reverse-リバース-

沖田和雄

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5年前のとある日の放課後、


『ザーッ………』


暗黒の雲から大量の雨粒が雪崩落ちていた。


「おい、何してんだよ? さっさと飛び降りろよ、安田」


「そうだ、そうだ」


「お前の為に使える時間なんて1mmも無いんだよ」


「飛び降りろ、飛び降りろ、飛び降りろ、飛び降りろ、………………」


『ドタッ』


「……………………」


「あ、あいつマジで飛び降りやがったぞ」


「と、とりあえず、に、逃げよう! 」


「そ、そうだな、ばれないはずだ! 」


『ザーッ………』



「オ マ エ ラ ゼ ン イ ン ノ ロ イ コ ロ シ テ ヤ ル ……」


「うわーーーー」

『バサッ』

目を覚ますといつもの光景が目に入ってくる。

「夢か……」

そうだ、あれは夢だ。

遠い昔の葬り去った出来事が夢となって現れただけなのだ。

俺は何度も自分にそう言い聞かせた。


俺は村田琢磨むらたたくま、22歳で来年から少しは名の知れた会社に入社する事が決まっている。


今日はこれから就職が決まっている高校の同級生と1泊2日の同窓会である。


まあ、仲の良かった奴らと集まるだけだから人数はしれているが……。


ふと時計を見ると、時刻は9時をまわろうとしていた。

「もうそろそろ用意をしないと……」


そう言いながらカーテンを開けた。

俺は不意に空を見上げた。

空は真っ黒な雲に覆われていた。あの日のように………。

「何も無ければ良いけど……」

そう思いながらも家を出た。

今日は1時にバス停近くの公園に集合だった。が、余裕を持って12時30分に到着した。

待ち合わせ場所には誰もいない。どうやら最初に到着したようだ。暇だったのでその辺の座れそうな場所に座った。

するとすぐに、

「おお、村田久しぶりだな」

後ろから急に声を掛けられる。


「ウワッ」

振り返ると三浦孝介みうらこうすけが立っていた。

現在23歳。確か有名な難関大学の医学部に受験して現役合格。高校ではサッカー部に所属していた。又、3年間の高校生活を通じて彼女がいなかった事が一瞬たりともなかったと噂されていた。


