第38話 天使とラストダンスを…


 「まあ…皆さんご無事で!!」


 湖岸で三人が到着したのを出迎える『億万女帝ビリオネア・エンプレス』。


「なあ…ツバサはどうしちまったんだ?」


 到着するなり『森の守護者フォレスト・ガーディアン』が疑問をぶつける。


「…まずはこれを見て下さいな…『ビッグスケール』!!」


 『億万女帝ビリオネア・エンプレス』が魔法を唱えると彼女のカードリーダーが通常の四倍程の大きさになった。

 大画面には『果て無き銀翼ウイング・オブ・エターナル』が更に変身した姿、『銀翼の天使エンジェル・シルバーウイング』が映し出される。


「…この姿は一体?」


「きっとツバサさんが『クリエイト』の魔法で編み出したオリジナル魔法マジックでしょうね」


「『クリエイト』? …聞いた事無いね…」


 『吹雪の訪れブリザード・ブリンガー』が首を傾げる。


「え~と、それはですね…」






「金ちゃん!!」


「…ツバサ…さん?」


 消耗した身体で必死に歩いていた『億万女帝ビリオネア・エンプレス』の横に颯爽と飛んで来た『果て無き銀翼ウイング・オブ・エターナル』。


「さっきはごめんなさい…!! 私、最後までお姫ちゃんの事諦めないから!!」


「…ツバサさん…良かった…」


 『億万女帝ビリオネア・エンプレス』の頬を涙が伝う。


「ついさっきね、『平和の創造者ピースメーカー』って人から通話があって…新しい魔法を貸してもらえたの!!」


 喜々として自分のカードリーダーを彼女に見せる。


「…『平和の創造者ピースメーカー』ですって!? …それにこの魔法は…」


 『億万女帝ビリオネア・エンプレス』は魔法の説明文を見ただけで悟った…これらの魔法は使い方を誤ると魔法世界の秩序を乱しかねないと…それだけの危険を孕んでいる強力な魔法なのだ。


「それで今からさっそく金ちゃんを治してあげようと思って…」


「…えっ…それは在り難いですけど…」


「『クリエイト』!! 『ヒール』!!」


 特に気を遣わずに魔法を唱える『果て無き銀翼ウイング・オブ・エターナル』に一抹の不安を感じるが見守るしかない。


 彼女のステッキの先端が温かい光を灯したまま何も起きない…いやこの光が『ヒール』なのだ。 

 ここに念を投じる事で新魔法が生まれる。


(とにかく金ちゃんの体力を回復してあげたい…)


