第6話
「早瀬って家どっち方面だっけ?」
駅間近になってふと思い立つ。なんとなく一緒に歩いては来たけれど、そういえば聞いたことなかったし。
「何で?」
なんでって同じ方向だったらしばらく一緒にいられるなとか、ごく単純にどの辺に住んでるんだろうかとかそういうことなんだけど。
「秘密主義?」
オマエなんかに言ったらストーカーされる。とか思われてたら嫌だな。
薄暗がりの中、軽く眉をひそめた気配。
「別に。……水森は何でおれなの?」
吐息にまぎれたようにまじめな声。
「え?」
どういう意味? なんか、すごく違う話してない?
早瀬は苦笑いまじりのため息をつく。
「電車、そろそろ来るんじゃないか?」
時計に目を落とすと……うわ。あと三分。コレを逃すとつなぎが最悪なことになる。けど。
「早瀬」
回答を求めて名前を呼ぶ。
小さく笑う。
なんか最近良く笑ってくれるようになったよな、以前に比べると。野良猫がなついてきたみたいな感じ?
「来たぞ」
駅に滑りこんできた電車に視線を向けながら、さっさと行けといわんばかりの言葉。
「はーやーせー。言い逃げはずるい」
電車の様子を伺いながらも食い下がる。
「別に。ただ単にそれだけの意味。乗り遅れても知らないぞ?」
あぁ、もうっ。
「明日っ、ちゃんと話してよっ」
改札に向かいながら言い残す。
何か早瀬が言ったような気がしたけれど聞き取れなかった。
止めましょう。といわれている駆け込み乗車で滑り込んで大きく息を吐く。良くやった。間に合った。
じゃなくて。
「何で。って」
閉まった扉にもたれて小さく呟く。
「何が?」
唐突な声。
「……真由」
目の前には呆れ顔の友人。一緒の電車だったのか。
「ただでさえ駆け込み乗車で注目の的なのに、荒い息を上げたまま独り言。女子高生じゃなかったらやばい人だよ? さすがの私も声かけるのやめようかと」
周囲を見れば何だかわざとらしく目をそらされてる気がする。被害妄想?
「それは、ありがとう」
とりあえず。声をかけられなければ一人でぶつぶつ言い続けるあぶない人になっていたかもしれない。
「で、どしたの? なんだか思い悩んでいるようだけど。今なら無料で相談受け付けますよ」
真由は親切顔で手を握ってくる。
面白がってるな? ていうか何が何でもしゃべらせる気でしょ。だんだん手に力こもってきてるんですが。
「何でって言われると困るよねぇ?」
ため息混じりにつぶやく。
「前後の会話がないと全くわかんないんだけど」
「何で私は真由とトモダチなんだろうねぇ」
それはこっちの台詞だ、と言わんばかりに真由はこちらを睨む。
しまった、誤解された。
「別に何で真由なんかとトモダチやってるんだろ。って意味じゃないよ」
「私はちょっと思ってるけどねぇ。……何でって、くされ縁でしょ。小学校でクラス一緒になって以来。長いな」
なんでそんなにイヤそうなの?
「で、それがどうしたの」
決して本題を忘れないのはさすがだよ、真由。
「それがわからないから困ってるんだけどね」
「ところで、誰に言われたの?」
「黙秘」
口を手でふさぐ。真由は冷ややかな目を向けてるくる。
「良かったじゃん。早瀬に興味持ってもらえて」
あー、ばればれですか。わかってるなら聞くなよな。
「早瀬だなんて言ってないけど?」
無駄な悪あがきをしてみる。
「他に誰がいるの? で、何で早瀬のこと好きかって聞かれたの?」
「やっぱり、そういう意味だったかなぁ」
本気でごまかせるなんて思ってなかったので素直に白状する。
「それ以外で何かある? ま、私から見ても何でって思うもんね。早瀬がそういうこと言うとは思わなかったけど」
「んー」
「朔花、そんな素振りさっぱり見せなかったし。なのに突然告白したとか言った時は何のネタかと思ったよ」
ネタ、ねぇ。
「ほら、思い立ったが吉日って言うじゃない」
「よりによって早瀬だし」
「……よりによって、って」
失礼だよ、真由。
「よくよく考えてみれば根本的なところが似てる感じするから良いのかもしれないけどね」
「似てる?」
先に電車から降りた真由の後を追う。
「この間も言ったけど朔花って協調性ないトコあるし?」
早瀬は言うまでもないし。と続ける。
「むー」
「で、どうするの?」
「どうするって」
混みあった改札の手前で真由は唐突に立ち止まる。割と迷惑行為な気がするんだけどつられて足を止める。
「って、早瀬の『何で』にはなんて答えるつもりなのかってことだけど?」
そういうこと、か……あ。
「しまった、馬鹿だ」
「はぁ?」
「あの時、あんまり意味わかってなくて明日ちゃんと話してよって早瀬に言ってきちゃった」
ちゃんと早瀬が答えたら、こっちのクビがしまるじゃないか。
「ばか」
心底呆れたようにいうと真由はさっさと改札を抜ける。
「見捨てないでよ」
どうにかしてくれなくても良いからさぁ、置いてくのはないんじゃない?
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