「急に声掛けるなよ」

「すまん、すまん。何せ久しぶりに会ったもんだから感情を抑えきれなかったんだ」

「確かに久しぶりだよな」

「おい、村田他のみんなは? 」

「見ての通り、まだ来てないみたいだよ」

「ったく、昔から俺とお前だけしか余裕をもって来ないよな」

「ああ…………」

これから楽しくなるであろうに、今朝見た夢が頭から離れない。


「ん? どうかしたのか? 」

「え? 何がだよ? 」

「いや、ボーッとしてしてたし……何か顔色も悪いぞ」

「……何でもないよ」

「そうか、分かったぞ。今朝、夢で5年前のあの事件を見たんだろ」

その瞬間、寒気が走った。

まさか、俺があの夢を見たのはこいつのせいだったのか?怖かったが聞いてみた。


「どうして、分かったんだよ。……もしかしてお前が仕組んだのか? 」

「そんな訳無いだろ。むしろ俺もそうだったらどれだけ嬉しいか……」


三浦の言っている事が理解できない。

「じゃあ、どうして俺が今朝5年前のあの事件の夢を見たって分かったんだよ? 」


俺は自分で質問している間に問いに対する答えを考えた。


俺を盗聴しているのか、それともあいつが何らかの機械を作ったか……ずーっと疑っていた。


しかし、返ってきた答えはもっと気味の悪いものだった。


「実は……俺も5年前のあの事件の夢を見たんだ」


「……………………」

少しの間、物凄い形のない衝撃に言葉が出なかった。

「は? 」

「だから、俺も今日その夢を見たんだよ」

「で、で、夢の内容は? 」

「だ、か、ら、あの事件のこ……」

「違うよ! もっと詳しく! 」

夢の内容が少しでも違えば俺は気が楽になる気がしたのでやたらせかした。


「詳しくって言われても……確か始まりは俺らの学校の屋上だった。あの日と同じようにどしゃ降りの雨で……」


体感温度がどんどん下がっていく。

そんな俺に気付く気配もなく三浦は今朝の悪夢を語り続ける。


「いつものメンバーで安田をいじめてたらあいつ飛び降りたんだよ。それで俺達逃げたんだ。あの日のように。ここまではあの日と全く一緒だったんだけど……」


もはや、ここまで来ると絶対に見た夢は一緒だろう思った。というより、確信していた。だから、最後に聞いた、事実と異なる箇所を確かめるために。


「もしかして、最後に(お前ら全員呪い殺してやる)って言ってたんじゃ……」


察したのか、三浦の顔も一瞬で青ざめてしまった。声もかすれている。

「じゃ、じゃあ……俺達の見た夢は……」

「……全く一緒だった……」

俺は自分達の犯した重い罪に気付いた、もう手遅れだということも……。


「……………」

無言で他のメンバーの到着を待っていた。

夢の一致が偶然にしても必然にしても気持ち悪い。


しかし誰も来ない。

「なぁ……」

長い沈黙を破ったのは三浦の方だった。

「この夢のこと2人だけの秘密にしないか ?」


「エッ……」

俺からすれば予想外の言葉だった。


「今日はせっかくみんなで集まるんだから、楽しくやりたいし……」


俺は怖かった。安田の、死者の呪いが……。

「正気か ?こんなこと普通起こらないぞ !何か起こるだろ」


まさに今日集まる予定のいつものメンバーが安田の“自殺”に荷担した全員なのである。


すると、三浦が反論してきた。

「確かに俺も怖い……けど呪いなんてあるわけないし第一、夢が偶然一緒だっただけかもしれないじゃないか!」


俺は三浦の事が信じられなかった。これだけの事を偶然の一致だけで片付けようとするからだ。


しかし、俺は反論しなかった。正直、三浦の言っている事に共感出来るからである。俺達は5年前の高校の卒業式以来会ったこともなかったのだ。

「……分かったよ……今日は楽しもう……」

俺は顔をひきつらせながら言った。


「ごめん、ちょっと遅れた」

そう言いながら近付いてきたのは綺麗な容姿ではなかったがいかにも真面目そうな黒髪の男。

だが、それが誰なのか全く検討がつかない。俺と三浦は反射的に目が合い、心が繋がっているかのように


「あの……どちら様ですか ?」

と同時に聞いた。


すると、

「え、俺を忘れたのか ?白井だよ、シ・ラ・イ」

「え、白井って……あの白井か……」

三浦が目を丸くしながら呟いた。

正直、俺も全く同じ感想だ。

「お前、俺以外に白井って奴に会ったことあるのかよ !」

「……いや……1人しか知らない……」

まだ目の丸い三浦が言った。

「じゃあ、その白井に決まってるだろ !」

どうやら彼は白井学しらいまなぶのようだ。22歳で聞いたところ飲食店で働いているらしい。しかし、そんな情報は頭に入らなかった。まあ、それにはもちろん理由がある訳だが……。

そんなことを考えていたら三浦がついに核心をついた。

「白井って、昔金髪だったよな」

そう、白井は高校時代金髪だったのだ。自分で言うのもなんだが金髪を黒髪に変えられると白井だと気付くわけがない。その他にも、白井は昔、色々やっていた。

「ほんとだよな。昔、学校途中で抜け出してゲーセンに行ったりしてたあの白井がまさか、真面目に働いているとは……」

何故か人が変わったようで、ちょっと悲しくなったのは俺だけだろうか?