 『果て無き銀翼ウイング・オブ・エターナル』が頭の中で念じる。

 すると今度は光が赤に変わりステッキから電子音声が流れる。


『『リバイタル』ノマホウガデキタ~ヨ!!』


「何か魔法が出来たみたい…」


「…はぁぁ…」


 『億万女帝ビリオネア・エンプレス』は思わず息を呑んだ。

 目の前で新魔法の誕生に立ち会ってしまったのだ…彼女の胸が高鳴った。

 造り出した本人は特に何とも思ってなさそうだが…。


「じゃあ今から体力を回復させてあげるね…『リバイタル』!!」


 『億万女帝ビリオネア・エンプレス』の身体を赤い光が包み込む。

 ポカポカと春の陽気のもと日向ぼっこでもしている様な心地よさだ。


「はぁ…気持ちいい…」


 口元が緩み危うくよだれを垂らしてしまいそうになった。


「…どう?」


「…うん!! 体調が元に戻りましたわ!! …ありがとうツバサさん…」


「…えへへ~」


 微笑み合う二人。


「あっ…こうしちゃいられない!! みんなが気になるから先に行くね!! また後でね金ちゃん!!」


 『果て無き銀翼ウイング・オブ・エターナル』落ち着きなく空に向かって飛んで行ってしまった。


「頑張って!! ツバサさん!!」


 『億万女帝ビリオネア・エンプレス』はその後ろ姿に暫くの間手を振っていた。






「そうか…新しく魔法を創造クリエイトする…そんな凄い魔法が…」


 顎に人差し指と親指を当て興味深そうに聞き入る『大地の戦乙女グラン・バルキリー』。


「きっとこの二段変身も『ブースト』や『エール』などの能力強化魔法とプラスアルファ的な何かを混合した物かも知れないですわね…」


 『億万女帝ビリオネア・エンプレス』が解説しているが顔が緩みっぱなしだ。


「…でもツバサさん…マジ天使ですわ~あっ画像を保存しなければ…」


「お嬢…」


 カオル子のツバサラブは筋金入りだった…ダニエルも呆れるしかない。


『私達ハマスターデアル『銀翼ノ天使エンジェル・シルバーウイング』ノ援護ニ戻リマス、皆サンノ魔法ハ後デ返シマスノデ心配ナサラズニ…』


 そう言って三人の『果て無き銀翼ウイング・オブ・エターナル』は再び来た方向へと飛び立っていった。


「ファミリア《使い魔》とはよく言ったものだ…ってあいつら今おかしなことを言ってなかったか?」


「…皆さんの魔法は後で返す…? 何の事だい…?」


「…ちょっと待って!! まさか…!!」


 『億万女帝ビリオネア・エンプレス』を除く三人が慌てて自分のカードリーダーを確認する。


「…無い!! 吾輩の『レールキャノン』の魔法が…!!」


「アタイのは『アイビーウイップ』が無いな…」


「…私は…『アイスソード』を持って行かれた…」


何と分身体『果て無き銀翼ウイング・オブ・エターナル』は各々が運んで来た魔法少女から魔法を『レンタル』していったのだ…しかも何の断りも無しに。


「ウフフ…中々やりますわね…」


 『億万女帝ビリオネア・エンプレス』はクスクスと含み笑いをした。





「『ウェザー』!!」


 戦闘の開幕に『銀翼の天使エンジェル・シルバーウイング』はまず『ウェザー』の魔法を唱えた。

 見る見る上空に暗雲が立ち込める。


「…まずは雨を降らせて湖の温度を下げようってのかい? それを今やるなんてアタシも舐められたものだね!!」


 爪を振りかざし向かって来る『純白の復讐者ホワイト・リベンジャー』の攻撃を『銀翼の天使エンジェル・シルバーウイング』はマジカルロッドでいとも簡単に捌いていた。

 クルリと回転しロッドの柄の部分を『純白の復讐者ホワイト・リベンジャー』の脇腹に突き刺すと爆発したように吹き飛び身体が大きく削られた。


「ギィャアアアアアアアア!!」


 そのロッドの先端には『エアバースト』の魔法が込められていたのだ。


「『ゴールドラッシュ』!!」


 更にコインの追い打ち、貫通した物が殆どだが数個が『純白の復讐者ホワイト・リベンジャー』の体内に埋もれたままになった。


「この!! 『ジェットストリームスパイラル』!!」


 一瞬たじろいだ『純白の復讐者ホワイト・リベンジャー』であったがすぐに反撃に出た。身体は既に再生が始まっている。

 『銀翼の天使エンジェル・シルバーウイング』に向けて数多の螺旋を描く水の矢が襲って来る。


「『スパイラルアロー』!!」


 しかし『銀翼の天使エンジェル・シルバーウイング』も『ジェットストリームスパイラル』と同じだけの回転する空気の矢を同じ軌道に放ち全て相殺してしまった。


「きい~っ!! 何て子なの!! このアタシが何も出来ないなんて…!!」


 心底悔しがる『純白の復讐者ホワイト・リベンジャー』。


「もう何をやっても無駄です…大人しくチヒロさんを解放して投降するなら悪いようにはしません…」


 落ち着いた大人びた口調で降伏を促す。

 これがあのすぐに落ち込んで泣きべそをかくツバサだったと誰が思うだろう。

 しかし『純白の復讐者ホワイト・リベンジャー』はその台詞を聞いた途端、ニタニタと悪い笑みを浮かべた。


「そうだ…アタシにはまだチヒロと言う切り札があるじゃないか…

 これをやってしまったらアタシはもう元の姿には戻れないが仕方が無い…」


 彼女の腹の中に居るチヒロが下から盛り上がって来る肉の壁に包み込まれゴリゴリと骨を砕く音が響かせ縮んでいく。

 これではまるで『純白の復讐者ホワイト・リベンジャー』がチヒロを喰らって咀嚼している様ではないか!!


