第11話 二日目朝のあれこれ
鳥の声で目が覚めた。それは決してスズメのような可愛いものではない。キジやニワトリに近い、キョーンとかグエーみたいな声だ。
剣鹿と同じようにモンスターなのかもしれないが、けっこう遠くから聞こえてくるのでセーブゾーンの中なら安全だろう。
太陽はまだ見えないが、ウロの外は明るくなり始めていた。
よく眠れたので、体力は全回復している。気分もいいし、今日はいい日になってほしいものだ。
まだ寝ているパドマを起こさないようにして外へ出る。
焚き火の前にはザラがいて、こちらにすぐ気付いたようだった。
「もう起きたのね。調子はどう?」
「ああ、もうバッチリだ。昨日よりも動けそうだよ。俺はこれから朝飯作るけど、ザラはどうする?」
「じゃあアタシは水浴びしてくるわ。ずっと焚き火の前にいたから、体が煙臭くなっちゃった」
ザラと入れ替わるようにして、焚き火の前に陣取る。
食材を取り出してから何を作るか考えたが、昨日と同じものくらいしか作れそうにない。
料理を始めて少しすると、パドマが起きてきた。
まだ目覚めきってないのか、足取りが怪しい。服の裾も乱れていて、おへそが見えるくらいめくれ上がっていた。
「グレイどの、おはようございますぅ」
「おはようパドマ。服をちゃんと着とけよ」
「ふぁい」
無防備に大きなあくびをしている。まだ眠そうだ。
鍋の中身をかき回している俺のすぐ隣に腰掛けたかと思うと、いきなりひっついてきた。
「うぉう、なんだ?」
「グレイどのあったかいですぅ」
どうやら本格的に朝に弱いらしい。
パドマの体は冷たくて、ひっつかれた腕に鳥肌が立つ。ただ、ザラとは違って服越しでも柔らかいおっぱいが当たっている。冷たいけど、別にいいかなあと思ってしまった。
しかし、このままだと料理がちっとも進まない。
仕方ないので作り途中のスープを鍋からコップに移して、パドマの前へ持ってきた。
「ほら、とりあえずコレを飲んで温まれよ。落ち着くぞ」
「はーい」
パドマはコップを両手で包むように受け取り、ふーふー吹いてから飲んだ。
パドマがこれだけくっついてくるのは、たぶん友愛が90を超えているからだろう。このままだと100を超えたらどうなるのか、少し怖くもある。
彼女の性格からして、ニワトリのヒナのようにどこまでも後ろについてくるようになりそうだ。
「あったまってきました」
「ん、それはよかった。寒いなら俺の上着を貸そうか?俺は料理してたら暑くなってきたからな」
「ありがとうございます」
俺の上着を羽織らせると、うれしそうに顔をうずめる。
朝のパドマは可愛さが急上昇するようだ。褐色ナイスバディのお姉さんがカワイイとか、卑怯すぎるだろ。
無心でいようとするのだが、まだボーっとしているパドマが気になりチラチラ見てしまう。
そんなことをしていたら、急に目を見開いてこちらを見てきた。いきなりすぎて、チラ見の姿勢のまま固まってしまう。
ヤバい、やらしいヤツだと思われただろうか。
内心すっごいドキドキしてると、パドマは急に立ち上がって、少し離れて座りなおした。
「その……失礼しました。ワタシ、今変なことを言ってましたよね?寝起きは全然頭が働かなくて、半分くらい寝ながら行動してしまうのです。申し訳ありません!」
「いやその、へいき平気。俺もなかなか起きれなかったりするし。カワイかったから大丈夫だ」
「かわ……ううう。すいません」
パドマは顔を赤らめて俯いてしまった。
そのリアクションもまたすごいカワイイ。普段がきりっとしているだけに、朝の寝ぼけた様子が一段とかカワイく見えてしまう。
もしスマホを持っていたなら、絶対に一部始終を録画したのに。文明の利器がないことが、こんなにもどかしいとは思わなかった。
その後しばらく無言で料理を続ける。
料理がほぼ出来上がり、パドマも恥ずかしさから復活したころ、水が少なくなってることに気がついた。
そういえば昨夜はあの騒ぎのせいで、水を汲んでくるのを忘れていた。料理はできるけども、飲み水は足りなさそうだ。
「パドマ、これから水を汲んでくるから、火の番を頼めるか?」
「はい、お任せ下さい」
「じゃあ頼むよ」
水袋を両手に持って湖へ向かう。ザラが水浴びしているはずだが、さすがにもう終わっているだろう。
水浴び後の濡れた肌とか髪って、色っぽいんだよなあ。服を着てれば怒られることはないだろうし、やましい気持ちなんてちょっとしかない。
でも、もしかしたらまだかもしれないから、念のためにこっそり覗いてみようか。
そんな妄想混じりのことを考えながら歩いていると、湖の方から声が聞こえてきた。ザラの声のようだが、どこか様子がおかしい。
近づくと、少しだけ声がはっきりしてきた。
「あっ、いや……やめてっ」
焦ったようにも聞こえる声。ザラが何かに襲われている!?
慌てて飛び出そうとした俺は、続いて聞こえてきた言葉につんのめりそうになった。
「ダメよグレイ!そこは、うっ……ああっ!」
俺はここにいるし、周りを見るが危険そうなものはない。まさかとは思うが、俺に似たモンスターに襲われてるということはないよな。
続く声を注意深く聞いてみると、ザラの声に危機感がないのがはっきりしてきた。
俺は音を立てないように、慎重に道を進む。
ザラの色っぽい声が届いてきて、さすがにもうどういう状況なのかは理解できた。茂みの中から声のする方を覗くと、ザラは岸辺の倒木に全裸で寄りかかりながら、自分で自分を慰めていた。
ステータスを覗いてみたが、なにかの状態異常にかかっているわけではないようだ。
「あっ、そこっ、ああっ。あっっ!」
濡れた白い肌に土がついてしまっているが、気にしている様子はない。自分の世界に没頭しているようだ。
彼女の指が、その柔肌をなぞり、なであげる。ため息のような声をもらしながら、ときおり俺の名前を呼ぶ。
今ここで出て行ったら、彼女はどんな顔をするだろうか。驚き、恥ずかしがるだろうか。それともいつものようにののしるだろうか。それとも……。
いくつかの妄想を浮かべるが、今後のためにもそれを選ばない方がいいだろう。彼女の方も佳境が近づいてきたようで、声が大きくなってきている。
ものすごく名残惜しいが、最後まで見届けないで帰ることにした。
◇◇
「グレイ殿、ザラの様子はどうでした?」
「え?ああ、うん。まだ水浴びしてたから戻ってきた。あの様子じゃ、もう少しかかりそうだったな。俺が見に行ったことは秘密にしてくれよ」
「水浴びしてるところを見られたと知ったら、ザラさん怒りそうですもんね。ワタシだけの秘密にしておきます」
◇◇
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます