第3話

『ドッペルゲンガー』

 二重に歩く者の意。自分と全く同じ姿をした《もう1人の自分》を目撃してしまう怪奇現象、及び、目撃してしまうと必ず死に至るという都市伝説を指す。

 そしてこの現象で重要な事は一つ。

 目撃した場合、その人物が自身の分身であると直感的に確信して疑わない、ということだ。


「――とこんな感じかな」

 説明を終えると加藤くんの友達が口々に言う。「何だそれ?」「あり得ねえって」「嘘くさー」等々。

 そんな彼等を差し置いて、加藤くんは言った。

「で、専門家さんの意見はどうよ?」

「どうよって、何が?」

「決まってるだろ。ドッペルゲンガーが実在するかどうかってことだよ」

 何だ、そんなことか。答えは簡単。

「ははは。実在するわけないよ」

「何だとてめえ」

 ……何故怒る?

 どうも加藤くんのしたいことが分からない。こういう時は否定してもらいたいものだと思うんだけど。

 そもそも何故、加藤くんは友達にその話を信じさせようとしているのかも不可解だ。

 まるで、

 ドッペルゲンガーが本当にいることを望んでいるような――

 ……いや、考え過ぎか。

 それに加藤くんの思惑はどうであれ、僕には関係ないことだ。

 加藤くんが肯定して欲しいというなら、そうしてあげるのが優しさだろう。

「まぁ待ってよ。普通に考えるとあり得ないことだけど、実際はどうだか判断できないんだよ。肯定する材料もなければ、否定する材料もない、というのがこういうことのセオリーだからさ」

「つまり?」

「つまり、信じれば存在するし、信じなければ存在しない、って感じかな」

「よく分かんねえな」

「もう少し様子を見るべきだってことだよ。これから先も同じような目撃証言が出てきたら、流石に偶然とか勘違いとかでは済まされなくなる」

 そうすれば、いずれ皆が信じることになるよ。

 最後の言葉は必要ないと思ったので、言わなかった。

 後は加藤くん達があり得るあり得ないの禅問答をしていて、昼休みが終わってしまった。

 本当、僕の一人の時間を返して欲しいものだ。

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