「ったく、久しぶりに会ったっていうのにいきなり何か嫌な思いさせられたな……、人生何が起こるか分からないんだよ!」

「全くだ」

白井の言葉に俺たちは同時に共感の言葉を口にした。


その後も、白井をいじっていると残りの2人も到着した。

「よお、みんな来てたのか?」

何て言っているのは金村重利かねむらしげとし、23歳で一般企業に内定を貰ったようだ。

「ああ、って言うか遅刻だぞ」

三浦が金村にキレている。

「ゴメンゴメン、そう怒るなって、三浦 」

「って金村も言ってるんだし許してやろうぜ」

とほざいたのは一緒に遅れてきた今田高生いまだこうせい、22歳で公務員試験に合格し、内定もとれたそうだが公務員がこれで良いのだろうか?

「バカ、お前も遅刻だぞ」

三浦が不機嫌そうに1言吐き捨てた。

「わりーわりー、……と言うよりお前白井か?」

また、同じネタが始まりそうだ。

「ああ、そうだよ。なんか悪いかよ」

白井もさっきからそればっかで不機嫌だ。

「別にそんなことは言ってないけど……」

今田は完全に白井の態度に押されていた。

この変な流れになりそうなのを止めたのは三浦だった。

「ちょっとストップ。バスの発車まで後5分しかないぞ」

それを聞いた全員の顔色が悪くなる。

「ヤバい、みんな走れ」

金村の1言でみんな走り出した。

「誰のせいだよ」

三浦が走りながら放った言葉に全員うなずいていた。

こんな感じで今日泊まる場所へ向かった。

この後、何が起こるかも知らずに……



今日泊まる場所は三浦家が持っている別荘だ。

集合場所からはバスで15分程走れば着く。


バスを貸し切ったわけではないが田舎中の田舎なだけあってバスには俺たち以外に客は乗っていなかった。

なので事実上の貸し切りだ。

だから、人目を気にせず昔のように大人気なくはしゃぐことができた。

そんなこんなしていると別荘についた。


この別荘が堂々たる雰囲気を醸し出していた。

「思ってたより大きいなあ」

ふと白井の口からそんな言葉が漏れた。俺も白井の気持ちがよく分かる。

別荘なんて普段は使わないはずなのに俺の家よりも確実にデカい。


「そんなことより中に入ろう。雨が降りそうだし……」

と三浦が言ったので俺達は三浦の言う通りに動いた。

が、俺は何故か心の中に一抹の不安を抱えていた。

ふと見上げると空に青色は見えなかった。


玄関を抜けるといくつものドアがついた廊下だった。そのまま、まっすぐ歩き突き当たった部屋に入るとそこは団らん部屋のようだった。そこにも東西南北それぞれ1つ、計4つのドアがあり、この廊下から入ってきた扉の対面の扉にトイレ、2階に続く階段があり、その奥の部屋がキッチンのようだ。因みに、ベッドは2階のようだ。

