第3話 第3号 実戦向け魔法を使ってみよう(初級編)
「ただいま~!!いってきま~す!!」
ツバサは学校から帰るなりカバンを玄関に置き、すぐさま行き付けの書店に走る。
今日は待ちに待った『週刊 魔法少女』の第3号の発売日だ。
「買って来たよ!!」
脅威のスピードで書店までの道のりを往復し、自室のドアを開け放つ。
手には書店の紙袋が握られている。
「はぁ…はぁ…はぁ…」
ツバサの顔を大量の汗が伝う。
「そんなに焦らなくても今日中にさえ買えればよかったでありんすが…」
少しあきれ顔のユッキー。
「だって…はぁ…少しでも早く…はぁ…魔法を…使ってみたかったんだもん…はぁ…はぁ…」
この日の為に一週間魔法の使用を我慢した。
それほどまで魔法は今のツバサにとって一番の熱中対象なのだ。
「今回はどんな内容なのかな?」
【週刊 魔法少女 第3号】
『実戦向け魔法を使ってみよう。
魔法少女はあらゆる困難に魔法で立ち向かわなければなりません。
それは凶悪なモンスターだったり悪の秘密結社だったり様々です。
彼らは躊躇なく魔法少女であるあなたの命を狙って来るでしょう。
ですから今号では使用対象に直接攻撃を加えダメージを与える魔法を中心に解禁します。』
「…え?…」
最初のページを読んで固まる。
「何これ…命を狙って来るって…私、死んじゃうの?!」
狼狽えるツバサ。
「…いや~それは言葉の綾みたいな物でありんすよ…
ほら、ツバサが日曜日の朝によく見てるアニメの主人公も
悪者やモンスターに襲われたりしてるじゃないですか、やだな~」
聞き返されたユッキーも多少キャラが崩壊し掛ける。
じっとり汗をかき、ツバサと視線を合わせようとしない。
「ほら、そんな事よりまず変身するとよろしい…今日は新しい事を始めるでありんすよ」
「そうなの?!楽しみだな~」
ツバサは話題のすり替えに簡単に乗ってしまった。
よく言えば純粋…悪く言えば単純で騙されやすい…。
内心ホッとしているユッキー。
「変身!!」
マジカルステッキにカードをかざすとツバサは『ウイングオブエターナル』の姿に変わる…約一週間振りの変身だ。
「今日から本格的に魔法少女として活動するためのレッスンを開始するでありんすが『こちらの世界』では色々と限界がありんす」
「え?今『こちらの世界』って言いました?!」
ツバサは相変わらずのいい食い付き具合である。
「そう!『こちらの世界』があるからには『あちらの世界も』ありんす」
そう言うとユッキーは一枚のコインを取り出し床に放った。
すると真上に向かって光の壁がそそり立ち、やがて魔法文字的な記号や図形で装飾された、いかにもファンタジー的な扉が出現したのだ!
「わあぁ!…凄い…!」
感嘆の声を上げるツバサ、瞳がキラキラと輝いている。
「百聞は一見に如かず!ツバサ、このゲートを通りゃんせ!」
「よーし!」
ギーッ…。
両腕で左右に扉を押し開ける刹那、ツバサとユッキーを眩い光が包み込み、その光が収まると辺り一面何もない荒野に立っていた。
…カサカサに乾いた大地、大小の石ころ…。
ただ、ここがツバサの住む現実世界では無い証拠として空中に岩石が浮遊していた。
大きさは様々で、そのまま岩石の物あれば、上面が平らで植物が自生し、さながらお花畑になっている物まであった。
「ここはアチキ達の故郷【ファンタージョン】の辺境にある魔法の練習場
『プラクティス時空』でありんす」
「お~!ファンタジーって感じだね~!」
鼻息荒く胸の前で拳を握りしめるツバサ。
これから何が始まるのか好奇心に胸躍らせている。
「へ~!あれ?そう言えばユッキーは飛べるんだね!」
ユッキーは背中の小さい羽根を羽ばたかせて宙に浮いている。
現実世界ではツバサの前で飛んで見せた事は無かった。
「もちろん!この羽根は伊達ではないでありんす、何せここはアチキの故
郷、大気中の魔力が豊富なこの世界では当たり前でありんす、逆にツバサのいる世界では魔力が薄いので飛ぶ事は出来ないんでありんすよ~」
久し振りに飛べたのが嬉しいのか、ユッキーは実に気持ち良さそうに空を飛び回る。
「さて本題に入りましょう、ツバサ『週刊 魔法少女』の5ページを開くでありんす」
