第35話 最終任務 『純白の復讐者』を討て!!


 (きっと僕は変わり果てた姿で君たちの前に現れるだろう…でもその時は躊躇ためらいなく僕を殺して…でないと僕が君たちを殺してしまう…)


「…あれは夢じゃなかったんだ…お姫ちゃんはこれを伝えに…」


 ガクリと膝をつく『果て無き銀翼ウイング・オブ・エターナル』。


「この卑怯者!! 人質を捕るなんて!!」


 『果て無き銀翼ウイング・オブ・エターナル』の落胆ぶりを見て代わりに怒りをぶつける『億万女帝ビリオネア・エンプレス』。


「何が卑怯なものかい…相手の戦意を喪失させるのは戦略の基本よ~ん?

 それにこの子はそのためだけにアタシの身体に取り込んだんじゃないのよ~ん?」


 全く悪びれもせず言い放つ『純白の復讐者ホワイト・リベンジャー』。


「それは何かしら? こんな悪趣味な真似をして…理由が知りたいですわね…!!」


 続けて『億万女帝ビリオネア・エンプレス』が問う。

 目配せで『大地の戦乙女グラン・バルキリー』に合図を送り、それを受けた彼女は『果て無き銀翼ウイング・オブ・エターナル』を連れて後方へ下がっていく。


「…あなたは魔法少女の適合者に何故稀に男の子が選ばれるか考えた事があったかしら~ん?」


「…男の子であろうと魔法少女になる素質があるからではなくて…?

 それが今関係があるのかしら…?」


 訝し気に答える『億万女帝ビリオネア・エンプレス』。


「大有りよ~ん? 男の身でさえ選ばれるその子の潜在魔法力はキャップが掛かっている状態なの…だからその子を女の子に変える事が出来ればそのキャップが外れ、元から女の子である魔法少女を超える魔法力を発揮するのよ? …何故なら魔法力は子宮で生成されるのだから…」


「一体何を言って…?! ってまさか…?」


 改めて『純白の復讐者ホワイト・リベンジャー』の体内に居るチヒロを見る…確かに体つきは腰がくびれて女性らしい上に胸が膨らんでいる…それはカオル子やフブキ達より大きい位だ。

 そう、チヒロは性別を変えられていたのだ。


「さっきから感じていた違和感はこれか…」


 ユッキーも納得した。

 チヒロが元々女顔なせいで初めに見た時にはその身体の変化をすぐには気付けなかったのだ。


「魔法薬で少しづつ女性に変わっていくチヒロ君はそそるものがあったわ~ん…あなた達にも見せてあげたかったわ~ん」


 舌なめずりしながら下卑た微笑みを見せる『純白の復讐者ホワイト・リベンジャー』。

 それを見て頭の中で何かが弾けた『億万女帝ビリオネア・エンプレス』…頭に血液が集まって来るのが分かる。


「許さない!! チヒロを…!! わたくしの親友を弄んで!!」


「あなた…そこまであの子の事を…」


 横に居た『吹雪の訪れブリザード・ブリンガー』までが身の危険を感じる程の魔法力の放出…『億万女帝ビリオネア・エンプレス』は激怒していた。


「受けなさい!! 『ゴールドスプラッシュ』!!」


 『億万女帝ビリオネア・エンプレス』のゴールデンハンマーからおびただしい量のコインが高速で打ち出される。

 かつての『ゴールドラッシュ』の上位版魔法だ。


「なっ………!!」


 『ゴールドスプラッシュ』は見事『純白の復讐者ホワイト・リベンジャー』の頭部に命中。

 虚を突かれた彼女の頭はグズグズのハチの巣になり消し飛んだ。


「…やった…!?」


 その様子を見ていた『吹雪の訪れブリザード・ブリンガー』が控えめな歓声を挙げる。


 しかし『純白の復讐者ホワイト・リベンジャー』の首の断面からブクブクと水が湧き上がり見る見る元の頭に再生していく。


「ちょっと~まだ話の途中だったのよ~ん? 酷いじゃな~い」


 不満をもらし『億万女帝ビリオネア・エンプレス』を睨みつける。


「…ですよね~…」


 肩をガックリと落とす『吹雪の訪れブリザード・ブリンガー』。

 大体こうなるのではないかと思っていたのだ。


「ウフフ…チヒロに攻撃が当たらない様にアタシの頭を狙ったんでしょうけどおあいにく様…」


 『純白の復讐者ホワイト・リベンジャー』はニヤリと笑いこう続けた。


「…魔法力を持った男の子から性転換した魔法少女の魔力は絶大なの…アタシは自らの身体を魔物に改造してチヒロを取り込み身体の一部とした事で超魔法生命体となったのよ~ん!!

