第5話 Legend of Ten thousand years ago - 1

 現代より遡ること約一万年前――

 そこには剣と魔法と冒険の幻想世界ファンタジアがあった。


 光溢れる天上界には神が御座おわし、大気には様々な霊気マナと精霊が満ち溢れる。

 蒼穹には天高く翼竜が悠然と舞い、母なる未知の大海には人魚が歌う。緑葉深き森の中には、エルフを始めとした数多の亜人類デミ・ヒューマンが闊歩す。

 幻想世界ファンタジアとは、今では伝承に語られるのみとなりし幻獣・妖精・龍族たちの支配する世界であった。

 そんな中、強力な体躯や武器となる牙や爪を持たぬ人類ヒューマンは集団を形成し、剣と魔法を用いて幾多の他種族に対抗していた。

 そうして多種族間の生存競争は、争いの内に互いの境界を定め、人類は王政を敷くなどしてその領土や各々の領域を確立していったのだ。この混沌とした世界の均衡は、人類と様々な種の絶妙な力関係パワーバランスの上に成り立っていたのである。


 だがそんな脆くもはかなき世界秩序は、一人の『怪物』の出現により崩れ去った。

 人とも龍とも魔とも呼べぬ、異形にして怪異なる存在――


 その名は『魔王』。


 そう呼ばれた男の持つ能力は、現存する如何なる生命をも凌駕するものであった。

 如何なる生物よりも強靭な肉体に、比類なき高い知能。そして『無限の絶対魔力ソーサリー・アンリミテッド』をその身に宿していたのである。


 その魔力、絶大にして絶対。無限にして無敵。


 神をも恐れぬ邪悪な野望を抱いたその男は、全世界に対し宣戦布告するや、その悍ましき魔力を駆使し、現世と幻界を繋ぐ『異界の門』を解放。数知れぬ凶悪な魔物を地獄の底より一斉に解き放ったのだ。

 自由の翼を得た幾万にも及ぶ魔物の軍勢を統率・指揮すると、瞬く間に遍く世界全土を席捲。あらゆる種族と共に、人類は無残にも蹂躙されたのである。

 魔王軍の圧倒的攻勢により滅亡した王国は百を数え、絶滅した種族は数知れず。

 血に塗れた大地に戦火は絶えることなく、その炎は地の果てにまで及んだという。


 そうして全世界は、全ての生命は、魔王と呼ばれた男に恐怖した。


 人の世を光で満たすは太陽神。大地に豊かな実りをもたらすは大地母神。

 魔王は――天上界の神々をも、その歯牙に掛けようとしていた。


 忌まわしき『無限の絶対魔力ソーサリー・アンリミテッド』を利して生み出せし神封じの禁呪により、聖宝珠オーブの内へ天界の神々を封じると、天は暗雲に包まれ、海原は大いに時化しけ、大地は見る影もなく荒廃した。

 世界は、絶望と暗闇と混沌の中へ閉ざされようとしていた――


 その時である。魔王出現とほぼ刻を同じくして、一人の勇者が現れた。


 恐れ知らずの彼は、魔王の持つ『無限の絶対魔力ソーサリー・アンリミテッド』に怯む事無く立ち向かった。

 颯爽と魔物たちを蹴散らすと、その彗星の如き快進撃は、まさに止まる処を知らず。

 並み居る魔王の将軍幹部らを悉く撃破し、遂には絶海の孤島に浮かぶ魔王城へと迫る。


 勇者と魔王――正邪の英傑二人。対局する光と影。


 暗雲渦巻く禍々しき魔王城にて、相見えしは至上の正邪。

 世界の命運と互いの生死を賭けて、遂に壮絶な一騎打ちを繰り広げた。

 二人を包む戦場は、雷鳴轟き、大海原は荒れ、天地を揺るがす。驚天動地、前代未聞の白熱した激戦は三日三晩に渡り、熾烈を極めたのである。

 死闘に次ぐ死闘――その結末は果たして勇者が、かの魔王を見事討ち破ったのだった。

 斯くして神々が封印されし聖宝珠オーブは、勇者の――人類の手に戻った。死して尚、蠢く肉片の内へ『無限の絶対魔力ソーサリー・アンリミテッド』を宿していた魔王の亡骸は、二度と人の世に出現せぬよう地獄の底へと追放す。

 そうして人類は、存亡の危機から救われたのであった。


『闇深き絶望の深淵が漆黒であればこそ、鮮烈なる真白き一筋の閃光が現れる』


 ――古の伝承は真であった。彼は、たった一人で世界を救ったのだ。


 勇者が魔王より奪還せし聖宝珠オーブを天へかざすと、太陽神と大地母神を始めとした、幾多の神々が勇者の前に姿を現した。

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