そんな説明を三浦に聞かされた後、とりあえずテーブルの周りのいすに腰掛けた。

イスはちょうど人数分だった。

着いて早々、俺は……

「なぁ……お前ら昨日……夢見たか?」

禁断の事を聞いてしまった。

「バカ、それは言わないって2人で決めただろう」

三浦が怒っている。約束を破ったのだから当たり前と言えば当たり前なのだが……。

「ゴメン、三浦、でも……聞かないと大変なことになりそうな気がして……、で今田、何か夢見たか?」

「え、……急にそんなこと言われても……」

今田も急な話で何も理解していないようだった。

「はぁ、仕方ない。実は俺と村田の夢が全く一緒だったんだ」

三浦も理解を示してくれた。


しかし、

「………………………」

沈黙が続く。

皆、確実に戸惑っているのだろう。


そんな中、最初に口を開いたのは金村だった。

「俺は……5年前のあの事件が再現されたような夢を見た」


「でも、1箇所違っていたのは最後の“呪い殺してやる”」

白井が金村の話にのってくる。


「俺も安田が出てきた」

最後に今田も理解したようだった。


「俺達が見たのもその夢なんだ」

この三浦の1言で部屋の温度がとてつもなく下がった気がした。


「まさか……安田が呪っているのか?」

金村が震えるような声で呟く。


「まさか、霊なんているはずがないだろ」

白井は一切認める気がないようだ。


「………………」

再び沈黙が続く。


こうなることは容易に想像が付いていたがやはり話しておいて正解だっただろう。


「まあ、その話は置いといてもうそろそろ同窓会を始めようか」

三浦が強引に話題を変えた。

「ああ、それが良い」

俺もそれに同調すると、周りもそんな雰囲気になっていたので、俺達はテーブルを囲んで楽しく話していた。

「でも、まさか白井がこんな事になってるとは夢にも思わなかったなあ」

相変わらずの話題だ。

「だから、もう良いよ、その話は!」

白井も面倒くさそうに対応していたその時だった。


『ガタン』

一気に部屋が暗くなった。

「もしかして、や、安田の呪いか?」

今田が言った。部屋が暗くてよく見えないがかなりびびっているのだろう。


「いや、さすがにそれはないだろ」

俺はあまり呪いのせいにしたくなかったのでとりあえず根拠もなく否定した。


「そうだよ。他の部屋も暗いからブレーカーが落ちたんじゃない」

三浦の言った通り全ての部屋が暗闇に覆われていた。


「そうだな。じゃあ、ブレーカーを見に行こう」

俺は提案したが………


「でも、前も見えないよ。この中進むの?」

びびりの金村が行きたがらない。

確かに金村が嫌がるのもとても分かる。本当に真っ暗で互いの顔さえ見えにくい。


「三浦、懐中電灯はある?」

そんな機転の利いた質問をしたのはまさかの白井だった。


「一応、あるにはあるけど……」

三浦の言葉の歯切れが悪い。

「けど、なに?」


「もっと奥の部屋でここからブレーカーとは正反対なんだ」

三浦が言うには団らん部屋の廊下側のまだ説明していなかった左右の扉がそれぞれ懐中電灯側とブレーカー側らしい。

「なるほど。じゃあ、どうする?」

白井が仕切って皆で「ブレーカー」と「懐中電灯」のどちらをとるかについて議論が始まった。


「もう帰らないか?」

金村がいきなり選択肢以外の答えを出してきた。

「お前もしかしてビビってんのか?」

白井がからかう。この辺りは昔の時のやり取りと同じだ。

