり、人の頭ほどもある甲虫、大型犬くらいのニワトリモドキと続いた。
包丁の切れ味がよかったのか、それともパドマの弱らせ方が上手かったのか、大して苦労せずに倒すことができて、レベルが1つ上がった。
そこまでは良かった。
だが俺は、パドマの俺に対する信頼の大きさを考えていなかった。
誘導してくる獲物がだんだん強くなっていることには、もちろん気づいていた。でも、でかいニワトリの後に来るのが、熊のように大きな猫だと、誰が想像できただろうか!
「なんなんだよコイツは!三毛の熊がいるなんて聞いたことないぞ!」
「熊ではなく、ワイルドダネスキャットという猫のモンスターです。三毛なのはなかなかレアだと思いますよ?」
「冷静に解説してないで、なんとかしてくれ!!」
俺よりデカいワイルダネスキャットとやらの攻撃を、必死にさばきながら叫ぶ。
でも振り回される前足の爪は包丁一本では捌ききれず、傷がどんどん増えていた。
切実に盾が欲しい。
「弱腰になってはダメです。グレイ殿は体力があるので、多少のダメージは覚悟して一気に攻めるべきです」
「アドバイスとかいいから!マジ、ヤバイ」
言われるまでもなく俺も攻撃を仕掛けているのだが、半分近く避けられてしまい、大したダメージを与えられていない。
押しては引かれ、守れば一気に攻めてくる。完全に相手のペースだった。
せめてまともに当られれば!
何度そう思ったかわからない。捕まえようと突っ込んでもするりと躱されて、俺の体に傷が増えるだけだった。
完全に手玉に取られてる。このままではなぶり殺しだ。
「こんちくしょーーー!」
破れかぶれで包丁を振りかぶる。その瞬間に、これも避けられるだろうと確信する。こんな雑な攻撃が当たるわけがない。
そう思ったら、急にワイルダネスキャットの動きが止まった。
足を何かに捕まれたかのように態勢を崩す。その隙を逃さず大上段から一気に振り下ろし、ワイルダネスキャットの胴体を袈裟懸けに深く切り裂いた。
大きな悲鳴をあげながら、ワイルダネスキャットは倒れた。
今まで倒してきたモンスターと同様に、急速に風化が始まり消えていく。そしてそこには滑らかな毛皮と鋭い爪だけが残った。
◆◆
「おい、今の見たか?」
「ああ、もちろん見たぜ。あのでっかいおっぱいがスゴく揺れたな」
「そこじゃねえよ。あの女、石をワイルダネスキャットの足にぶち当てやがった。何かしらのスキルがなけりゃ、あの威力であの正確な狙いはできないぞ」
「がはは、そんなのどうでもいいじゃないか。オレらには関係ないだろ?」
「まあそうだが、それにしてもあの男はなんだ?なんでワイルダネスキャット程度のモンスターを1人で倒せない男が、あんないい女を従えているんだ?」
「お前は細かいなあ。んなの、あの男の奴隷だからとかなんじゃねえのか?」
「だったらなおさら、女が殺してるだろ。ここなら始末に困らないし、そのまま国外に逃げられる。そうすりゃ奴隷身分から解放されるってのに、いったいなんで……」
「じゃあアレだ。あの男の方が奴隷なんだよ」
「は?荷物持ちなら
「へへへ。そりゃもちろん、ナニのために決まってるさ。あの男、オークス族みたいじゃねえか。オークスはあっちがタフだってことは有名だろうが」
「ああ、そういうことか。つまりあの女は、体力バカでどこでも盛れる精力のあるオークスくらいじゃないと満足できない淫乱女ってことか。お前、バカだけど頭いいな」
「だろ?だからオレらのアジトまで連れてってヤろうぜ」
「だな。商品が増えても問題ないし、ひょっとしたら追加報酬ももらえるかもしれないな」
「うひょう!追加報酬か。いいねえ!がぜんヤル気出てきた!」
「慌てんなよ。ここはアレを使って確実にいこうぜ」
「そんな必要あるかよ」
「バカ、相手はドラゴニュートだぞ。万が一のことを考えろよ」
「かー、お前は細かいなあ。まあいいや。オレは先に行ってるから、お前もちゃんとヤれよ」
「うっせえ!お前こそ、オレの邪魔すんじゃねえぞ」
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