第18話

「……確かに今の説明を聞くとそうかもしれません。でも、今の説明って穴がありますよ。だって、僕が裏サイトを作ったとしたら、裏サイトが他人に知れ渡るわけがないですよね」

「それは簡単だ。何人かの携帯のメールアドレスを手に入れればいい。そこへメールで裏サイトの情報を送れば、誰かしらは興味本位で見にいってくれるさ」

「ですから、僕は――」

「友達なんて必要ないんだよ。携帯をちょっと見せてもらえばいいだけなんだ。勿論、無断でだけどね。体育の授業中にでも、携帯は見ることができる。手にさえすればメールアドレスは手に入るだろう」

「……」

「今のは何の反論にもなっていない。むしろ補強さえしてくれるよ。今言った方法を取ったからこそ、最初の内は全く裏サイトが広まらなかったんだ。もし他の方法だとしても、君が取れる方法なんて似たり寄ったりだ。どちらにしても、広まりにくかった理由になるんだよ」

 反論しても、無駄だったようだ。

「そろそろ答えてくれないか。どうしてこんなことを君はしたんだ?」

 ここまで言われたら、否定する意味もない。

「……答えるも何も、僕はもう半分くらいは答えを言っていたんですけどね」

「というと?」

「僕はずっと疑問に思っていたんですよ。周りの人間が言う友達というものが何なのかって。友達っていうものはもっと大切なものなんじゃないかって」

「それを調べたかったと?」

「そうです。これは実験だったんですよ。僕は言いましたよね。予想したではなく期待したと。僕は期待したんです。学生達が本当は友達をすごく大切に思っていて、『友達が不幸に』ならないように『友達に送る』んじゃないかって。だからこそ広まるんじゃないかって」

「そして実際はそんなことはなかった。君が一番気にしていた『友達が不幸になる』という部分は蔑ろにされ、他人を中傷するための道具として広まっていった。だから君は不満を訴えていたわけだ」

「そういうことです」

「しかし、ただそれだけのために、君は裏サイトを作ったと言うのか?」

「あなたにとってはそれだけかもしれませんけど、僕にとってはそれほどだったんですよ」

「ふん。どうもまだ話していないことがあるように思えるけれど、一応納得してあげるよ」

「それはどうも。――でも話していないことがあるのはあなたもでしょう?」

「私が何を話していないと言うんだ」

「僕にこのチェーンメールを送ったのはあなたでしょう?」

 きょとんとしたように彼女が停止する。

 しかし、それも一瞬のこと。

「――ははははは。流石に分かるか」

 悪びれもせず彼女は言った。

「そりゃ分かりますよ」

 このメールは僕の学校でだけ流行っているんだ。

 偶然、僕の知らない誰かが送ったものだなんて考えられない。

 そんなことよりも、

「何故ですか?」

「ん?」

「何故、わざわざ匿名で僕に送ったんですか?」

「それは単なる悪戯だよ」

「嘘くさいですね。もしかして最初から、僕が作ったと思って匿名で送ったんじゃないんですか?」

「それは買いかぶりだよ。現に私は君が裏サイトを知っていると思っていなかった。匿名で送ったのは気まぐれで、特に他意はなかったよ」

「他意? じゃあ本意は何だったんですか?」

「それは愚問だよ。このメールを送る理由なんて、一つしかないだろう」

 ……あぁ。

 それは、つまり――

「は、ははは、そうでしたね。愚問でした」

 どうやらこれで、本来の目的は達成できたようだ。

「さて、そろそろいい時間だし、お開きとしようか」彼女は席から立ち、積み上げられた本を整理する。「聞きたいことは全部聞けただろう?」

「はい。知りたかったことが知れて、良かったです」

「知りたかったことねえ」

 それは一体、何を指しているんだろうね――と、彼女は本を片付けながら呟いた。

 今日を思い返しながら、僕はそれを手伝った。

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