水曜日~play~

 翌日も先生は精力的に調査していた。真剣な表情の先生の横顔をちらりと見てはドキンと胸が躍る。

「かっこいいなぁ……」

 思わずそう呟いたら、先生がくるっと振り返った。

「何か言ったかい?」

「今日は一段と暑いなってっ」

 あわててそう取り繕うと、先生がにこっと笑った。

「そうだね。今日の調査は予定よりも進んでいるし、ちょっと遊ぼうか」

 機材をカバンにしまいながら、先生がそう言った。


 先生が、海を見たいといったから、近くにあるビーチに先生をつれていった。ここは集落とは山を挟んでちょうど反対側にあるビーチで、人はめったに来ない。

「うわー。きれいな海だねっ。この島に渡る船から海を見ていて、一度泳ぎたいって思っていだんだよっ。でも調査に来ていたからね、泳ぐのは無理だと思ってたっ。こんなに順調に調査がすすんでいるのは、勇気くんのおかげだねっ」

 そういって長袖のシャツを脱ぎ始めた。

「先生?」

「勇気くん、泳ごうよ!」

 正直海なんてめずらしくもなんともないんだけど、先生のあまりのはしゃぎっぷりに思わず乗せられてしまう。

「でも先生、水着がっ」

「誰も来ないよ。男同士だし、裸でいいじゃないか」

 いや、それは困りますっ。僕の目のやり場がっ。

 僕が黙ってしまったのが不服と思ったのか、先生が「じゃぁパンイチで」と言ってきた。それでも十分恥ずかしいんだけど、でも先生が海に入りたがっていたので折れることにした。

 先生はショート丈のボクサーパンツだった。青地に脇に白く太いラインが入っている。僕は柄物のトランクス。なんか子供っぽくていやだ。

 先生がテンション高く海に飛び込むと水しぶきがあがり、キラキラと輝いていた。そのキラキラに囲まれている先生を、僕はまぶしそうに見ている。

「勇気くんっ。気持ちいいよっ。早くおいでよ!」

 先生がそう言って水をすくうと僕にかけてきた。

「なにするんですかっ」

 負けじと僕も海に入り、先生に向かって水をかける。しばらくふたりで水のかけあいっこをして、遊んでいた。

 楽しい。先生が楽しんでいるのをみると、僕も楽しい。

 なんで先生の笑顔を見ると、こんなにふわふわした気持ちになるんだろう。

「うわっ」

 先生の脚がなにかにとられたのか、倒れそうになった。あわてて手を伸ばし先生の腕を掴んで強く引いた。

 先生を抱きしめるように抱え、「大丈夫ですか?」と声をかけてハッとする。

 先生の肌と僕の肌が密着していた。


 ドキンッ

 ドキンッ


 もう僕の心臓はお祭り状態で。

「せ…んせ……」

 もっと密着したい。そう思って先生の腰に手を回す。何をしているんだろう、と思うよりも、もっと先生の熱を感じたい。その気持ちの方が完全に上回ってた。

「ゆ……うき……くん……」

 先生が僕の顎をくいっと上げる。先生の熱を帯びたまなざしを受け止めながら、僕は頬を染め目を閉じる。


 どれぐらい待っていただろうか。何十秒? 何分? ううん。わずかコンマ数秒だったのかもしれない。でも。どれだけ待っても僕の期待した時間は訪れなかった。かわりに先生の熱が離れ、「戻ろうか」っていう抑揚のない声だけが耳に飛び込んできた。


 ゆっくりと目を開くと、水に濡れた先生の背中が遠ざかっていくのが見えた。その背中を見つめ、僕は自分の気持ちに気がついた。


僕は、先生が────好き。




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