オレへの手紙

(頼むから、ここに何かを入れないでくれ・・・・・・。)

朝どうやらソレの存在に気が付かず、うっかりソレの上に下足を置いてしまったようだ。

しかも、今日は朝から雨。

当然靴もぬれていて、必然的にソレもぬれてしまっていた。

下駄箱に、ラブレター。

なぜに下駄箱に、自分の想いを入れるのか。

そんないい加減に自分の想いを扱ってもよいのか。

それとも、これはオレに足蹴にしてくれと、言っているのか。

自分のうっかりを無かったことにするかのように、オレはオレに弁明すべく、言い訳をした。


「相変わらずもてるね~」

右手に自分の下足、左手に泥水にまみれたソレを持ったオレに、友人はそう言った。

うらやましいのか、そうでないのか、その声やその表情からは読み取れない友人に、オレは肩を落として「この状態じゃ、嬉しくないけどね」と答えた。

この泥水にまみれたソレをどうしたらよいのか、オレにはわからなかった。

いつもなら、ソレを何故か楽しみにしている彼女が取り扱いについて良案を出してくれそうなところだが、今日はそんな彼女もいない。そもそも、彼女と一緒に帰ったためしがない。

(本当に付き合ってんのか、オレ達・・・・・・)

オレは左手に持ったソレとは別の問題に直面して、深い溜息をついた。


どうしていいかわからないソレを、オレはとりあえず家に持ち帰った。

大体下駄箱に入れるんだったら、不測の事態を想定して「油性インク」を使用するのが筋だろう。

「水性インク」は、雨にぬれたら滲んで読めなくなるのは、わかりきったことではないのか……。

そういうことで、宛名もさることながら、差出人も不明だ。そもそも書いてあったのかさえ、疑問が残る。

中の紙も、インクがにじんで読めない上に、インクが転写されて余計にわけがわからない。

そういうのに限って、何か大事な事が書いてあるのではないかと不安になる。

ま、モノはラブレターと思われる手紙だ。オレにとってすごく大事なことが書かれているとは到底思えない。

でも。

本当にラブレターだったのか?

そこが妙に引っかかる。

もし違っていたら、何だと言うのだろうか?

「果し状、とか・・・・・・」

呟いてみて、そんなわけあるか、と思う。

そもそも果し上なんて貰う謂れがない。

例えば、電報とか?

電報が、こんなに可愛い封筒に入っているわけないし、何より、オレの下足箱に届けられる意味もわからない。

今のご時世、電報よりもメールか電話の方が早いし安い。

他には?

う~ん、と唸りながらオレは、インクがにじんで読めないソレを眺めた。

「あ」

そして、気が付いた。

彼女は大事な部分だけ、どうやら油性ペンで書いていたようで・・・・・・。


HAPPY BIRTHDAY


紙の中に浮かぶ、その文字に、今日は自分の誕生日だったのかと知らされた。

そして、こんなことをするヤツは多分アイツだ。

全て計算されたことで、オレが封筒の中を必ず確認することも知っているアイツ。


遠まわしな伝達に苦笑は隠せない。

でも、何だかそれが、今日はとっても嬉しかった。

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