第2話

「俺は、俺はロイとでも呼んでくれ」


それは先ほど使っていたキャラ名、ロイスをもじったものであり、彼女もすぐにそのことに気づいただろうが、そこに突っ込むことはなくただ笑って見せるだけだった。


「じゃあ私はズッキーとでも呼んで」


「じゃあ、篠崎さん、ちょっと外でて話さない?」


ゲームセンターは雑音がひどくて喋るには疲れるのだ。


「名前はスルーなんだ。あっちの自販機近くのベンチでいいんじゃない?外はちょっと暑いし」


この爆音から離れられればそれでいい。俺はその提案に乗り、そちらへと移動することにした。


「篠崎さんはここのゲーセンに来たのは初めて?」


「いや、ここはしょっちゅう来るよ。最近は受験勉強もあってあんまり来てなかったけど」


「へぇ、ストレートバトラーもよくするの?」


ストレートバトラーとは先ほどやった対戦格闘ゲームのことだ。


「そうだね、わりと昔からやってるかな」


まあ、あの強さで最近始めたと言われれば流石に落ち込むところではある。問題は、何故彼女が俺の名を騙るかだ。確かに俺の名前は女にいてもおかしくはない。名字被りもまあありえない話ではない。しかし1年ほど前とはいえ、店舗大会で優勝した俺に同キャラで勝利する腕前を持ち、同じ高校の同じクラスに通っているという条件までつけるといくら交友関係が広くない俺でも知らないのはおかしい。


「まあものすごく強かったから、そうだとは思ったけど」


「いや、ロイ君もものすごく強かったよ。店舗大会優勝経験者の私が負けると思ったもん」


「店舗大会?いつの?」


「えーっと、2年前の秋くらいかな。たしかそのくらいだったと思うよ」


同じだ。俺も2年前の秋に優勝し、その後冬のアップデートで追加された新キャラが春の大会で猛威を奮い、俺は途中敗退しそれ以降このゲームはやらなくなった。こいつは俺のことをどこまで知っているんだ?しかし、あまりプライベートな話題を聞くのは不自然だ。結局この場で、いろいろ深く聞き出すことは難しそうだ。


「へえ、俺は新キャラ追加されてからあんまりやらなくなったんだよね」


「あぁプレシャス・ノンナね、あれが追加された後の大会は酷かったよ。結局3位だったし」


プレシャス・ノンナ、確かそんな名前だった。しかし、ここの情報は俺と違う。俺は2回戦で敗退している。揺さぶりを掛けているのかも知れない。


「あぁ、やっぱり篠崎さんでも厳しいのか」


「2回戦で当たってそれは何回か触ったことあったおかげか勝てたんだけどね、3回戦で当たった相手が優勝者だったんだけどみっちり使い込んでて、負けた」


プレシャス・ノンナは女キャラであり、俺は男で女キャラを使うのに何か気恥ずかしさを感じて、対策をあまりしていなかった。それも敗因のひとつであり、セクシー系女キャラが最強というのに納得がいかなかったのも辞めた要因の一つだ。その考えからいけば彼女がノンナ対策を行い、2回戦を制するというのも自然である。しかし、俺はそんな考えを誰にも漏らしていない。流石に怖くなってきた。この辺で今日は帰って明日学校で彼女のことを聞いてみよう。


「えっと、じゃあ俺はこのへんで」


「あ、じゃあレインやってる?よかったら教えてくれない?」


レインとはSNSの一種であり、今やメールより主流といっても過言ではないサービスだ。本音としてはこんな怪しい女に教えたくはない、のだが女子からこんな風にレインIDの交換を持ちかけられたのは初めてであり、どうにも断ることが出来なかった。結局交換した後まっすぐ家に帰ると部屋のベッドに寝転がる。彼女は一体何者なんだろう。と、考えていたところにレインの通知音が鳴る。あんまり聞かない音の高さに少しびびりはしたがどうやらそれはズッキーであった。いや、別に彼女をあだ名で呼ぶつもりなどないが、レインのIDの名前がズッキーなのだ。


[ロイ君も篠崎っていうんだね。偶然!]


その内容に慌てて名前欄を見ると、確かに俺のレインの名前は篠崎となっていた。俺は馬鹿か。ロイとかいってごまかした意味がない。


[まあ、実はそうなんだ。偶然だな]


[じゃあ明日学校でね]


返事は一瞬で来た。それにしても。明日学校って、彼女のプロフィールからいけば俺と同じクラスであり、うちのクラスは席替えしていない出席番号で振り分けられた座席であるため前後の席である。一体どう誤魔化すつもりであろうか。考えるのは怖いが、とりあえずは勉強をしよう。


次の日、いつもより少し早く家を出て2本ほど早い電車に乗った。なんとなく落ち着かなかったためである。結局教室に着いたのは7時55分。授業は8時35分である。本当に落ち着かないので携帯を開くと、1件の通知が来ていた。


[3-2に着いたよ~そういえば昨日聞かなかったけどロイ君って何年何組?]


慌てて顔を上げて教室を見回すがまだ教室には誰もいない。外に出てみてもそれらしい人影などない。教室を見るがまぎれもなく3-2である。


[俺も3-2にいるけど]


返事を返すが、これはなんていうホラーだろう。正直に返す必要なんてなかったんじゃないか。思考が上手くまとまらない。


[まだ3-2にいる?西崎さんって人も私の友達だから会ったら教えて]


西崎、それは俺の少ない友人の一人ではあるが、こんな時間に来るようなやつではない。あいつはいつも今日より2本後の電車で来るはずだ。しかし、教室に相変わらず一人の中ただ待っていることなど耐えられず西崎へと連絡することにした。


[お前今どこだ?]


返事はわりとすぐに来た。


[今駅だけど、それが?]


その時、今度はズッキーからのレインが来た。そこには、、、、、


無邪気に笑うレイン公式キャラクターのスタンプが押されていた。

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