「バカ、そんなわけないだろ」


三浦が仲裁に入る。

「まあ、ビビってるかどうかはともかく、ここは少し山奥だし、バスは朝まで来ないから帰れないと思うよ」


「はぁ~……」

現実的な三浦の言葉に金村は肩を落とした。


結局、他の意見が出なかったので俺が決めることにした。

「じゃあ、懐中電灯を取りに行こう。何回もブレーカーが落ちる可能性もあるし、そのたびに電灯のない中を歩くのは事故の可能性もあって危ないからな」

「ああ、そうだな。」

満場一致で、そうなることになった。


「じゃあ、何人で行く?とりあえずこの別荘の間取りが分かるのは俺だけだから俺は行くよ」

ということで三浦は懐中電灯を取りに行くことになった。


「1人じゃ危ないから俺も行く」

次に俺も行く決意をした。


「俺もこの別荘がどんな造りか見ておきたいから行く」

白井も話に乗る。


「3人共行くんだったら俺も行く」

小判鮫のように今田も来る。


そして、金村も……、

「仕方がない。俺もついて行ってやるよ」

「お前は1人じゃ怖いだけだろ」

「うるさい」

いつも通りの金村と白井のやり取りによって少し心が暖かくなった。

と言うことで俺達はみんなで懐中電灯を取りに行くことになった。


「よし、行くぞ」

三浦の号令により、俺達は進みだした。


一寸先は闇を現実にするとこういうことなのだろう。

家の中はもちろん窓の外も街灯1本としてないし、雲に覆われていて月の光もない。


そんな中をゆっくり進む。


そして、

「着いた、この部屋だ」

三浦の声に全員安心したようだった。無事に目的地に到着したからだ。


いや、1人落ち着けていない金村とかいう奴もいた。

「さっさと懐中電灯を取って帰ろうよ」


それから5分後。

「おい、三浦まだか?」

三浦に投げ掛ける。


「いや、実は……いつもの場所に懐中電灯がないんだ」

三浦の言葉にここにいる全員がざわついた。


「どういうことだよ」

白井の質問は全員の声を代弁していた。


「俺にも分からない」

三浦もお手上げらしい。


「やっぱり、安田の呪いだ」

金村がびびっているが関係なく俺は話を進めた。

「三浦、最後にこの別荘を使ったのは?」

「俺の両親だと思う」

「じゃあ、お前の両親が使ってそのままにしたんじゃないか?」


俺の意見に白井も同意してくれた。

「まあ、可能性はあるな」


そして、金村も……、

「やっぱりか、俺もそうじゃないかと思ってたんだよな」

「は?お前またビビってたじゃん」

何か、金村がボケて、白井がつっこむというスタンスが出来上がってしまっていた。まあ、こっちとしては突っ込む必要がなく楽なので良いが……。


「で、どうするの?」

緊張感の弱まっていた現場にこの言葉を投げ掛けたのは今田だ。


「仕方がない。ブレーカーを上げに行こう」

三浦の案に金村が噛みつく。

「また、あの暗い中を行くのか?」

「そうなるだろうなあ、どっちにしろ、ここで時間を潰しても何のとくにもならないし」

「はぁ……」


と言うことで“一寸先は闇”の中を再び歩き出した。

「三浦、この別荘ってよくブレーカー落ちるの?」

誰もなにも喋らなかったのでそんな質問をしてみた。

「いや、初めてだよ。と言っても、だいたい使うのは俺の両親だから……」

そんな会話をしている時だった。

「うわっ」

一瞬にして場の空気が凍りつく。

今の声は金村か?

