第10話




「お客さん…早く起きないと!」


「う…う~ん……」




目が覚めた途端に頭がずきっと痛んだ。




「さ、急いで!」


おばさんに急き立てられ、私はまだ半分眠ったままどうにか身支度を整えた。


外に出て、おじさんの軽トラに乗り込んで、走ってるうちにまたうとうとして…

次に目覚めたらもう駅に着いていて…心地良いリズムを刻みながら走る汽車の中で、私はまた眠ってた。







(うがーーー!なんてこった!)




結局、私は寝ぼけたまま…だけど、奇跡的に間違えることもなく何度も乗り換えをこなして、気が付けば家の近くまで帰って来てた。


目がとろけてしまいそうな程眠ったせいか、頭痛も治ってたし、元気ハツラツ!

お腹もすっごく減ってたから、駅前のファミレスに入ってゆっくりした時、私は大変な事に気付いてしまった。




(お土産買ってないよ~…

写真撮ってないよ~…)




どうするんだ!?

明日、職場のみんなに何と言う…?

今から各地のお土産売ってる所まで買いに行く?

送ったって言って数日稼いで、その間にネットで買う?




(……もう良いや。)




あれこれ考えてると何もかもが面倒臭くなって、いやな事ばかりが頭に浮かんで来て、

私は考えるのを放棄した。

お土産はどこかに置き忘れたことにしよう。

カメラは持って行くの忘れたって…もう、それで良いや……




何度も奈津美の顔が頭に浮かんでは消え…そして、その度に苛々が募る。




あぁ、無理して旅行なんて行かなきゃ良かった…

一体、何のために……




(あ……)




その時、私はおばあさんのことを思い出した。

そういえば、昨夜はおかしなおばあさんに会って、そこでお酒をさんざん飲んで……




(……あれっ?)




そう…私は、田んぼの中で転んで足を痛めたおばあさんをおぶって家まで送って…

そこで、お酒をふるまってもらったんだ。

でも……私は、民宿で目覚めた。

どうやって…いつ、帰って来たんだろう?




そこのところは、どんなに思い出そうとしても思い出せない。

記憶が完全に消えていた。

そこまで完全に記憶をなくしたことは今までなかったから、ちょっと不思議な気がして…




(まさか…思い違い…?

いや、田んぼでおばあさんをみつけた時は、まだそれほどは酔ってなかった。

だから、おばあさんをみつけたのも、家まで送って行ったのも間違いない…

でも、そのあとだよな…

おばあさんの家ではけっこう飲んだはずだ。

民宿からはけっこう遠かったと思うんだけど、そんなに酔っぱらってて、ちゃんと帰って来られるものなのかな?

あ…そういえば……)




昨夜の事を思い返しているうちに、私は、ふと、おばあさんからもらったあのもののことを思い出した。




(えっと…あれ、どこに入れたっけ?)




あちこち探していると、私の右手がポケットに何かあるのをみつけた。




(……あった……)




私は手の中の小さな木の実をみつめた……


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る