第2話
「くっそ、このやろう。なんなんだよあれ。何で屋上来るのにあんな糞埃っぽい所通らなくちゃならねえんだ!?」
あぁ、くっそ、この服高いんだぞ――と、全身埃まみれになった体を叩(はた)きながら、僕の目の前に彼は来た。
「なんで俺がこんな目にあわなきゃならねえんだよ!?」
じゃあ来るなよ。
と思ったけど、口にはしない。
「つかお前、本当に屋上にいんだな。探したぞ」
「僕を?」
「そうだよ」
「何で?」
「用事があるからに決まってるだろ」
「そりゃそうか。で、えーと、君は……」
「お前、まさか俺の名前も覚えてないのか?」
「うん」
というか見たこともない気がする。
「てめっ、クラスメイトの名前くらい覚えておけよ!?」
どうやら彼はクラスメイトらしい。
記憶にはないけれど、そうなんだろう。
今のは流石に失礼だったかな。フォローを入れておこう。
「ごめん。僕、物覚え悪くって。君の名前どころか君の顔さえ覚えてないくらいだからさ」
「更に酷いぞ!?」
逆効果だった。
彼は舌打ちして一息入れて言う。
「ったく、まぁいいや。俺は加藤だよ。覚えておけ」
「うん」僕は興味なさそうに頷く。「それで加藤くん。僕に用事って?」
「あぁ、ちょっと聞きたいことがあんだよ」
聞きたいこと? そう僕が問い返す前に「加藤ー、あいついたのかー」と屋上の入り口から声がした。
見ると、加藤くんと同じように私服を着た生徒が三人出てきた。「お、本当にいるんだな」とその内の一人が言った。
顔を見るが、やはり僕には記憶がない。しかし、どうも加藤くんの友達のようだし、クラスメイトの可能性もある。下手なことは言わないでおこう。
「えーと、聞きたいことって?」
「あ、あぁ。丁度こいつ等も来たし、聞いてみるか」
加藤くんは言った。
「お前、ドッペルゲンガーって知ってるか?」
ドッペルゲンガー。
確かに僕は知っているけれど、何とも唐突な感は否めない。加藤くんのような人が、こんなマイナーな怪奇現象を言葉にするとは思っていなかった。
「知っているけど、それがどうしたの?」
「それがな、どうも出たらしいんだよ」
「出た?」
「あぁ、俺のドッペルゲンガーが出たらしい」
加藤くんの話を聞くとこういうことらしい。
いつものように、ここにいる友達と外で遊んでいた加藤くん。その時間帯に他の場所で加藤くんを見たという目撃証言が学校裏サイトに書かれていたらしい。最初は気にしていなかったけど、次第にその数が多くなってきた。しかもどういうわけか、決まって加藤くんが誰かといる時間帯に目撃証言があった。だから流石に気になりだしたらしい。
何とも眉唾な話だ。
「そもそもどうして僕に聞きに来たの?」
「そりゃお前、こういうことは専門家に聞けってよく言うだろ?」
「じゃあ専門家に聞いてくれよ」
「ん? でもお前ってこういうことに詳しいんじゃねえのか?」
「いやいや」何でそうなる。
「なんだ違うのか? でも皆言ってるぜ。お前って何つーか言動がおかしいっつーか、――不思議系っつーのか? とにかく変わった人間だから、そういうことにも詳しいはずだって」
誰だ、そんなデマを流したのは。
「というより、不思議系=そういうことに詳しい、という等式が成り立たないよ」
「でもよ、お前っていっつも一人で屋上にいるだろ。あれも実はUFOを呼んでいるとか言われてんだぜ。それにお前って違和感はあるのに存在感はねえじゃん。幽霊と話をしているとか、むしろお前が幽霊なんじゃねえかって話もあるくらいだぞ」
ほう。いつの間にか僕は超常現象と肩を並べる存在になっていたようだ。
何だそれ。
僕はそんなキャラじゃない。
というより、僕はそういうことに詳しいわけじゃないのだけど。
「まぁ何でもいいや。お前知ってるんだろ。じゃあこいつ等にも説明してくれよ。俺が何を言っても信じようとしねえんだよ」
どうやらそのために専門家である僕の所に来たようだ。確かに専門家の言うことには説得力がある。信じるかどうかは別にして。そして僕が専門家かどうかも別にして。
そろそろ面倒くさくなってきた僕は、この場を凌ぐために知っていることを簡潔に話した。
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