夜を必要としてくれるもののために僕は沈む

 おひさまはすっかりかたむいてしまった。おひさまのはんたいがわは、ウミのふかいところみたいに、色がこくなっていた。あかるいところは、おひさまとそのまわりだけしかなかった。


 ウミのなかはなにも見えない。でもどこかにカジキはいるはずだ。暗くなるにつれてさむくなっていく。まるで自動販売機のなかにいるみたいだ。でも、あのときはなかまとひしめきあっていて、たのしかった。ここはちっともたのしくない。一本きりは、こころぼそい。


 おひさまは、ウミのなかにしずもうとしていた。


「お願い……」


 それは、キャップちゃんの声だった。


「沈まないでよ。なんで沈んじゃうの。どうして明るく照らしてくれないの。ジリジリ、痛いくらいで丁度いいのよ。私は、ずっとピリピリ痛い水を、守ってきたんだから。洩れてしまわないように、ずっと」


 キャップちゃんは、ひとり言みたいに、おひさまへ話しかけていた。ぼくらと話せば、きずつくことを知っているから。


「そのお願いは、叶えられないんだ」


 おひさまは答えた。


「夜を必要としてくれるものもあるんだよ。だから、僕は沈むんだ」


「でも、それじゃあ、私は……」


「大丈夫、大丈夫さ。明日また日は昇る。それに、君には仲間がいるじゃないか。そんな君が、羨ましいよ……」


 おひさまは、そう言うと、ウミのなかにしずんでいった。


 まもなく、なにも見えなくなってしまった。


 ウミのゆれがつよくなってきた。ちいさな水のしずくが、ぼくの上からあたるようになった。そのちいさな水はしょっぱくなかった。ピリピリしてもないし、あまくもない。だからこの水は、ウミの水とも、ぼくのおなかにあった水ともちがうものなのだろう。


「なんか、私ってホント、バカみたい」


 ラベルちゃんは、そう言いはなった。ぼくもラベルくんも、びっくりした。


「だって、そうでしょ? バカだってわかっていながら、あんたたちをまとめなくっちゃってさ。最初に会ったとき、ラベルや、ペットボトル君より、高いところにいたじゃない。モチロン今は寝っころがってるんだけどね。ほらあとそれに、一番カタいじゃない。だから私がリーダーやんなくちゃって。ね、すっごくタンジュンでしょ。ホント呆れる」


 キャップちゃんに声をかけてあげたかったけど、どう言えばいいのかわからなかった。


「でも、弱虫なの。ペットボトル君の中に紙を押し込まれたあと、ギュウギュウに締め付けられて……あの手が、汗でびしょびしょだったの。そんな慌ててキツく締められたことなかったから、なんだかすごく怖くなって、それからすぐに投げ捨てられて。私たち『ゴミ』になったんだって思ったら、今度は哀しくなって。そのあと、ウミのまわりが燃え上がって、すぐ全身がアツくなって、ケムたくって、気を失って……」


 ぼくのなかみが飲みほされてしまったことはおぼえているけど、それからのことはおぼえていない。でも『ゴミ』になるのは、すごくかなしい。ぼくも、キャップちゃんとおんなじだ。ぼくはペットボトルでいたい。

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