第10話 パドマの未来
ザラが明かりを持って行ってしまったので、ウロの中が暗くなった。
ゲームの中の存在だったはずの彼女たちにも、過去はあった。でも俺は、自分の過去を思い出せない。俺の記憶は曖昧なままだし、グレイとしての過去はゲームの始まりからしか知らない。
俺はいったい、何者なんだろうか。
そんな答えの出ないことを考えていたら、ウロの入り口に誰かが来た。
「グレイ殿、失礼します」
「パドマか。見張りご苦労さん」
「いえ、どうということはありません」
パドマは俺から少し離れた位置に腰を下ろした。
焚き火の近くにいたからか少し煙の匂いがするが、パドマの香りもはっきりと感じられた。
「見張りはやっぱり必要なのか?」
「はい確実にモンスターの侵入を防げるセーブゾーンだと言っても、怖いのはモンスターだけではありませんから」
一瞬なんのことか分からなかったが、そういえばパドマがこのセーブゾーンの入り口らしき方向を特に気にしていたことを思い出した。
「他の人間か」
「はい。善人の顔をしている人でも、悪人ではないと言いきれません」
真剣な声で言うので、過去に何かあったのかもしれない。でも料理中に話したみたいに、地雷に触れるつもりもない。
もっと他愛ない方向へ持って行った方がいいだろう。
「こういうセーブゾーンなんてのがあるなんて、俺は知らなかったよ。パドマは物知りなんだな」
「そんなことありませんよ。ワタシが知っていたのは、冒険者だからです。強くなるために、放浪の旅みたいなことをしていました」
「冒険者か」
「そうです。グレイ殿の住んでいた街には冒険者ギルドはありませんでしたか?大きな街には大抵あるはずです」
「言ってなかったかもしれないが、あの小屋以前のことは憶えてないんだ。だから分からない」
「それは、すいません」
「いや、気にしないでくれ」
恐縮するパドマに手を振るが、暗いからあまり見えていないのだろう。手を伸ばして肌に触れると、やっと頭を上げてくれた。
パドマはザラよりも筋肉が付いている。肌も少し硬い感じがするが、手触りはすべすべしている。
ドラゴニュートの種族特性は防御力の上昇だったはずだが、今は戦闘状態じゃないからかちょっと柔らかい。
そんな事を考えていたら、じっと見つめられていることに気が付いた。
「えっと、俺の過去はどうでもいいよ。それより、これからのことを話そう」
「これからのことですか?」
ごまかすために、強引に話題を引っ張ってくる。
「そうだ。俺はこの森を出たら、世界中を旅してみようと思ってるんだ。一箇所に留まっていたら組織のヤツらに見つかるかもしれないってのもあるんだけど、それ以上にこの世界のことが知りたくなってな。それでもし良かったら、パドマにも付いてきてもらえると……」
「行きます。どこまでもお供します」
「お、おう。ありがとう」
拒否はされないと思っていたが、ここまで食い気味にこられるとは思ってなかった。
両手を胸の前で組んで身を乗り出してきてるので、その手がおっぱいを強調しててすごい。
「ワタシの冒険者としての知識は、必ずやグレイ殿のお役に立つでしょう。それに戦闘経験も積んでいますので、露払いくらいなら任せて下さい」
「うん、期待してる」
俺がそう言うと、パドマはよりいっそう体を寄せてきた。
なんだろうこの娘は。忠犬というより、俺を神と崇める狂信者的なものを感じてしまう。
俺が悪い人間だったら、その信仰心を利用していけないイタズラをしちゃっていたかもしれない。でもこいつはそれでも喜びそうだ。それで散々遊ばれた挙句、邪魔になったら捨てられる未来が見える。
なんとなく不遇属性を背負っているように見えて仕方がない。
普段は頼れる人っぽいのに、実際は不幸カワイイ女性。とてもアリだと思います。
そんな俺のくだらない妄想に気づくことなく、むしろ刺激するようにパドマがためらいがちに近づこうとしてくる。エロい体つきをした女性のいじましい動きをこれ以上見ているのは色々とヤバい。なんとかしなければ。