「うん、分かった」
ツバサは早速本を開きページをめくると、そこにはこう書かれていた。
『今月の配信魔法』
・エアリーシュートLv1(風属性 攻撃魔法)…100イェン
・トルネードLv1 (風属性 攻撃魔法)…100イェン
・スカイハイLv1(風属性 移動系魔法)…100イェン
・エールLv1(風属性 補助魔法)…100イェン
・リフレッシュLv1(風属性 回復魔法)…100イェン
・エアリーガードLv1(風属性 防御魔法)…100イェン
「ここに書かれている魔法はまず購入しないと使えないので注意してくりゃれ、そして使うたびに各々使用料が掛かるから覚えておいておくんなまし」
「やっぱり…お金掛かるんだね…」
はぁ…と、ため息を吐くツバサ。
「本を開いた事でステッキのリーダーにも情報が転送されているから、欲しい魔法を指でタッチしてからカードをかざしてくりゃれ」
カードをリーダーにかざす。
「…え~と、じゃあね~あ!折角だから全部で!」
深く考える事も無しにツバサは一括購入のマークをタッチしてしまった。
『マイドアリー!!ユーカキンシチャイナヨー!』
相も変わらずステッキがしゃべる、だが何か嫌な請求のされかただ…ツバサはすかさずカードをリーダーに当てがう。
『カキーン!ハイリマシター!』
「これで購入手続きは完了でありんすよ」
「やったー!!待ちくたびれたよ~」
ツバサは今日、この為に一週間魔法の使用を我慢して来たのだ。
日常生活でだってこんなに長く何かを我慢するなんて事はそうそうない訳で、喜びもひとしおだ。
「さて、まずは風属性魔法攻撃の基本『エアリーシュート』から練習してみるでありんす」
ユッキーがそう言うと、二人が立っている所から約10m程離れた場所に円形のダーツの的の様な物体が空中に現れる。
「ステッキの先端に念を集中して『エアリーシュート』と叫びながらあの的を狙うでありんすよ」
「うん!分かったよ!」
鼻息荒く返事をするツバサはやる気満々だ。
カードをステッキのリーダーにかざす。
「…んんん~エアリーシュート~!!」
ステッキの先端に空気が渦を巻きながら集まり、野球のボール大の球形を成す。
そして射出!反動でステッキが押し戻される。
勢い良く回転しながら猛スピードで飛んで行った空気の弾だったが、的から随分と離れた地面に着弾した。
「あっれ~?外れちゃった…」
小首を傾げるツバサ。
「最初から上手くはいかないでありんすよ、さあ練習あるのみ!」
それから練習を重ね10回目でやっと的にかすめる所まで上達したのだった
それと同時にカードの残高が尽き、その日はこれで練習終了となった。
「ねえユッキー」
「何でありんす?」
現実世界に戻って来るなりツバサはユッキーにある質問を投げかける。
「この魔法を唱える度にカードをかざすの何とかならないの?
これじゃ咄嗟に魔法を使えないじゃない!」
至極もっともな不満だ。
敵が物凄く俊敏であったり、大群で押し寄せて来たら対応しきれなくなる。
この動作が致命傷になり兼ねないのは誰でも思い付く、当然ツバサも…
「ちゃんと対策は用意されてますよ『自動引き落とし』と言うのがあるけどそれにしますかえ?」
「何だ~便利なのがあるじゃない!うん!それにして!」
「じゃあ今から切り替えるでありんす」
ユッキーがツバサのカードに手をかざすと、それまで白かったカードがシルバーに変わったのだ。
「これで切り替え完了!今からカード残高が尽きるまで魔法の連続使用が可能になったでありんす」
「うん、ありがとう!」
満面の笑みのツバサ。
「但し、変身直後だけは必ずカードを読み込ます事!あとは高額のイェンが必要な大魔法の使用時だけはカードの読み込みが必要でありんす」
「え~?どうして?」
「…仕様だからとしか言い様がないのでありんすが…しいて言うなら様式美でありんすかな」
「ふ~ん…そうなんだ」
だがカード決済はいいこと尽くめで無い事はまだ子供のツバサには想像も出来ないだろう…まさかこれが課金地獄の始まりであった事にツバサが気付くのはもう少し後の事である。
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