日曜日~go~
「あら勇気。今日は早いのね」
日曜日は漁も漁協もお休みだ。それでも習慣づいてしまったのか、父さんも母さんも朝が早い。時計の針は朝の5時。たしかに普段の僕だったら起きない時間帯だ。
母さんが作ってくれた定番のおにぎりを被せてあったラップで包み直し、持っていたリュックに入れる。
「あら?どこかでかけるの?」
「うん。ちょっと東京まで行ってくる」
「…………え?」
すぐには理解できなかったみたいで、数秒遅れて母さんが首を傾げた。
「だから、東京。夏休みだし、ちょっと遊びに行ってくる」
「遊びにって、そんな急に。それに東京は遠いわよ?」
「わかってる」
リュックを背負いながらそう返すと、母さんは父さんに声をかける。
「ちょっと、お父さんっ。勇気が東京に行くって」
「いいんじゃないか?」
「お父さんっ」
父さんは新聞を広げながら、僕を見ることもなく言った。
「勇気ももう高校生だ。ひとりでも大丈夫だろう。母さん、男にはな、そういう時期が必ずあるんだよ」
「そういう時期って?」
わけがわからないといった様子で母さんが父さんに尋ねる。
「独り立ちしたい、大人になりたいって思う時期だ」
新聞をめくりながら父さんが言うと、母さんがため息をつきながら僕を見た。
「……よくわからないけど、わかったわ。でも、気を付けるのよ」
「うん。ありがとう。母さん。父さんもありがとう」
「おう」
新聞の向こう側からぬっと手が挙がった。ちょっと苦手だった父が、少しだけ身近に感じた。
家を出て、朝イチの船に乗り込む。本島に渡ったらそこから小さい飛行機にのって空港までいって、そこから東京へひとっとびだ。
「待ってて。先生」
先生にあったら、たくさん文句を言ってやる。謝ったって許してやらないんだ。そしてその最後には────。
〝僕も、愛してる〟
先生の置手紙にあった言葉に、そう返事をする。
突然僕が訪ねていったら、先生は驚くだろうか? 喜んでくれるだろうか? 抱きしめてくれるだろうか?
僕はほんのちょっとの不安と、たくさんの期待を胸に、船の先頭に立って前を向いていた。
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