「おい金村、大丈夫か?」

暗闇に向かって叫ぶ。

「ああ、なんとか……」

良かった、無事だったようだ。

白井が金村に事情を聞く。

「何があったんだ?」

「実は……」

「実は?」

「段差につまずいたんだ」

「は?」

白井だけ、声がもれたが全員そういう反応だったのは言うまでもない。


「さあ、先に進もう」

三浦の号令でまた進みだす。

「何だよ、その態度」

当の本人は納得していないようだが……。


結局、歩きながら金村が愚痴をこぼしていたが、そんなこんなで……


「皆、やっと着いたぞ。後はブレーカーを上げれば……」

『ガタン』

一瞬にして全ての部屋に光が点る。

「やった、電気がついた」

目標達成に皆、心から安心していた。

「じゃあ、部屋に戻ろうか?」

三浦の意見に賛成した。

「ああ、そうだな」

異論はでなかったので、明るくなった来た道を歩いた。

「金村、今度は段差踏み外すなよ」

「うるさい」

いつものように、白井が金村をいじっていた。


やっとこれで1段落ついたと思っていた……がこれが恐怖の始まりだった。


俺達は元の部屋に戻って再び同窓会を始めていた。


「おい、金村、金村!」

ふと見ると、白井が突っ伏していた金村を揺すっていた。

「どうした?」

何が起こったのか白井に聞いてみる。

「金村完全に寝てやがる」

「金村らしいな」

この三浦の1言に物凄く共感した。

「仕方がない、こいつの部屋まで連れて行ってやるか、場所は何処だ?」

と白井が三浦に尋ねた。

よく考えたら、誰がどこの部屋かとか何も言われてなかったな、とか思っている間に三浦が返答する。

「この部屋を出たらトイレの隣の階段を上がって左側の左から2つ目の部屋だ」

「分かった」

白井が金村を背負って部屋から退出した。

「じゃあ、俺は台所で新しいつまみを探してくるよ」

と言いながら三浦も退出。

さらに、

「じゃあ、俺はトイレに……」

今田も出ていった。

広い部屋の中1人………………。何故か少し悲しかった。

が、数分で三浦が戻って来た。

「あれ、今田もいないの?」

「トイレ」

「ああ、なるほど」


三浦に今の現状について意見を聞こうと話しかけた。

「なぁ……」

「ん〜、何?」

見るとつまみを食べていた。が、そんなことはどうでも良い。

「正直どう思う?」

「安田の事か?」

「ああ……」

「霊なんて絶対にいない……とは言えないんだよなぁ」

「まあ、そうだよなぁ」

三浦の考えは俺と似たようなものだった。


それからして白井が帰ってきた。

「遅かったな」

つまみを食べながら三浦が話し掛ける。

「ああ、布団とか引いてたからな」

その言葉に俺達2人は本当に驚いた。

「本当に変わったな」

「まさか布団を引いてあげてるとは……」

「もうそのノリはいいよ」


その時、

『ガタン』

再び照明が消えた。


「またブレーカーが落ちたのか?」

誰に聞いたのかすらわからない俺の質問に答えてくれたのは三浦だった。

「だと思うけど……」

が、もちろん三浦にも根拠がないので強くは言えない。


すると白井が

「逆にそれ以外に何がある?」

「………………」

確かに普通はそうだろう。ブレーカーが落ちた。それだけの事だ。


しかし、言いにくいが言うべきだと自分の頭の中で結論付けた。

「安田の仕業かも……」

「は、マジで言ってるのか?」

やはり、白井はそんなこと微塵も考えていない。

「まあ、怖がってる金村が居ないから言うけど可能性は0じゃないと思う」

三浦にも「安田」の可能性があると思えているのだろう。

白井はまさかの展開に頭をかいた、

しかしすぐに

「とりあえず、それは置いといてブレーカーを上げに行かないか?」

と提案した。

ずっと暗闇で相手の顔が見えない中話していた。

「ああ、そうだな」

三浦が答えた。

一応、話は続いたがとても話しにくい状態のままだった。

結局、それから誰も喋らないままブレーカーの前まで来た。

「じゃあ、上げるぞ」

『ガタン』

三浦の声と共に照明が点灯した。

「にしても2回もブレーカーが落ちるとは……」

三浦が不思議そうに呟いた。

「……」

誰も話さない。

と言うよりさっきのことを意識しすぎて話せない。本当に安田の呪いなら……

再び、何も喋らず部屋に戻ると……

「みんな、どこ行ってたんだよぉ」

なんと金村が部屋に座っていた。

「あれ、金村寝てたんじゃないの」

俺はあまりにも驚いてそうきいていた。

「目が覚めたんだよ。そしたら、知らない部屋だわ、電気は点かないわでパニックになりそうだったよ」

