第9話

「下手な言い訳じゃのう。

今、あんたは愛しい人のことを考えておったんじゃろ?」


「ば、馬鹿なこと言わないでよ。

私には愛しい人なんて……」


「おぉ、おぉ、この期に及んでまだそんな嘘を吐くか。

気持ちだけはまるで少女のようじゃな、ひっひっひっ…」




なんだ、この婆さん…感じ悪ぅ。


心の中を見透かされた苛立ちに、私は思わず舌を打つ。




「あんたの友達も、ネットで知り合った人に自分から告白してうまくいったんじゃろ?

最近は草食系とかいう男が流行っとるようじゃからのう。

女が待っとるだけじゃ幸せは掴めん時代なんじゃな。」


「奈津美と私はまた事情が違うもん。」


「事情…?ほぅ…事情のう……」


おばあさんのその言葉は、人を小馬鹿にしたような言い回しに聞こえた。




「もうじきバレンタインデーという素晴らしい行事があることじゃし、思い切って告白してみてはどうじゃな?」


「だ~か~ら~~…」


「どっこいしょっと。」




おばあさんは立ち上がり、台所に歩いて行って……

って、足の痛みはどうしたんだ!?




「さぁ、これをやろう!」


そう言って、おばあさんは私の手の中に木の実のようなものをねじ込んだ。




「おばあさん…これは…?」


おばあさんは、薄気味の悪い笑を浮かべながら私に近付き、耳元にそっと囁いた。




「……惚れ薬じゃ。」


「な…何だって?」


「じゃから、惚れ薬じゃ!

良いか、それと砕いてチョコに混ぜ、それをあんたの好きな人に食べさせるんじゃ。

そうすれば、その人は間違いなくあんたに惚れる!」


「ま、またぁ……」


「魔女歴800年のわしが作った魔法の木の実じゃ。

効き目は100%保証するぞ!」




ま、魔女って、そりゃあルックスは魔女そのものだけど……しかも、800年って……




(……そんな馬鹿な……)




「これで、あんたにも春がやってくる。

さぁさぁ、前祝いといこうじゃないか!」


おばあさんは瓶の酒を私に注いでくれて……

それをぐいっと飲み干した途端、私はものすごい睡魔に襲われた……

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