 だから頭が吹き飛んだくらい余裕で再生できるわ~ん!!」」


「…何て事を…!!」


 怒りに全身を震わせる『億万女帝ビリオネア・エンプレス』。

 もう一撃! とハンマーを構え『ゴールドスプラッシュ』を放つ。


「そう何度も喰らわないわ~ん…『ジェットストリームスパイラル』!!」


 『純白の復讐者ホワイト・リベンジャー』が右手の平を突き出すと高圧水流が螺旋を描き射出される。


 コイン弾と螺旋水流の衝突…だが水流はコインを物ともせず弾きながら突き進み『億万女帝ビリオネア・エンプレス』の左肩を貫く。

 飛び散る鮮血。


「きゃああああっ!! ああああっ!!」


 そのまま後方へ倒れ込み肩を押さえもがく『億万女帝ビリオネア・エンプレス』。

 水流がスクリューの様に回転していたせいで傷口がズタズタだ。

 地面の血だまりが広がっていく…


「このままじゃ出血多量で死んでしまう…!!」


 慌てて駆け寄る『吹雪の訪れブリザード・ブリンガー』。


「『フリーズ』!!」


 『億万女帝ビリオネア・エンプレス』の傷口に手を当て魔法を唱えると肩が瞬時に氷に覆われる。

 何とか血液の流出は防げたようだ。


「それは応急処置だから…!! ペンタス!! 彼女をツバサの所へ…早く!!」


「ガッテン!!」


 ペンタスはぐったりした『億万女帝ビリオネア・エンプレス』を持ち上げると猛ダッシュで去って行った、ダニエルも続く。


「あらあら…もうあなた一人になっちゃったの~ん? 情けないわね~ん」


「なりたくて一人になった訳じゃないよ…」


 睨み合う両者…『吹雪の訪れブリザード・ブリンガー』の頬を冷や汗が伝う。


(あ~やっぱり来るんじゃなかった…あの子達と関わってからロクな事が無いわ…)


 そう言いつつも彼女の口元は微かに笑っていた。

 今の思考は紛れも無く本心だが、それ以上に皆と行動を共にして来た事はこれまで感じた事の無い充実感があった。

 自分はみんなに必要とされているし、自分もみんなを必要としている。

 ここは一つ盛大に悪あがきしてやろうと思った。

 そう決心した刹那、『吹雪の訪れブリザード・ブリンガー』は横に向かって走り出した。


「あら~? やっぱりあなたは仲間を見捨てて逃げるのね~ん…昔と変わってないじゃな~い?」


 『純白の復讐者ホワイト・リベンジャー』はさも『吹雪の訪れブリザード・ブリンガー』の過去を知っている様な口振りで話す。

 あからさまな挑発…所詮は情報として魔法少女たちの事を調べただけなのだろうが心の痛い所を突く言葉攻めは陰湿にも程がある。


「何とでもいいなさい…」


「逃がさないわよ~ん?」


 『純白の復讐者ホワイト・リベンジャー』は悪魔の様な翼をはためかせ、走る『吹雪の訪れブリザード・ブリンガー』目がけて『ジェットストリームスパイラル』を連発して追いかけていく。

 『吹雪の訪れブリザード・ブリンガー』も何とかかわすが、流れ弾が着弾した地面は水流でえぐられ大穴が空く。


(大気に漂いし冷たき者よ我が命に従い彼の者を凍りつかせ給え…)


「『フリーズバインド』!!」


 走りながら呪文を唱えていた『吹雪の訪れブリザード・ブリンガー』は湖岸に手をつき魔法を発動させる。

 見る見る凍っていく湖面…やがて直径5kmはありそうな湖は巨大なスケートリンクへと姿を変えた。


「………チッ」


 舌打ちする『純白の復讐者ホワイト・リベンジャー』。


「大方足元を水面にしておけばアンタが一方的に長距離攻撃魔法で私達を攻撃できると思ってたんでしょう…? だけどこれでアンタに近付けるよ!! …『アイスブレード』!!」


 スケートリンクと化した湖面に向かって飛び込みながら魔法を唱えると『吹雪の訪れブリザード・ブリンガー』のブーツの足裏にスケートの刃が現れた。

 そのまま着地と同時にスケ―ティングを始め、高速で『純白の復讐者ホワイト・リベンジャー』に向かって進んで行く。


「おのれ小賢しい!!」


 『純白の復讐者ホワイト・リベンジャー』が両手で交互に『ジェットストリームスパイラル』を放つが『吹雪の訪れブリザード・ブリンガー』はまるでフィギュアスケートの様に華麗な動きでことごとくかわしていった。


「喰らえ!! 『アイスソード』!!」


 右手に持っていたマジカルワンドが基部となり上方に長くて鋭い氷の刃を生成し剣を成す。

そ してその剣をやや上空を飛んでいる『純白の復讐者ホワイト・リベンジャー』の足目がけて振り抜いた。


「ギャアアアアアア…!!」


 ゴロンと『純白の復讐者ホワイト・リベンジャー』の右足首が氷上に転がり落ちる…が先程の頭同様、傷口から新しい足首が生えて来て元に戻ってしまった。


「やっ…やるじゃな~い? でもそんな事をしても無駄だわ…!! アタシの身体は不滅なんだから…!!」


 少し焦りが混じった台詞…これで『吹雪の訪れブリザード・ブリンガー』はある事に気付く。


「フフッ…アンタ…今、痛がったよね? 悲鳴も上げたし…不滅の身体でも痛みは感じるんだ…」


「…だから何だと言うの?!」


 『吹雪の訪れブリザード・ブリンガー』の含みのある言い方に苛立ちを隠せない『純白の復讐者ホワイト・リベンジャー』。


「じゃあ…今から徹底的に切り刻んで痛みを与えまくってあげる!!

