俺が暴れなくては誰も彼もやがて立ち止まる

 ウミが、音をたてはじめた。シオの音じゃない。ドウ、ドウという、むねをしめつける音だった。


 キャップちゃんはおびえてあたまをしめたけど、話をつづけた。


「でも、リーダーって、こういうときこそ強くなくちゃいけないでしょう? だから、強くいようと思ったの。でも、やってたのは、ペットボトル君や、ラベルに、強く当たってただけだった。あんたたちに当たることで、気をまぎらしてたの。私にはリーダーの器なんてなかったのよ。私で水をすくったところで、きっと人間のカワキをいやしてあげられない。私の器は、その程度」


 こんなよわきなキャップちゃんははじめてだった。いつもふあんでいっぱいなのはよく知っていたけど、キャップちゃんの口から話してくれるとはおもわなかった。


「僕も……」


 と、ラベルくんが話しだした。


「この知識で、みんなを導いていかなくちゃって、変に思いすぎていた節があったよ。ペットボトル君も、キャップさんも、自分のことすら知らなかったんだ。そのことを教えてあげたらみんな喜んでくれて、そのとき、僕の言うことは全部ありがたがってくれるんだって勘違いしてしまったんだ。でも実際は、僕の意見でみんなを不安がらせたり、混乱させたりしたと思う」


 はだにあたる水のつぶがおおきくなってきた。水のつぶはザア、ザアと音をならす。ぼくはザワザワいやなよかんをいだいた。


「不安だなんて、そんなこと一度も思ったことはないわ。思ったことないんだから、お願い、この水まみれなジョウキョウと、鬱陶しい音の正体を説明して!」


 今や、ウミはあわだって、ドウドウザアザアのあいまでシュワワワと言う音をたたせていた。


「ウミの流れが、急になっている。これはシオのせい、なのか?」


「俺はシオではない」


 ラベルくんがブンセキすると、ドウドウザアザアの音が、ぼくらにかたりかけてきた。


「雨降れ波立て、俺は嵐だ」


 アラシ――ぼくのからだがふわっとうき、なにも言えずに、いっしゅんウミに飲まれた。


 ウミからかおをだすと、まっしろい光につつまれた。そのすぐあとで、からだをふるわせるくらいの音がひびいた。


「これじゃあ、ぼくたち、飲まれちゃう」


「のまれるならのまれるがいい。俺は地球をかき混ぜるために生まれたのだ。その過程でのまれたのなら、それが運の尽き」


 しろい光がふたたびかけめぐった。アラシにかきまわされながらも、ぼくたちははなれないよう、しっかりくっつきあった。


「どうして君はかき混ぜなくちゃいけないんだい。そんなことをする必要がどこにある?」


 ラベルくんのさけびに、アラシはすこしもどうじなかった。


「立ち止まる奴らの背を蹴りあげるためさ。俺が暴れなくちゃ、誰も彼も、やがては立ち止まる。それを許す道理がどこにある」


「ひどい道理ね。こっちは立ち止まりたくて立ち止まってるんじゃあないのよ!」


「偉そうに。さして向かうところもなかろうに」


 キャップちゃんのうったえに、アラシは水をふらした。それからウミがおそいかかってきた。うなりをあげて、ぼくはウミに飲まれた。ウミのふかいところまでつきおとされて、ぼくは気をうしなった。

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