第39話 決着!!


 「…さあ、みんなの所へ帰ろう…」


「…うん」


 両手でチヒロを抱え空を飛ぶ『銀翼の天使エンジェル・シルバーウイング』、後方をエターナルの三人が続いている。

 じっと『銀翼の天使エンジェル・シルバーウイング』の顔を見つめるチヒロの表情は上気していて、まるで愛しい人に見惚れる乙女の様だった。

 実際、身体は女性になってしまってはいるが…。


「…あ…れ?」


 急に脱力する『銀翼の天使エンジェル・シルバーウイング』。

 何と突然変身が解け元の『果て無き銀翼ウイング・オブ・エターナル』に戻ってしまったのだ。


「どうしたの?」


「『エンジェルインストール』の効果が切れたみたい…」


 『果て無き銀翼ウイング・オブ・エターナル』を気怠さと疲労が襲う…これは『エンジェルインストール』の副作用の様なものだ。

 しばらくすれば自然に回復するのだが、今敵に襲われたらまともに戦うのは難しいだろう。


 だが最悪の事態は最悪のタイミングで訪れる…。


 後方と側面を警戒させていた『エターナル・ツー』と『エターナル・スリー』が水面から突如飛び出して来た水の槍に貫かれてしまったのだ。

 光の粒子になって消えていく二人。


「…!! 一体何っ?!」


 空中で急停止して周りを見回す『果て無き銀翼ウイング・オブ・エターナル』。

 しかし敵の姿は見当たらない。

 だが彼女には嫌な予感がして仕方が無かった…。


「『エアブロック』!!」


 空中に留まる空気のブロックを数個出現させ組み合わせ人ひとりが横たわれる位の透明なベッドが出来上がる。

 そこにチヒロを横たえて一人残った『エターナル・ワン』にこう言った。


「あなたはお姫ちゃんを連れて先に行きなさい…頼んだよ?」


『イエスマスター』


「ええっ!? そんな…!! ツバサちゃんはどうするの!?」


 動揺するチヒロ…いくら今の自分が無力だとしてもツバサを残して一人だけ逃げるのは耐えられなかった。


「ツバサちゃん…後ろ!!」


 何と音も立てずに『果て無き銀翼ウイング・オブ・エターナル』の背後に上半身だけの『純白の復讐者ホワイト・リベンジャー』が迫っていたのだ。


「さあ行って!! 『マックスピード』!!」


 『果て無き銀翼ウイング・オブ・エターナル』は自分の身を顧みず空気のベッドに魔法を掛けるとそれは目にも止まらぬスピードで飛び去って行った…『エターナル・ワン』も便乗している。


 その直後『果て無き銀翼ウイング・オブ・エターナル』は後方から『純白の復讐者ホワイト・リベンジャー』に首を掴まれてしまった。


「…う…ぐ…あ…」


苦しそうなうめき声を上げる『果て無き銀翼ウイング・オブ・エターナル』…声を封じられては魔法が使えないのだ。


「…アタシの命はもう長く無いわ…でもね…アタシの計画の邪魔をしたあなただけは絶対に許せないの…!! さあ一緒にあの世に行きましょう? 一人じゃ寂しいのよ…アタシ」


 彼女は『果て無き銀翼ウイング・オブ・エターナル』の首を掴んだ大きな手に更に力を込めた。




 ピロロロロロロロ…。


「ん? 何だ?」


 『森の守護者フォレスト・ガーディアン』と『吹雪の訪れブリザード・ブリンガー』のカードリーダーが同時に鳴った。

 それを手に取って見ると、先程『エターナル』達に持って行かれていた魔法が戻って来ているではないか…


「どう言う事…? 何で今戻って来るの?」


 訝しがる『吹雪の訪れブリザード・ブリンガー』。


「…!! まさかツバサの身に何かあったんじゃ…!!

 おい『億万女帝ビリオネア・エンプレス』!! もう一度モニターを見せてくれ!!」


「…ええ…分かりましたわ!!」


 『森の守護者フォレスト・ガーディアン』の要請でもう一度大画面のカードリーダーを起動する。

 そこには『純白の復讐者ホワイト・リベンジャー』に締め上げられている『果て無き銀翼ウイング・オブ・エターナル』が映し出されたのだ。


「…!! ツバサさん!?」


「どうなってんだ!! アイツは倒したはずだろう…?」


 驚きを隠せない『億万女帝ビリオネア・エンプレス』と『森の守護者フォレスト・ガーディアン』。


「…何て執念なんだ…『復讐者リベンジャー』の名前は伊達じゃない…」


 神妙な表情で『吹雪の訪れブリザード・ブリンガー』が呟く。


「…距離はここから2kmはあるか…吾輩の『レールキャノン』で狙えない距離ではないがツバサも巻き込んでしまうな…」


 伸縮式の望遠鏡で様子を窺っていた『大地の戦乙女グラン・バルキリー』は歯噛みしていた…。


「…自分なら狙えるっス!!」


 不意に後ろから声が掛かる。

 一同が振り返るとそこには一人の魔法少女が立っていた。


 栗色のショートカットのくせっ毛に真っ赤なサンバイザーを被り、

 ストライプの野球ユニホーム風コスチュームにショートパンツ、

 右手には真っ赤なバット型マジックデバイスを持った魔法少女…。

 『燃える強打者バーニング・スラッガー』だった。

 傍らには彼女のマスコットのソバットも居た。


「…あなた…!! 無事だったのですか?!」


 『億万女帝ビリオネア・エンプレス』が驚くのも無理はない。

 『燃える強打者バーニング・スラッガー』が監禁されていた魔法少女協会の留置場は首都のミレニアンごと水没していたはずなのだから。


「羽根が六枚ある女神さまみたいな出で立ちの人が助けてくれたっス!!