「いやぁ…!! あなた…!! 一体何をしてるの…!!?」


 先程まで冷静だった『銀翼の天使エンジェル・シルバーウイング』が悲鳴交じりの絶叫をした。


「…人質作戦はもうお終いよ~ん!! アタシは今からチヒロと完全融合してより完璧な超絶魔法生命体になるのよ~ん!!」


 不敵な笑みを浮かべる『純白の復讐者ホワイト・リベンジャー』。

 身体にはすぐに変化が現れた。

 顔が段々化け猫から人に近い形状にグニャグニャと変形していく…。

 長い髪が伸び顔の変化が収まると…その顔はチヒロその物であった!!

 体型も先程までの化け物じみた物では無く人間の女性に近い物となった。

 しかし大きな手足と爪は健在でそこだけ異彩を放っている。

 そして長い尻尾の先は鋭利な矛先の様に尖っている。

 言わば『真・純白の復讐者シン・ホワイト・リベンジャー』だ。


「…何て事なの…!!」


 動揺を隠せない『銀翼の天使エンジェル・シルバーウイング』。

 しかし『真・純白の復讐者シン・ホワイト・リベンジャー』はその隙を見逃さなかった。

 高速飛行で詰め寄りその大きな手で『銀翼の天使エンジェル・シルバーウイング』の両肩を外側から力強く鷲掴みにした。


「ぐうっ…!! しまった!!」


「こうなってしまえばこっちのもの…!! さあ…くたばりな!!」


 『真・純白の復讐者シン・ホワイト・リベンジャー』の股下から尻尾が生き物の様に勢いよく上がって来て『銀翼の天使エンジェル・シルバーウイング』の腹を貫く!!