「そうだ!頼みたいことがあるんだけど」
「はい、なんでしょうか。グレイ殿が望むなら、どんな要望にもお応えいたします」
ん?どんなことでも?……って違う。そっちに行くんじゃない。
「そんな大袈裟なものじゃないよ。ほら、今回の戦闘で、俺がまったく戦力にならなかったろ?だから俺も戦えるようになりたいから、その指導を頼みたいんだ」
「なるほど。たしかに旅をするなら、自衛くらいはできた方がいいですね。わかりました。明日からはモンスターと戦うことにしましょう」
戦闘に関する話しになると、パドマは真面目な顔になった。こういう切り替えが速いところは、とても頼りになると思う。
「うん、それがいいだろう。……ちなみに、この周辺はあの剣鹿クラスの敵ばかりなんてことはないよな?」
「それは大丈夫でしょう。あの剣鹿は群れのリーダー。つまりボスクラスの強敵です。ごく普通の剣鹿なら、ワタシであれば武器がなくても倒すことができます」
「だよな。……っていうか、素手で剣鹿を倒せるのか」
「もちろんスマートな方法ではありませんが。それくらいの実力があると思っていただいてかまいません」
「すごい自信だな。それとも普通の剣鹿はそんなに弱いのか?」
「いいえ。ただ単に、何度も戦ったことがあるだけです。流石に、あそこまで大きなボスクラスと戦ったことはありませんでしたが」
「やっぱりあいつは別格だったのか」
レベル1の俺がそんなヤツと戦って、よく生き残れたものだ。2人がついて来てくれて、本当に助かった。
「ひとつ思いついたのですが、グレイ殿も冒険者をやってみるというのはどうでしょうか。世界中を歩くというのに、冒険者という身分はうってつけですよ。それに冒険者になれば、ギルドからいろいろと便利な知識を教えてもらうこともできます。旅もより快適なものになるでしょう」
冒険者。
ゲームの中ではありふれた設定に、憧れがないわけではない。というかむしろ、少年の心が刺激されてときめく単語だ。
「いいね。面白そうだ。」
「なら決まりですね。ギルドへ行けば登録はすぐにできます。憶えておいた方がいいことも、ワタシが教えますよ」
「ありがとう。後でザラにも話しておくよ」
なら早速と、パドマは嬉しそうに冒険者について話し始める。
冒険者ギルドのシステムは、俺が知っているゲームのものにとても近いようだ。ギルドへ寄せられる依頼を冒険者が受け、それをこなして報告すると報酬が受け取れる。
貢献度のようなものもあって、それによってランク付けがされる。下から銅・鉄・銀・金・白金と5つの段階があり、ランクが高いほど難しい依頼が多く、報酬も高いそうだ。
ちなみにパドマは
冒険者の証は組織に捕まった時に取り上げられてしまったが、ギルドへ行けば再発行してもらえるそうだ。
その他にも、ギルドは冒険者のために様々なサービスを行っているらしい。
冒険者用の魔法というのがあって、剣鹿の角のようなちょっと危険なドロップアイテムを、安全に持ち運びできるようになるらしい。さっきもそれを使って回収したのだとか。
そのような話をたくさん聞いているうちに、次第にパドマのろれつが怪しくなってきた。
「今日はこのくらいにして、寝ておいた方がいいんじゃないか?まだ時間はあるんだから」
「その方がいいかもですね。はい、じゃー、続きは明日にしましょう」
「ああ。おやすみパドマ」
「グレイ殿、おやすみなさい」
パドマはそう言って横になると、すぐに寝息を立て始めた。
【名前:パドマ
種族:ドラゴニュート
体力:90(+30)
理性:28(+10)
友愛:95(+6)
忠誠:90(+3)
愛溺:37(-4)
状態: 】
【名前:グレイ
種族:オーカス
体力:195(+147)
理性:60(+2)
状態: 】
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