第5話 その1

「……座長。良いんですか?」


 座長小屋のベッドで療養していたロワン座長は、只でさえ神経質に見えるのに、不快に近い険しそうな顔で訊く副座長を不思議そうに見た。


「……何が、だ?」

「自動人形の件ですよ。……座長、お加減は?」

「おう、寝返り打っても全く痛みは無ぇ。大した先生だ」

「それですよ」

「はん?」


 ロワン座長は、眉をひそめる副座長の言わんとする事が理解出来ず、少し苛ついた声で首をかしげる。

 この副座長も自動人形と同様、大した芸は持っていない、というより、まだ人形芸をマスターしただけ自動人形のほうがマシな方である。

 副座長が「副座長」たらしめるのは、サーカスの芸ではなくむしろ才、商才のほうであった。この神経質な男のマネジメント能力のお陰でこのサーカスは順調に運営出来ているのである。


「あの錬金術師、治療費にあの自動人形を要求しましたけどね、本当に相応の治療だったんですかねぇ」

「相応って、おい」

「いえ、どんな医者に診せても治らなかった座長のお腰を一発で治したのは凄いと思いますが……、でもそれが、あの自動人形の価値に値するかって事が怪しいと思うんですよ」


 副座長はそう言うと、顔をゆっくりとロワン座長のほうに近づけ、周囲を伺いながら小声で次いだ。


「……もしかして、あの自動人形に、我々の知らない価値があるんじゃないんですか?」

「価値、ねぇ……」


 ロワンは傾げた。


「……買った金の分はもう初めの頃に殆ど稼がせて貰ったから、そう言った意味では他に芸の出来ないあいつなど、オレらのサーカスには価値など無い。体のいい粗大ゴミの引き取り手が見つかって助かったくらいだ」


 清々するような顔で言うロワンを、副座長は不思議がった。


「でも座長、あれはもともと王家に出入りする商人から買い取ったヤツでしょう? しゃべる自動人形なんて余所で聞いた事など無いし、もしかすると王家に何か関係が……」

「おい――」


 副座長はロワン座長に睨まれ、思わず固まった。

 治安の安定していない辺境でサーカスの一座を率いてきた男がする、抜き身の刃のような鋭い眼光は、ひと睨みで副座長を威圧せしめてみせた。


「……滅多な事は言うもんじゃねぇぞ」

「は……はい」


 副座長はすっかり青ざめ怯えてしまっていた。

 遠回しに禁忌に触れたことを警告されて、その意味に気づいて震えているように見えるが、殆どはロワン座長自身に恐怖しているのは間違いないだろう。


           つづく

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