晃の記憶

父さんも、母さんも、みんなみんないなくなった。

俺だけ置き去りにしてどこかへ行ってしまった。

でも俺は、何も悪いことをした覚えはない。


「ずっといい子にしてるから。お願いだから、戻ってきてよ。」


泣いたって帰ってきてくれる人なんて誰もいないけれど。


*********


窓の奥に見えるのは、いつもサッカーを見ている女の子。

最初は、


「病院の女の子。」


そういうイメージだけだったのに、いつしか違うものに変わっていた。のちに、恋という気持ちに。

俺が進級していく間もずっとあの子は病院にい続けたまんまで、一緒に校庭でサッカーをしたいと思っても、あの窓の中から出てきてくれることは無かった。


晴れの日も、雨の日も、窓の奥に見える女の子がどうしても気になった。

どうしても気になって、僕は病院を訪ねてしまった。しかも、最悪のタイミングに。

僕は、アナウンスの人から女の子の部屋をやっとの思いで聞き出して、駆け足で向かった。でも、着いた時に見たのは絶望的状況。まるで、サッカーボールに頭を打ち抜かれたみたいだった。


痛そうにもがいて、苦しそうに涙を流す。そんな姿の女の子を見て泣き叫ぶ親。


「なんで今日来ちゃったんだよ…」


会えたらラッキーだ、そんな風に思ってたのに。まさか、こんな場面に遭遇するなんて思ってもいなかった。


僕は女の子の苦しむ姿が耐えられなかった。耐えられなくってもう無理だった。だから僕は逃げて行った。少しの罪悪感と、大きな哀しみを連れて…。


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