第二章 仲間が出来ました

第4話 『虚飾の姫君』


 あれからもツバサのプラクティス時空での魔法の練習は続いていた。

 

 それはもう熱心過ぎる位に…。

 当然課金も続いている…。

 今月のお小遣いはもう残り少ないはずなのだが当の本人が無頓着である。


「『スカイハイ』の魔法も随分上達したでありんすな~」


「当然よ!私は魔法で空を飛ぶのが昔からの憧れだったんだから!」


『スカイハイ』の魔法は飛行魔法だ。

 これを唱える事でツバサの背中から銀色の天使さながらの翼が生え、空を自在に飛び回れる様になるのだ。

 ビュン!と一気に急上昇、そして急降下きりもみ、宙返りともはや自由自在!

 空を飛ぶ事にかけては大先輩のユッキーですら既に付いて行けない程だ。

 当然それだけの時間と金額は掛かってはいるのだが…。



「あれ?…ねえユッキー…あの下に見えるのってまさか…?」


 ツバサは飛行中に地面に出現したゲートを発見した。


「あ~あれは時空移動用のゲートでありんすな、アチキ達が使っているのと同じ物でありんす」


「…と言う事は別の魔法少女が来るの?!」


 ツバサの瞳がキラキラと輝く。

 それは無理も無い、魔法少女になって以来自分以外の魔法少女に会った事が無かったのだから。


「このプラクティス時空は全魔法少女が自由に使用出来るでありんすからね、当然他の魔法少女も訪れるでありんす」


「わぁ~どんなコが来るんだろう~」


 スーっとゲートの前に着地するツバサ、そしてこれから現れるであろう来訪者に心を躍らせていた。


 パアアアアアア!!