まあ、そんなとこだろう。

「で、電気が点いて降りてきたと……」

「うん」

白井の言葉に金村は頷いた。


「そういえば……」

その三浦の一言で場の空気が変わる。

「何?」

残りの3人で目を合わせ、代表して俺が聞いた。

「今田ってまだトイレなの?」

そうだ、そう言えば確かに……

「確かにトイレにしては遅いなぁ、何かあったのかなぁ?」

考えてみたけど何かが分からない。

「調子悪いんじゃないか?」

白井は普通に言ったが、さすがに長すぎると思う……。

「じゃあ、トイレに行ってみる?」

そう提案したのは金村だった。

「ああ、そうだな」

反論はなく全員でトイレに向かった。


「あれ?」

三浦が首をかしげる。

「どうした?」

俺はそれに気づいて尋ねる。

「鍵があいてるんだ」

「今田、鍵かけ忘れてるんじゃないか?」

と金村が言う。

「じゃあ、いきなりドアを開けて脅かさないか?」

そういえば白井は昔からいたずら好きだった。

結局、全員賛同してドッキリが始まる。

全員スタンバイ、手でカウントダウン。

「5…4…3…2…1…」

『ガチャ』

「わぁ」

「……」


呆気にとられた。

そこには今田が体をこちらに向けて座っていた。

足下には頭が落ちていた。

目を疑ったが今、目にしているのが現実のようだ。


「い……まだ?」

金村が心配そうに声をかける。

一応三浦が脈を確認するが頭と体が離れている地点で……。

「ダメだ、死んでる」

分かってはいたが、その三浦の言葉がひどく胸に突き刺さった。

「何でこんな事に……」

俺も白井と同じ気持ちだ。何故、こんなことが起きたのか?俺には分からない。

「呪いだ、安田の呪いだ」

金村が完全に落ち着きをなくしていた。

「まさか、本当に呪い殺されたのか?」

三浦まで言い出した。

「バカ、そんなわけないだろ」

一方の白井は未だに呪いを信じる気はないのかもしれない。

ただ、今はそんなことを話している場合でもなかった。

「取りあえず警察に連絡だ」

「そ、そうだな、分かった」

俺の発言に三浦がすかさず動く。

……………しかし、

「ダメだ、電話が繋がらない」

「何だって?」

電話が繋がらない………なら

「携帯は?」

「圏外だった」

これでは外と連絡を取る方法がない。

「安田だ。安田の呪いだ」

金村がさらに壊れていく。

「落ち着けって」

白井が金村の介護にまわる。

「呪いかどうかはともかく、ここは陸の孤島になってしまったようだ」

探偵っぽく言ってみた。

俺は推理小説が好きで推理をするのが好きだ。まあ、当たった試しはないが……。

「とりあえず、状況を考えよう」

俺は推理する気満々だった。

「状況も何も安田の呪いだよ」

「だから落ち着けって言ってるだろ」

もはや金村と白井のやり取りは耳に入ってない。

「見ろ、トイレの窓が開いてる」

三浦が指を指す。

確かにあまりでかくはないが大人1人何とか通れる大きさだ。

「本当だ。なら、外部犯の可能性もあるな」

その他にも見渡してみたがこれ以上の手がかりはなかった。

「なあ、俺達いつまでここにいないといけないの」

そう提案したのは三浦だった。

「確かに。顔と体が真っ二つになっている光景は……」

白井も三浦に同意する。

「分かった。じゃあ、部屋に戻ろう」


その途中、考えたくもない可能性が頭をよぎった。


部屋に戻って開口一番に

「なぁ、三浦」

「何?」

「お前って殺害時刻調べられる?」

「いや、さすがに無理だよ……、いきなりどうしたんだ?」

「いや、今考えれば内部犯の可能性もあるかと思って……」

これが俺が考えた考えたくもない可能性だ。

「でも、俺達全員アリバイがあるぜ、皆で飲んでただろ」

白井が自信ありげに言った、が無い時間もあったのだ。その事に三浦も気付いた。

「いや、俺は台所、白井は金村を寝かしに、金村は起きるまで、村田は部屋で1人になったとき、全員そのときはアリバイがないし、トイレにバレずに行くことも出来る」

「つまり、どうゆうこと?」

金村の問いには俺が対応した。

「要するに可能性は

1、外部犯 2、内部犯 3、呪い

のどれかだろう、しかも、外部犯の場合まだこの屋敷の中に居るかも……」

1通り話し終わるとすぐに金村が口を開いた。

「やっぱり山を下りないか?案外、簡単に帰れるかもしれないし……」


「外を見れば分かるけど、街頭も無ければ月の光も無い、懐中電灯も無いんだから真っ暗な山道を歩くのは難しいと思うよ。バスは朝まで来ないし、それに天気予報ではこの地域は朝まで強い雨が降り続くらしいし……山を下りる方が危険だよ」