「きゃああああっ!!! …ガフッ…」


 悲鳴を上げ吐血する『銀翼の天使エンジェル・シルバーウイング』。


「ウフフフ…その大怪我で下の熱湯に落ちたらどうなるのかしら…」


 グロッキー状態の『銀翼の天使エンジェル・シルバーウイング』を頭上まで持ち上げ…


「楽しみね…!!!」


 そして思い切り下に向けて振り落とした。

 物凄い速さで落下する『銀翼の天使エンジェル・シルバーウイング』。


 しかし間一髪!! 『果て無き銀翼ウイング・オブ・エターナル』が三人がかりで彼女をキャッチ!! 熱湯への落下を阻止した。


「この人形共!! 邪魔をするな!!」


 あとちょっとでとどめを刺せるところを邪魔され激怒する『真・純白の復讐者シン・ホワイト・リベンジャー』。


『マスター…大丈夫デスカ?』


「…ありがとう…私は今から自分を治療するから…あなた達は少しだけ時間を稼いでくれないかな?」


『イエス…マスター』


 『銀翼の天使エンジェル・シルバーウイング』が命令すると彼女たち三人は『真・純白の復讐者シン・ホワイト・リベンジャー』の方に向かっていく。

 その途中一人目の『果て無き銀翼ウイング・オブ・エターナル』(エターナル・ワン)の姿が変化を起こした。

 右肩に光の粒子が筒状に集まると、大砲に変化したのだ。

 頭には『大地の戦乙女グラン・バルキリー』と同じ両側に羽根の付いた兜をかぶっている。

 次に二人目の『果て無き銀翼ウイング・オブ・エターナル』(エターナル・ツー)は花の冠を頭に乗せており、

 三人目の『果て無き銀翼ウイング・オブ・エターナル』(エターナル・スリー)は白いフードで頭を覆っており右手にはアイスソードが握られていた。


「…なっ…何なの?! この子達は…!!」


 その異様な光景を目の当たりにし動揺する『真・純白の復讐者シン・ホワイト・リベンジャー』。


 『エターナル・ワン』が大砲を発射…難なくそれを避ける『真・純白の復讐者シン・ホワイト・リベンジャー』だが

 その先に待ち構えていた『エターナル・ツー』の手から出した長い蔦に絡め取られ身動きが取れなくなった所を『エターナル・スリー』によってアイスソードで切り付けられる。


「…このっ!! 鬱陶しいのよアンタたちは~!!」


 渾身の力で蔦の拘束を打ち破る。

 しかしエターナル達の絡みつく様な攻撃が続く…。


「よ~し…みんなその調子よ…『ハイヒール』!!」


銀翼の天使エンジェル・シルバーウイング』は自身の腹部に手を当て回復魔法をかけた。

 この『ハイヒール』の魔法は『ヒール』の強化版だ、より重度の怪我も短時間で治せる優れものだ。

 決して踵の高い靴の事では無い。


「…そろそろ頃合いかな…?」


 『銀翼の天使エンジェル・シルバーウイング』は上空を見上げると

雲は黒ずんだ雨雲に変わり始めている。


「白猫さんが二段変身したのは予定外だったけど…当初の作戦通り行くわ…」


 空からゴロゴロと音が聞こえる…雷が発生するのだろう。


「やるなら今!! …風よ!! 猛々しき天空の王者よ!! 邪悪なる彼の者に轟く鉄槌を下し給え!!…『ウインズオブサンダー』!!」


 上空の雲がスパークし一瞬空が明るくなる。


「みんな逃げて!!」


『イエスマスター』


 エターナル達は一斉に散開、『真・純白の復讐者シン・ホワイト・リベンジャー』から離れた。


 その刹那、空からひと筋の雷光が一閃!!


「キャアアアアアアアッ!!アババババババッ!!!」


 震える大気…。

 雷が『真・純白の復讐者シン・ホワイト・リベンジャー』に直撃したのだ。

 閃光の中で痙攣しながら悲鳴を上げている。

 先に身体に埋め込まれたコインが雷を呼び寄せる役割をした訳だ。

 『銀翼の天使エンジェル・シルバーウイング』は最初からこれを狙っていた事になる。

 『真・純白の復讐者シン・ホワイト・リベンジャー』は暫く電撃に撃たれ続けた挙句、解放された後熱湯の湖面に落下しさらにダメージを受け仰向けに水面に浮かんでいた。

 普通の怪物ならこれで仕留められそうなものだが、そこは超絶魔法生命体…回復して再び上空へと舞い戻って来た。


「…やってくれたじゃないの…今のは流石にアタシも死ぬかと思ったわ!!」


 肩で息をして物凄く醜悪な表情で睨んで来る。


「…やはり…この程度では倒せないか…でも電撃の目的はそれだけじゃないのよ!!」


(…ツバサちゃん…?)


 チヒロの声だ…しかしどこから聞こえてくると言うのか…


「良かった…!! 目が覚めたんだね!? お姫ちゃん!!」


 確信していたかのような『銀翼の天使エンジェル・シルバーウイング』の口振り。


(僕はどうなってしまったんだ…)


 チヒロの声は『真・純白の復讐者シン・ホワイト・リベンジャー』の身体から発せられていた。

 『銀翼の天使エンジェル・シルバーウイング』の真の目的は電気ショックによってチヒロの意識を目覚めさせる事にあったのだ!!

 本来ならばチヒロの身体が原型を留めている状態で行いたかったのだが、結果オーライと言った所だろう。


「待ってて!! 今助けるから…!!」


 『銀翼の天使エンジェル・シルバーウイング』が叫ぶ。


(…無理だよ…もう僕の身体はひとかけらだって残っちゃいない…

 きっとそんなに掛からずに僕の精神も消滅してしまう…)


 しかしチヒロから発せられた言葉は拒絶であった。


「大丈夫!! 私が絶対何とかするから…!! 信じて!!」


(…ツバサちゃん…)


 力強い『銀翼の天使エンジェル・シルバーウイング』の呼びかけに涙声になるチヒロ…本当は彼だってこのまま死んでいくのは嫌なのだ。


「アタシを無視して何を勝手に盛り上がっているのかしら~ん? 頭に来るわね!!!」


 チヒロの顔をした『真・純白の復讐者シン・ホワイト・リベンジャー』の表情が般若の様に豹変した。


「完全に融合したアタシとチヒロを引き剥がすのは無理よ!! そのままお友達を大事にしてあなたが死ねばいいわ!!」


 両手を振りかぶって『真・純白の復讐者シン・ホワイト・リベンジャー』が襲い掛かって来た。

 ナイフの様な鋭い爪が迫る!!