 街の人も全員では無いんスが無事っス!!」


 体育会系特有の言い回しで力強く答える『燃える強打者バーニング・スラッガー』。


「それよりツバサ先輩がピンチなんスよね!? 自分に任せて欲しいっス!!」


 どう見ても彼女の方がツバサより年上なのだが…今は誰も突っ込まなかった。

 『燃える強打者バーニング・スラッガー』がスタスタと湖面ギリギリまで移動しクルリと背を向ける。


「おいおい!! 狙う方向が逆だよ!!」


 目の前の彼女のおかしな行動に流石に突っ込みを入れざるを得ない『森の守護者フォレスト・ガーディアン』。


「いえ!! これで合ってるっス!! …『ワンマンベースボール』!!」


 右手のバットがグローブに変化し装着される…どうやらサウスポーの様だ。

 思いっきり振りかぶり、上げた右足が真っすぐ天に向かう…。

 そして渾身の力を込めて投げる!!

 豪速球が炎を纏い飛んでいく!! …すると今度は『燃える強打者バーニング・スラッガー』が猛ダッシュ!! その球を追い抜き立ち止まる。

 グローブは既にバットに戻っており、右手のバットを正面に突き出し、左手で右肩を掴む…まるで予告ホームランのサイン。

 そしてバッティングフォームに移行。

 迫る火の玉魔球!!


「…行っけ~~~~っ!!!」


 フルスイングしたバットはど真ん中に飛んで来た火の玉を芯で捉た…!!


 カキーーーーーーーン!!!


 爽快な打撃音を発しながら球は飛んでいく…。


 一同はポカンと口を開けたまま只々打球を目で追うしかなかったが、その球も一瞬にして見えなくなっていった。




「…あぐっ…ふあっ…!!」


 首を絞められ苦しそうにうめき声を上げる『果て無き銀翼ウイング・オブ・エターナル』。


「ああ~ん…いいわ~ん…あなたのその表情…ゾクゾクしちゃう…」


 恍惚とした表情を浮かべ舌なめずりする『純白の復讐者ホワイト・リベンジャー』。

 わざわざ後ろから掴んでいた彼女をその苦悶の表情を見るためだけに自分の方へ顔を向けさせていた。

 直ぐにでもくびり殺せた筈だったのだが彼女は勝利を確信して『果て無き銀翼ウイング・オブ・エターナル』を嬲っていたのだ。


「もうちょっとその顔を見たいたいのだけど…アタシも時間が無いの…そろそろ…死んで?」


 自分も後が無いのを悟ったのか遂にとどめの態勢に入った…。

 のだが、『純白の復讐者ホワイト・リベンジャー』の左肩に高速で飛んで来た火球が当たり大きく吹き飛ぶ!!


「…ギィ…ギニャアアアアアア!!!!?」


 何が起きたか分からず激痛に悲鳴を上げる。

 そのせいで一瞬彼女の腕の力が緩んだ…喉を解放された『果て無き銀翼ウイング・オブ・エターナル』は残り少ない魔法力とイェンを使って最期の魔法を叩き込む。


「『ブリザード』!!」


「…ヒャアアアア!! 身体が…!! 身体が凍る…!!」


 冷気を纏った風が吹き付ける。

 身体の殆どが魔力を含んだ水分で出来ている『純白の復讐者ホワイト・リベンジャー』の身体は面白い程よく凍った。

 以前、『吹雪の訪れブリザード・ブリンガー』から『ダビング』した『ブリザード』…まさかここで使う事になろうとは…。

 完全に凍結した事によって背中の翼も動かせず飛んでいられなくなった『純白の復讐者ホワイト・リベンジャー』は力尽き、熱湯の湖面に勢いよく落下してそのまま沈んでいく…。


「ギャアアアアア…!! とっ…解けてしまう…!! 身体が…!! …嫌アアアアアア!!!! 混濁他亜コンダクター様~~~!!」


 超回復を担っていたチヒロを奪われ、凍結させられたせいで体表の細胞を破壊された事によって『純白の復讐者ホワイト・リベンジャー』の身体は跡形も無く湖の水に混ざり合って消えていった。


「…コンダクター…?」


 彼女の断末魔に叫んでいた名前…一体誰の事であろうか…。

 しかし『果て無き銀翼ウイング・オブ・エターナル』も限界を迎えており、何と空中で変身が解けてしまったのだ!!

 ただの人間の女の子に飛行能力があるはずが無い…。

 ツバサは気を失いそのまま湖面に真っ逆さまに落ちて行った。

 しかし水面に浸かる寸前で空中に停止…。

 フワッと再び空に向かって上昇を始める。

 そしてとある女性が差し出した両腕の上に横たわる様に乗ったのだ。


「…全く…この子は…無茶し過ぎだよ…でも…良くやったね…」


 ツバサに優しく声を掛ける女性…美しい黄金の髪、海の様に蒼い瞳、

 純白の布に身を包み、背中には三対六枚の天使の羽、

 頭の上には光り輝くリングが浮かんでいる。


 そう、この人物こそ伝説の魔法少女…『平和の創造者ピースメーカー』その人だ。


「それじゃあ帰りましょうか…お友達が首を長くして待ってるよ…」


 『平和の創造者ピースメーカー』はツバサを慈しむように抱き寄せ、六枚の羽根を広げて優雅に飛び去って行った。

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