 何度でも何度でも再生するがいい…その分痛みを感じる回数が増えるけどね!!」


「ふざけるな~!!」


 『純白の復讐者ホワイト・リベンジャー』は氷上にドスンと降り立ち『吹雪の訪れブリザード・ブリンガー』に向かって突進を開始、手の爪を目滅茶苦茶に振り回して来る。

 しかし『吹雪の訪れブリザード・ブリンガー』はスケートを上手く使いこなし避けては切り付け、避けては切り付けのヒットアンドアウェイを繰り返していく…。

 不死身の相手にこの戦法は初めこそ押している様に感じるが、長期戦になれば彼女の方がスタミナの面で圧倒的不利…。

 ではなぜ彼女はこんな事を続けるのか…これは仲間が態勢を整えるまでの時間稼ぎなのだ。


(…早く!! 誰でもいいから早く来て!!)


 『吹雪の訪れブリザード・ブリンガー』は心の中で渇望した。




「ここまで来れば取り敢えずは大丈夫だろう…」


 『果て無き銀翼ウイング・オブ・エターナル』をお姫様抱っこして森の奥までやって来た『大地の戦乙女グラン・バルキリー』。

 そっと地面に『果て無き銀翼ウイング・オブ・エターナル』を下ろす。


「少しは気分が落ち着いたか…?」


「…うっく…ひっく…」


 泣き止んだとまではいかない様だ、まだしゃくり上げている。


「…私…夢を見たの…その夢にお姫ちゃんが出て来て、次に会ったら自分を殺してって…」


「…それは夢では無く『虚飾の姫君プリンセス・イミテーション』が精神だけを飛ばして貴様に『純白の復讐者ホワイト・リベンジャー』の弱点を知らせに来たのだろう…」


「…えっ? どう言う事?」


大地の戦乙女グラン・バルキリー』が何を言っているか理解できないでいる『果て無き銀翼ウイング・オブ・エターナル』。


「ここに来るまでの戦闘の音声を聞いていたのだが…どうやら奴は不死身らしい…」


 『大地の戦乙女グラン・バルキリー』はカードリーダーのスピーカーモードをラジオの様に使って仲間と『純白の復讐者ホワイト・リベンジャー』の戦闘中のやり取りを全て聞いていたのだ。


「頭や足を吹き飛ばしたり切り落としたりしても死なない…一見倒せない相手に感じられるがそうじゃ無い…奴は最初から弱点をわざとさらけ出していたのさ…我々が攻撃する事の出来ない弱点をね…」


「まさかそれって…」


「そう、そのまさか…奴の身体の中に居る『虚飾の姫君プリンセス・イミテーション』…チヒロだ…

 きっと彼を殺せば『純白の復讐者ホワイト・リベンジャー』も身体を維持できないはずだ…」


 『果て無き銀翼ウイング・オブ・エターナル』はまるで頭を思い切り殴られた様な衝撃を感じた。

 行方不明からひと月近く探し回ってやっと見つける事が出来た友達チヒロなのに…『純白の復讐者ホワイト・リベンジャー』を倒すにはチヒロの命を犠牲にしなければならないとは…あまりにも残酷な運命…。


「…そんな…そんな…出来ないよそんな事…!! お姫ちゃんは私の大事なお友達だよ…?!」


 再び涙が溢れだす、もう涙の止め方が自分では分からない…。


「…貴様はやらなくていい…後は吾輩が引き受けよう…」


「えっ?」


 予想外の返答…きっと彼女なら『果て無き銀翼ウイング・オブ・エターナル』にもその作戦を強要するだろうと思っていたからだ。


「…友達を殺すなど貴様にはさせられない…そんな憎まれ役は吾輩だけで十分だ…」


「…戦ちゃんやめて!! お姫ちゃんを殺さないで!!」


「聞けぬ相談だ…恨むならそれでも構わない…じゃあな」


 『大地の戦乙女グラン・バルキリー』は踵を返すと一目散に戦場へと駆けて行った。


「…戦ちゃん!! 戦ちゃ~~ん!!」


 あまりのショックに足腰に力が入らない『果て無き銀翼ウイング・オブ・エターナル』。

 ただ去って行く『大地の戦乙女グラン・バルキリー』に向かって手を伸ばし叫ぶ事しか出来なかった…。

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