第2話 神様の図書館(アカシックレコード)

 もし、人はあらゆる生物の運命を知る事が出来る力を持っているとすれば、どうしていただろうか。その力は平等に分け与えられたモノではなく、選ばれた者だけが使える能力であるならば……その世界はどんな未来が待っているのだろうか。


 子供の頃――これから起こり得る出来事を事前に知ることが出来れば、悪いことを回避できるだろう。人生はもっと幸せに過ごすことが出来るだろうと誰もが思っていたに違いない。


 当然のことながらそんな夢物語は現実に起こることはない。


 我々人間は自由意志の元、それぞれの運命は誰にも分かるわけがない。何人たりとも、未来を知る事は出来ないのだ。


『人は人生の中で幾度となく、様々な選択をして生きている。その選択によってもたらされる未来は自分にとって良い結果をもたらす事もあれば、悪い結果となる事だってある。どちらにしても、選択の結果であらゆる未来が待っている事に間違いはない』


 宇宙誕生から今現在まで起こった出来事、生物一つ一つの生命に関する記録、更にこれから起こり得る出来事まで全てを網羅している、究極のデータバンク。人はアカシックレコードと呼んだり、神様の図書館などと呼んだりしている。このデータバンクは精神世界に存在するとされ、誰でもアクセス出来るわけではない。アクセスするには、かなり高度な霊力を必要とする。修行僧を経て力を得た人でも、アクセス出来る人はほとんど存在せず、何らかのキッカケによって見られるようになった事例が多い。勿論、俺のように生まれつき特別な力を持っている人も、権限アンソリティーを与えられている場合があるそうだ。


 小さい頃から変な夢を見る俺は、それがアカシックレコードと知るには時間が掛かった。


 能力の存在に薄々気付き始めたのは、祖父のお見舞いをする為、ある国立病院に行った時の出来事からだ。


同室のベッドで休んでいる、祖父と同世代ぐらいの白髪の患者さん、名札には宮田守みやたまもると書かれていた。当時は小学五年生だった事もあり、既に習った漢字ばかりの名前はすぐに読めた。この時はただ何気なく、隣のベッドを見ただけに過ぎなかった。だが、その日の夜。俺は昼間に見た『宮田守』という患者さんの生まれてからここまで、膨大な人生の歩みを夢を通して見たのだ。何故それが『宮田守』の人生だと思ったのかはわからない。だが、その夢はハッキリ今でも覚えている。いつ何処で生まれたのか、小学校、中学校、高校と進学していく過程、就職して定年を迎えるまでの仕事の日々。そこまでに出会った沢山の人達。全てが詳細な映像と共に、一気に流れ込んだ。そして、入院することになった原因が心筋梗塞とわかった。小学生が心筋梗塞など知るわけないのだが、病気のイメージが自然と頭に浮かんだのだ。更に映像は月日を重ね、遂に俺がお見舞い来た日になる。『宮田守』の視点から俺と祖父が談笑する姿が捉えられ、すぐに傍らの新聞に目を移された。その後は新聞記事に釘付け、一度も俺と祖父を見ることはしなかった。


時間が流れ、一週間後の午後二時三十三分、病室から移されたICUにて死亡が確認された。


 単に夢の中の出来事。そう思いたかったが、実際にXデーを迎えたその日、祖父から隣のベッドで療養していた宮田さんが亡くなったと連絡があった。夢が現実化されたのだ。


 その後、何度かフルネームを見ただけで、その人の人生の歩みを見るようになった。自分には特別な能力があると思い始めた時には、いつでも映像を見られるぐらいに能力のコントロールが可能になっていた。


 能力を発動させる条件として、一種の恋愛感情に似た意識を持った時、初めてアカシックレコードにアクセス出来ると考えた。思春期の真っただ中だった中学生時代、俺はそう結論づけた。好きな人の事をもっと知りたいと思う強い感情や意識によって、目に付けていた女子の人生が見られるようになった事実が、この仮説を実証したのだ。


 これは凄い能力とばかりに、色々な人の人生を覗き見た。


 だが気になる女子の中で唯一、アカシックレコードを見ることが出来ない、由比ヶ浜女学院に通う黒崎千夏くろさきちなつと出会った。これをキッカケにとんでもない事態に巻き込まれていくなどと、まだ知る由もない。何故なら、彼女の未来が全く見れないからだ……。

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