喜んでもらえるはずさだって僕らは自信作だ

 さして向かうところもなかろうに。


 アラシのことばを、ぼくはくりかえしかんがえていた。ぼくの向かうところ。ぼくは人間に捨てられて、ウミにうかんでいた。人間に捨てられたところが、ぼくの向かうところなのだとしたら、ウミがぼくらのゆくすえなのだろうか。


 もしもそうなら、ぼくがうまれたいみは、あったのだろうか。


 ぼくは工場でつくられた。さいしょに見たのはぼくとおんなじすがたをしたペットボトルくんたちだった。とうめいでみんなきれいなすがたをしていた。ぼくらはきかいにおなかをつかまれて、ぐるぐるまわされた。ぼくたちはおびえきっていた。


 おなかのなかに水がいれられた。まっくろいいろをした、しゅわしゅわの水だった。それにびっくりしてるうちに、あたまをしめつけられる。


「あんた、だあれ?」


 それが、キャップちゃんとのであいだった。ぼくにぴったりくっついて、はなれなかった。


「きみこそ、だれなの?」


 そのとき、ぼくはぼくのなまえもしらなかった。キャップちゃんもおんなじだった。


 ぐるぐるからかいほうされると、こんどはしぜんにうごくミチにたたされた。ぼくらはからだをよせあって、流れに身をまかせていた。それが気もちよかった。ぼくたちのことをについて、キャップちゃんと話しあった。


「きっと、私はあんたと一緒にいるために生まれたのね」


 しばらく話したあとで、キャップちゃんは言った。


「そうなのかな」


「そういうことにしときなさい」


「なんで?」


「このままウンウン悩んだって、なーんも進まないじゃない。そういうの、気付けないの?」


「ごめんね。あんまし気づけなくて、ごめんね」


「あんた見てると、ほっとけない」


 ぼくたちをのせたコンベアのはばがせまくなってくる。流れもはやくなって、いちれつにならばされた。


 上からなにかをかぶせられた。それはぼくのおなかをつつんだ。まもなく、むしあついおへやにはいった。おなかをつつむそれが、きゅっとひきしまる。


「やあ、初めまして。君がペットボトルで、君がキャップだね。僕はラベル。君たちのこと、色々知ってるんだ」


「ペットボトルって、ぼくのなまえ?」


「それじゃあ、キャップが私の名前ってわけ?」


「驚いた。君たちは君たちの名前も知らなかったのかい?」


「そうよ。私はアタマがカタいのが自慢でね」


「ぼくたち、なにも知らないんだ。ちょうど今ね、キャップちゃんといっしょに、ぼくたちはなんのためにうまれてきたのか、かんがえてたんだ」


「それは面白そうな話題だね」ラベルくんはすごくうれしそうだった。「僕はね、人間を喜ばせるために生まれたんだって、思ってるよ。僕に記された文字は、みんな人間が喜ぶために、書かれたものばかりなんだから」


「ぼく、人間ってなんだか、よくわかんないや」


「私も」


「僕もだよ。でもきっと、喜んでもらえるはずさ。だって僕らは自信作だ」


 ぼくらはじしんさく、ラベルくんのことばをきいて、なんだかどきどき、わくわくしてきた。そうだ、じしんさくにちがいない。


 そのじしんさくが、今、ウミに飲まれている。


 さして向かうところもなく。

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