そして私を好きになる
ぱーかちゃん
第1話
「好きです!付き合ってください」
「ごめんなさい」
高校3年、夏休みも迫った7月中旬の日、俺は人生初めての告白に失敗した。
「はぁ、もうだめだ、死のう」
「お前ほんとに昨日告白したんか?」
「ああそうだよ、振られましたよ」
「はぁー、なんというかもっと慎重にいけなかったんか?」
「そんなこと言われても経験もないのにどうすればよかったんだよ」
「まず友達になるとかさ、いきなり告白はねえって」
そう話すのは
「まあ仕方ないか、初めから釣り合ってなかったんだ」
「まあ、そこに関しては否定しないけどな」
なんて話をしていると1時限目の授業開始のチャイムが鳴り、それぞれが席についていく。この着席の速さは、まあまあの進学校であるここ香澄高校の誇れる点であるとは思う。若干落ち込んだ気分のまま授業を受け、やっと放課後になった。
クラスを見ている様子では浅見さんは特に俺の告白を触れ回るようなことも無く、
西崎も触れ回るようなやつではなく、俺の告白は特に話題に上らなかった。そのことでホッとする反面、俺の初恋が何事も無く流れていったことに寂しいという気持ちもあった。
「帰るか」
放課後というのにざわざわと騒がしい教室を出て、ボロっちぃ廊下を歩いていく。この時期は大体のやつは受験に向けて教室や図書館や塾やファミレスで勉強しているんだろう。まだ部活しているやつは最後の大会なりなんなりに向けて練習しているに違いない。そんな俺とはなんの関係もないところで流れていく青春が、羨ましく思え、心が複雑になる。こんなことを考えるのは振られたばっかりでナイーブになっているからか。だめだだめだ。ゲーセンにでも寄って帰ろう。
俺は家に帰る電車を途中で降りると、制服姿のまま行きつけのゲームセンターに入った。中に入ると聞きなれた轟音が耳をつんざく。ぶらぶらと中を見て周り、コインゲームの方へと行くとじいさんばあさんが席を占領していてどうにもできそうにない。仕方なく、引き返すと今度は格闘ゲームが目に映る。
そういえばもう長いこと格闘ゲームは触っていない。最後にしたのは去年の春休みぐらいか。たしかバランスがぶっ壊れるキャラクターが追加されてなんとなくやる気が無くなったんだったか。これでも店舗大会で優勝するくらいにはやり込んでいたんだ。久しぶりに触ってみよう。そう思い立つと、座椅子に腰を掛け100円を投入して、昔から愛用しているがいまいち不人気のキャラを選択した。そこからはCPUを相手にコンボ練習を始める。少ししていると勘が戻ってきて、難しいコンボも難なく繋がるようになった。そんな時、突如CPU戦を止められた。対戦相手の乱入だ。このゲームは店内で他にプレイヤーが始めると乱入対戦といって突如試合が始まる。
「へえ」
かつて優勝までした俺に挑んでくるとは、そこそこ強い相手だといいな、なんて考えているとすぐに対戦相手のキャラクターが映った。その、相手のキャラは自分と全く同じキャラだった。このキャラクターを自分以外に使っている人はあまり見たことが無く、すごく親近感が沸いた。この対戦が終わったら教えてやるかな、なんて思いながら始まった1セット目、いつもは守り重視で戦う所だが、こっちも意地がある。性能が同じキャラ同士でそんな戦いをしたくなかった。すぐに前に出ると読み合いを制し、コンボを確実に決めていく。
しかし、その余裕も最初だけで、その後は思うように技が決まらず少しずつ体力を削られていき、守りに入ろうとしたところにコンボを決められ1セット目を取られた。顔も分からない乱入者に久しぶりの高揚感を抱く。まさか、同キャラの対戦で俺が1セット目を落とすとは。相手の戦い方は本来の俺と同じ、守りを確実にして相手を焦らせ、相手に隙を作り出す。そこに確実にコンボを叩き込むという戦術。1度分かってしまえば何のことはない。相手の実力を認めていつもの調子でやらせてもらう。まずは後ろに引き確実にカウンターを決めるために様子を伺う。一方、相手は先ほどの俺と同じように前に出て挑発をしてくる。しかし、そこで相手のペースに乗せられず、相手のコマンドを読み、しっかりカウンターを決める。相手もガードを崩すように様々なテクニックを見せてくるが、自分の使うキャラのテクニックくらい熟知している。安定してカウンターを決め、何度かコンボをもらったが、それでもわりと余裕を持って2セット目を貰うことが出来た。問題は3セット目である。
相手もかなりの実力者である。このまま素直に勝ちとはいかせてくれなさそうだ。
3セット目の試合は硬直から始まった。お互いに相手の動きを知っているが故の選択。このキャラは待ち気味が一番強い。前に出て戦う択も持っているが、待ちの方がどうしても有利なのだ。しかしこのまま膠着状態で引き分けというのも面白くない。それはどちらが先か、相手と自分が前に攻め込んだのはほぼ同時、ここから待ちに切り替えることもできたが、この状況でそんな寒いことできない。そこからは技の差し合いになったがそこで最近触っていないことが仇になったのか入力が遅れてしまい、その隙を見逃さずきっちりコンボを決められる。そこから調子を崩し、途中で持ち直すも結局負けてしまった。負けてこんなに悔しいなんて久しぶりだ。挨拶でもしようと席を立つと相手は向かい側に座っていたらしく、こちらに顔を覗かせていた。
「「対戦ありがとうございました」」
口に出したのは同時、顔を見るに相手は女、それも高校の制服を着ている、というか香澄高校の制服だ。
「それ香澄高校の制服ですよね」
相手が先に質問してくる。
「そうそう。あんたも?」
「はい!3年2組の篠崎瑞樹でーす」
元気に帰ってきた答えに、俺が返せたのは乾いた笑い声だけだった。
なぜならそれは俺の名前と組であったからだ。
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