第5話




「ないじゃん!

居酒屋なんて、どこにもないじゃんよぉ~!」




旅館にはお父さん用の缶ビールしかなくて、それを私はぐいぐいとあっと言う間に飲み干して…とてもじゃないけど、今の私の爆発しそうな心の中はそんなもんじゃおさまらない!

もっともっと飲んで大騒ぎでもしなきゃ、絶対に今日という日を後悔するよ!

しかも、旅館のおじさん達は、朝が早いからってもう寝るとか言い出すし……

こんな時間、子供だって寝ないよ!

ちょっと行った所に自動販売機があるとは言ってたけど、一人で部屋で飲むなんていやだ。

誰かと一緒に飲みたいから、私は居酒屋の場所を教えてもらった。

歩いたら40分くらいかかるらしいけど、そんなこと構うもんか。




最初は冷たい夜風が気持ち良い…なんて、余裕だったけど……

なんだかどんなに歩いてもそれらしき店はみつからないし、そのうち、自分がどっちから来たかもよくわからないような状況になって……

寒いし、真っ暗だし、誰もいないし……

私…こう見えてもけっこう怖がりなんだぞ…





「おーい…」




へ……!?




今、何か変な声がした?

私は、怯えながらあたりをきょろきょろと見渡した。

でも、誰もいない…そうよね…こんな暗闇に誰かいるはずがない。

いるとしたら、私と同じように懐中電灯くらい持ってるはずだ。

でなきゃ暗くて歩けないもん。




(でも……もしかして、それが…おばけだったりしたら……)




不意に浮かんだ妄想に、私はぶるっと身震いした。




ば、ば、ばか……

そんな非科学的なもの、この世にいないって…!

怖いと思うから、ありもしない声が聞こえるんだ。

そんなもの、ないない!

私は自分にそう言い聞かせて、大きく深呼吸をした。




(さ、これで大丈夫!)




「お~い…」




またも聞こえた薄気味の悪い声に、私は思わず悲鳴を上げた。




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