第34話 動き出す厄災
(ツバサちゃん…ツバサちゃん…)
「…う~ん…誰…?」
ツバサは真っ暗な空間を漂っている。
自分で体勢をコントロール出来ない状態だ。
(ツバサちゃん…僕だよチヒロだよ…)
「…お姫ちゃん?!」
途端にパッと視界が開けるとそこは花畑で、空はどこまでも青く澄んでおり雲一つない…そしてツバサはしっかりと地面に立っていた。
その目の前に立っていたのは…『
「お姫ちゃん!! 会いたかった…!!」
すぐさま駆け出しチヒロの胸に飛び込むツバサ。
胸の柔らかな双丘に顔を埋めて泣きじゃくる。
「うっ…うわああああん…!!ああああん…!!」
一向に泣きやまないツバサを優しく抱きしめ『
(そのまま聞いて…僕は今から君にお別れを言わなきゃならないんだ…)
「ええっ!? そんな!! どうして…!!」
胸から顔を離して『
(僕の心はもうじきアイツに消されてしまうんだよ…だからその前に最後の力を振り絞ってツバサちゃんに会いに来たんだ…)
「アイツって一体誰なの?! そんな酷い事をするのは!! 今から助けに行くからお姫ちゃんが居る場所を教えて!!」
悲しみと怒りが混ざり合った感情がツバサの心の中に発現する。
(もう遅いんだ…もう間に合わない…だから僕の最期のお願いを聞いて?)
「…最期なんて言わないでよ…」
止まらない涙を手で拭いながら震える声で訴える。
(きっと僕は変わり果てた姿で君たちの前に現れるだろう…でもその時は
「………!!」
『
(じゃあ頼んだよ…さよならツバサちゃん…)
そう言うと『
「嫌だよ…待って…!! 行かないで!! お姫ちゃん!! お姫ちゃ~ん!!!」
ガバァッ!!
「はぁ…はぁ…はぁ…」
上半身を勢いよく起き上がらせ目を覚ますツバサ。
頬には涙が伝っている。
ここは自分の部屋…昨夜は普通に眠りに就いたのだ。
「ツバサ!! 大丈夫か?! 随分うなされていたみたいだけど…」
枕元で心配そうにしているユッキーが居る。
「うん…大丈夫…今凄く嫌な夢を見てたの…」
ツバサの顔は真っ青だった…あれは本当に夢だったのか?
「最近激闘が続いていたからきっと疲れているんでありんすよ…」
「ごめんね…心配かけて…」
ツバサはおもむろに寝床からでて起床の準備を始めた。
気は重いが学校に行かなければならない…
「はあ…集まる所が無くなるとこうもつまらなくなるとは…」
現在立入禁止になっている元スナック『ワンチャンス』の前でつぶやくダニエル。
「同感だ…今度からはどの店で飲もうかね…」
「…鷹の旦那か…」
特に待ち合わせた訳では無いがばったりとタカハシに会った。
「私は酒は飲まないから別にどこでもいいんですが…」
「これから一体どうなっちまうのかね…」
ネギマルとペンタスまで現れた。
四匹は寂しそうに店の外観を眺める。
そんな時だ、遠くから大きな音が聞こえる…耳を澄ますと微かに悲鳴も混じっている様だ。
「これは一体…?」
ダニエル達が通りに目を移すと天まで届く水柱がミレニアンの街を包囲
する様に幾本もそびえ立っている。
ミレニアンは真上から見ると円形の城塞都市である。
水柱は竜巻の様に回転しながらその中心に向かって移動を開始、ガリガリと城壁を削っている。
「もしや…ママが動き出したか…!! お前ら!! 自分のマスターのもとへ戻れ!!」
タカハシが声を荒げる。
「おう!! 後で落ち合おう!!」
「了解!!」
マスコット達は急ぎ各々の
「はぁ…」
今日いく度目かのため息を吐くツバサ。
学校に居ても今朝の夢が頭から離れずずっと憂鬱だった。
自宅に着き自室のドアを開ける。
「ただいま~…」
「ツバサ!! やっと帰って来た…大変なんだよ!!」
部屋に入るなりユッキーが飛び付いて来た。
その鬼気迫る様子にたじろぐツバサ。
「…どうしたの!?」
「今ファンタージョンのミレニアンが大変な事になってるんだ!! 今すぐ向かおう!!」
「…分かった!! 行こう!!」
通学カバンをベッドに投げ捨てツバサは懐からカードリーダーを取り出した。
「…こんな…こんなのって…」
『
ミレニアンがあったはずの土地は巨大な湖と化していたのだ。
今は付近の山頂から現場を見下ろしているのだが、当然近くにあった森林も村も全てが水没している。
昨日までの景色を知らない者が見たらここは元々湖なのではと誤解してしまう程の変わり様だ。
「…ダニエルから連絡が来たのが約五時間前…とは言えまさかこんな事になっているなんて…」
ユッキーもただ茫然と立ち尽くすしかない。
「…ツバサさん!! 来ていたのですね!!」
「あっ…金ちゃん!!」
向うから駆けて来るのは『
「大変な事になったな…」
反対方向からタカハシが肩に泊まった『
「…はぁ…また厄介な事に…」
その後ろをトボトボと『
「戦ちゃん!! ブリ…じゃなかったフブキさん!!」
山頂に四人の魔法少女が集結した。
「でも…これからどうしたらいいの…? 街の人たちは無事なのかな…?」
『
こうなってしまったら『
「アハハハハッ…いい気味だわ~ん!! どう? 守るべき物と人々を失った気分は…!!」
このねっとりとした言い回しと声色は…白猫ママだ!!
一同は周りを見回すが姿が発見できない。
しかしこの声は一体どこから聞こえてくるのか…。
「見て!!水面が…!!」
『
その中心からは見た事の無い巨大な異形の怪物が出現する。
そして渦の治まった水面に当たり前に足を下ろし立っていた。
その姿は猫科の生物を人型にした様なフォルム、顔は化け猫と言う形容しか浮かんでこない禍々しきもので、胸に二つの膨らみがあり女性を連想させる。
そして異様なのは上半身が水が満たされているが如く半透明だと言う事。
腕は手の平の部分が異常に大きく指先には刃物の様な鋭い爪、背中には悪魔的な先端に棘が突き出た翼を持ち、鞭の様な長い尻尾もある。
下半身は膝が逆に曲がっていて真っ白な体毛に覆われており、足の指には鋭い爪があった。
「…お前は…白猫ママ…なのか…?」
恐る恐るユッキーがその怪物に声を掛ける。
「その呼び方はそろそろやめてね~ん? そうね…『
「『
『
「あら~ん…やる気~? それはこれを見てから考えた方がいいわよ~ん?」
彼女の水の様な上半身が透明度をまし、腹の辺りに徐々に何かが見えて来る…あれは人影だろうか…。
「ああっ…!! あれは…!!」
『
「お姫ちゃん!!!」
『
『
腕の先と下半身は『
美しいブロンドの髪が水の中を漂っている。
その姿はまるで水中に佇む美しいレリーフの様だ。
「私を攻撃するならするがいいわ~ん…但しこの子がどうなっても知らないわよ~ん?」
『
「そんな~~~~!!! お姫ちゃん!! 何で…!? 何で~~~!!」
『
この場に居合わせた全員が絶望と怒りを感じた瞬間だった…。
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