「最後まで打てる手があるうちは諦めない!! …『カミカゼ』!!


 『銀翼の天使エンジェル・シルバーウイング』の全身を包むように空気が高速で渦巻く…そして縦横無尽に飛行しながら加速を続け、正面から向かって来る 『真・純白の復讐者シン・ホワイト・リベンジャー』目がけて特攻を開始した。


 空中で交錯する『銀翼の天使エンジェル・シルバーウイング』と『真・純白の復讐者シン・ホワイト・リベンジャー』。


 制止する二人…そして暫しの静寂…。




「ゴバァッ…!!」


 口から青い体液を吐き出す『真・純白の復讐者シン・ホワイト・リベンジャー』。

 身体の中心に大穴が空いており、ガクリと力が抜ける。


「『ピックアップ』!!」


 振り向きざまに『銀翼の天使エンジェル・シルバーウイング』が『真・純白の復讐者シン・ホワイト・リベンジャー』に向かって腕を伸ばし魔法を唱える。

 すると『真・純白の復讐者シン・ホワイト・リベンジャー』の身体から光の粒子が多数現れ『銀翼の天使エンジェル・シルバーウイング』の差し出された両手に続々と集まって来る。

 この魔法は術者が求めるものを選別して取り出す物で、

『サーチ』、『ダウジング』、『アナライズ』を『ミキシング』の魔法で合成して造り出されているのだ。

 この粒子はチヒロを構成していた物で、

 チヒロの意識を覚醒させたのはこの魔法を効率よく行うためでもあった。

 そして集まった光は徐々に人型を成していき、『銀翼の天使エンジェル・シルバーウイング』の腕の上にひとりの少女が現れた。

 チヒロだ…一糸纏わぬ姿のチヒロは意識が無い状態で、身体が女性化している以外におかしな所は無さそうである。


「…そんな…馬鹿な…こんな事が出来るなんて…お前はまさか…!!」


 『真・純白の復讐者シン・ホワイト・リベンジャー』の姿は見る見る縮んでゆき、初めの『純白の復讐者ホワイト・リベンジャー』の状態に戻っていく。

 身体の一部分を占めていたチヒロが抜き取られたからだろう…

 恐らく超再生能力も失われていると思われる。


「…やはり…お前だけは生かしておくべきでは無かったわ…」


 不快な捨て台詞を残し、腹に大穴が空いた『純白の復讐者ホワイト・リベンジャー』は真っ逆さまに熱湯の湖に落下し姿を消した。




「…お姫ちゃん…お姫ちゃん…」


 『銀翼の天使エンジェル・シルバーウイング』が腕に抱いているチヒロの耳元でやさしく囁く。


「…うっ…う~ん…」


 ゆっくりと目を開けるチヒロ。

 銀髪赤眼ぎんぱつせきがんの天使の顔がアップで目に入った。


「…ツバサちゃんなの…?」


 恐る恐る訪ねて来る。


「…うん…うん…!! お帰りなさい!! お姫ちゃん!!」


「ツバサちゃん!! ツバサちゃ~ん!!」


 形振り構わず抱き合う二人…。




「良かった…本当に良かったですわ…うわああああん!!」


 モニターで見ていた『億万女帝ビリオネア・エンプレス』も堪らず泣き出す。


「ふぅ~…大した奴だよツバサは…!! それに比べてアタイと来たら…」


「ああ…あやつには最大級の賛辞を贈ろう!!」


「…ツバサ…見直した…」


 三人も抱き合う二人を優し気に見守る。


 その後も『銀翼の天使エンジェル・シルバーウイング』とチヒロは顔を涙でグチャグチャにして大声を上げて泣き続けた。

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