第5話

「この前も言ったけど、こういうことは信じなければいいことなんだよ」

「俺だって信じてるわけじゃねえよ」

「でも君は疑っているだろう? その時点で危ないんだよ。この前は言いそびれたけど、ドッペルゲンガーについて文献にはこう書いてあるんだよ」

 ドッペルゲンガーに実際に会った人の話。

 最初はあり得ないって信じていなかったが、あることをきっかけにあり得るのかもと疑ってしまった。

 疑ってから自身に実害が被ってきて最終的にはドッペルゲンガーに出会って死んでしまう。

「――だから逆説的に考えれば、信じなければドッペルゲンガーという現象は進行しないんだよ。実際に、信じなかった人はドッペルゲンガーに会うこともなかったらしいよ」

「…………」

 彼は黙り込む。

 僕は続けた。

「よくさ、肝試しに遊び半分でミステリースポットへ行って、実際に怪奇現象にあってしまうなんて話があるよね」

「……それが?」

「これも今回のことと同じでさ。例え遊び半分であったとしても、そういうことを全く信じていなかったとしても、――肝試しに行った時点で、あることを望んでしまう。怪奇現象にあってみたい、と心の隅では考えてしまうんだ。つまりこの場合は望むことであり得るかもしれないと疑ってしまっている。だから、実際に怪奇現象にあってしまうんだよ」

 だからさ、信じなければいいんだよ――と、僕は言った。

「…………」

 でも、彼は変わらず黙り考え込んでいた。

 ここまで言っても、彼を説得することは出来なかったようだ。

 ……仕方ない。

 もう一押ししてみるか。

「君は少し考え過ぎなんだ。ちょっと気分転換でもしてみなよ」

「気分転換なんてする気にならねえよ。それに何をしろって言うんだ。どうせ何をやっていたって、無駄だ。つい考えちまうんだよ。何で俺がこんな目にあってんだって。俺が何か悪いことでもしたのかって。……何が悪かったんだろうな」

「だから考えすぎだって。こういう時は趣味でもなんでもいいから好きなことをやってみればいいんだよ」

「……好きなことか」自分を見下ろして彼は言う。「そういや新作も出てる頃だったな」

「新作?」

「あぁ。俺がよく行く店、原宿にあってな。定期的に限定物出すんだよ。この前の服だってそうだったんだぜ」

「へえ」

 どうやら彼は自分の服を見ていたようだ。

「まぁとにかくさ、買い物や散歩でもしてみなよ。気分転換になるよ」

「あぁ、そうだな。そうしてみっかな」

 彼は少しだけ微笑みながら言った。

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