 ゲートが開き眩い光の中、一人の少女と空中に浮遊するマスコットが姿を現す。


 その少女の第一印象はまさに『お姫様』。

 それ以外に形容の仕方が無い程に完璧に可憐な『お姫様』だった。

 薄紅色のウェービーロングな御髪、頭上に豪華な宝石をあしらったティアラを付け、両サイドから編まれた三つ編みを後頭部で結んでいる。

 まつ毛も長く少々垂れ目がちだが大きな瞳がチャーミング。

 ピンク系を基調としたドレス。

 胸元は金色のブローチが大きなリボンを止めている。

 肩はパフスリーブ、そこから伸びる細い腕は透き通る程白く美しい

 スカートはとてもボリューミー、ミニスカートを数層のフリルが覆い後方は引きずりそうなほど長く前側が開いている。

 両手で保持している物はマジカルステッキと言うよりは錫杖と呼ぶ方がしっくりと来るとても柄の長いタイプだ、当然の如く派手な装飾が施されている。


 お供のマスコットはと言うとハッキリ言って『フグ』。

 ただ普通のフグと大きく違うのはその鼻先…何と豚鼻なのだ。

 確かにフグは漢字で『河豚』とは書くがいささか滑稽ではある。

 まるでお祭りの縁日で売っている風船の様にプカプカと浮いている。


「こんにちは~!!初めまして~!!」


 ツバサはブンブンと右手を振りながら、いきなり姫とフグに話しかけた。


「きゃっ…?」


 案の定姫はビクン!と体を反応させる、このタイミングで話しかけたらそれは驚きもするという物…


「あっ…ごめんなさい!別に驚かそうとした訳じゃないの!」


 テヘヘと頭を掻きながら愛想笑いをするツバサ。


「改めて初めまして!私は大ぞ…ムググ!?」


 いきなりユッキーに口を塞がれてしまった。


「ちょっと!!何するのよ!!」


 ユッキーを口から引き剥がし問い詰める。


「こちらへ来るでありんす!」


 ユッキーはツバサを姫たちから少し離れた所へ呼び出す。


「それはアチキの台詞でありんす!初対面の、敵か味方か分からない者に

本名を名乗ってはいけないでありんす!」


「え?敵って…」


「それは後で説明するでありんす」


 釈然としないツバサであったがこの件は家に戻った時にでもユッキーから聞けばよいと割り切る事にした。


「エヘヘ…何度もごめんなさいね…私は『果てなき銀翼ウイング・オブ・エターナル』私以外の魔法少女に会うのはあなたが初めてなんだ~お友達になってもらえませんか?」


「…わ…私は…『虚飾の姫君プリンセス・イミテーション』…よろしく…」


 鈴を転がしたかの様な澄んだ声。

 おどおどと俯きながら上目遣いで囁く様に自己紹介する彼女は余程の人見知りの様で顔も真っ赤だ。


「はぁ~プリンセス!やっぱり見た目通りのお姫様なんだね!よろしく~!」


 ツバサは『虚飾の姫君プリンセス・イミテーション』の両腕を取りブンブンと上下に振った。


「…あはは…よろしく…」


 引きつった笑顔の『虚飾の姫君プリンセス・イミテーション』ではあったがツバサのなすがままにされていた。

 友人が出来ると言う事は彼女にとってもまんざらではなかったのだろう。


「オデは姫のパートナーで『ピグ』と言うブヒ、以後お見知りおきをブヒ」


 外国の兵隊が被るようなツバ付き帽をちょこんと頭に載せた豚鼻のフグが名乗った。


「アチキはエターナルのパートナーで名をユッキーと申します、よしなに~」


 ユッキーも名乗り、マスコット同士の自己紹介も済んだ様だ。


「私の事は『エターナル』でいいよ、私はあなたの事『お姫ちゃん』て呼んでもいいかな?」


 勝手に初対面の少女の呼び名を決めるツバサ。


「…いいよ…好きに呼んで…」


 多少困惑気味に微笑む姫はその呼び名を認めてしまった。

 何となく頼りなさげな見た目と物腰の通り押しに弱い性格なのかもしれない。


「お姫ちゃんもここに魔法の練習をしに来たの?」


「…いえ…私は…これを試してみようかと思って…」


 そう言いながら姫は懐から一枚のカードを取り出す。

 それはツバサがいつも魔法を使う時に使うプリカとはまた違ったカードで

 左上に姫の顔写真が張り付けられていてさながら何かの免許証の様だった。


「何?このカード…」


「…え?…エターナルさんは持って無いの?…」


 さも持っているのが当然と言う口ぶりだ。


「これは『魔法少女ライセンス証』…これが有ればこの『プラクティス時空』から出てファンタージョン内でモンスターの討伐に参加できるのよ…今日発売の『週刊 魔法少女 第4号』に封入されていたはずだけど…」


「え~?!第4号もう出てたんだ?ユッキー!!どうして教えてくれないの?」


「!!…アチキとした事が忘れていたでありんす…ごめんでありんす」


「今すぐ買いに行かなくちゃ!!ゴメンお姫ちゃん!また今度ね!」


「…あっ…エターナルさん…これを!」


 姫は踵を返していたエターナルを引き止め今度は名刺大のカードを手渡した。


「これは?」


虚飾の姫君プリンセス・イミテーション 水属性

 人と話すのが少し苦手ですがどうぞ宜しくお願いします』


 …と書いてある、姫の顔写真入りだ。


「あ~これは『フレンドカード』でありんすな」


 ツバサの疑問にユッキーが答える。


「これを互いに交換して持っていればこちらの世界に居る時に限りメール

等のやり取りが出来る様になる優れものでありんす」


「へぇ~!じゃあ私もお姫ちゃんに渡さなきゃ!どうやるの?」


「マジカルステッキのリーダーの画面にFCと表示されている所があるでやんしょ?そこをタッチするでありんす」


「こう?」


 FCの文字を指でタッチすると画面が光り、空中にフレンドカードが現れた

エターナルの顔写真もしっかり入っている。


『マイドアリー!』


 例の電子音声だ。


「あっ!これもお金が掛かったのね?…」


 ガックリと肩を落とすが気を取り直してカードをつかみ取り、それを姫に渡した。


「はい!宜しくお願いしま~す!今度会った時はゆっくりお話しようね!」


 エターナルはユッキーを鷲掴みにすると、慌ただしくゲートを潜り

現実世界へと帰って行った。


「何ともせわしない少女でしたブヒ」


 ブタフグのピグは目を細めて呆れている。


「…そうだね…でも悪い子ではなさそうだ…それに僕の正体にも気付かなかったみたいだし…案外利用出来るかもね」


 先程とは打って変わって落ち着いた声のトーンで語る姫。

 口角が微かに上がる。


虚飾の姫君プリンセス・イミテーション』…。

 名前が示す通りその外見にエターナルに見せていた性格は作られた物なのだろうか…。


 敵か?味方か?今は知る由も無い…。

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