「つまり、ここに居る以外選択肢は無いと言うことだ」

自分で言って悲しくなる答えだった。だが、この三浦の意見は確実に合っていて同調するしか仕方なかった。


「じゃあ、どうするんだ?このままここでじっとしておくのか?」

案外、白井が重要なところをついてくる。

全員が黙り込む。この選択で全員死ぬ可能性もあるのだ。

「俺はこの部屋で待機する方が安全だと思う」

「何言ってるんだ、外部犯を探す方が良いにきまってる」

金村も白井も性格通りに答える。この質問で2人が対立するのは必然だろう。

「……」

「おい、お前らはどっちなんだよ?」

矛先は俺と三浦に向けられる。

俺はすでに答えを決めていた。

「俺も何か武器でも持ってこの部屋に立てこもる方が良いと思う。相手が1人とは限らないし……」

「俺も村田に賛成だな」

俺と三浦の答えに白井が不満げに言う。

「何なんだよ、何でそんな意気地なしなんだよ、自分達で今田を殺した奴に敵を討とうとは思わないのかよ!」

俺は白井を説き伏せようとしたが、

「だから、相手が何十人も居るかもしれないんだよ」

「じゃあ、ここで待機すれば100%助かるのかよ!」

「………………」

すっかり逆をつかれ、誰も反論できない。しかし、やはりここにいる方が安全だと思う。

「………………」


「じゃあ、良いよ、俺1人で今田の敵を討ってやるよ」

え……、なんだって。

「ま、待て白井。さすがにそれは危険すぎる」

三浦が言い終わった時には白井はすでにいなかった。

白井が開けたドアの奥で雷が轟いていた。

「………………」

誰もどうすれば良いか分からず黙りこくっていた。

「このままで良いのかな?」

三浦が呟いた。

「…………」

答えはすぐには出てこない。


「俺は白井のせいで自分が死ぬのは嫌だ」

金村が強い意思をもって答える。

「誰だってそうだと思うよ。でも、ここで俺達だけ生き残って白井が死んでも嬉しい?」

三浦は白井を追いかけたいのかもしれない。それにまた、金村が言う。

「俺はそれでも仕方ないと思う。もともと、白井が多数決を無視したんじゃないか」

「それはそうだけど……」

ここにずっと居ても何も発展しないがこの部屋を出た所で発展するとも限らない。

難しい選択だ。

「村田はどうなんだ?」

金村の問いに俺はすぐに答えを出せなかった。

それから30秒後、俺は決意した。

「ここに居ても生きれるとは限らないからやっぱり迎え撃とう。それにみんなで固まれば襲われないかも……」

しかし、金村は反論する。

「呪いの場合は何人いても一緒だよ」

「呪いならどこにいても一緒だろ」

しかし、三浦の返しに金村は反論出来なかった。

「……」

と言うことで白井を探しながら外部犯を迎え撃つことになった。


「本当に大丈夫なの?」

「ああ、多分……」

金村の不安な嘆きに三浦も自信なさげに答える。

俺も不安だ。

「これで立ち向かうのか?」

武器として三浦から渡されたのはゴム鉄砲と水鉄砲だ。

「奪われた時に命の落としかねないものは避けた方が良いと思って……」

いや、三浦の言うことも分かるが……、

「でも、これじゃあ……」

「相手は倒せないよなぁ」

珍しく俺と金村の息があった。

「まあ、良いじゃん。外部犯の可能性は低いと思うし……」

え?何故そうなるのか俺には分からなかった。

「は?それはどうゆう……」

「さあ、行くぞ」

聞いたが三浦に流され出発、こうして一世一代の大勝負に出た。


「なかなか居ないなあ」

主語がなかったので俺はきいてみた。

「誰が?」

「白井に決まってるだろ」

まあ……、当たり前か。確かに、早く見つけないとまずいかもしれない。

「安田の呪いで白井神隠しにあってるんじゃ……」

「ない」

金村の言葉に俺はきっぱり否定した。ただ、信じたくなかっただけだが……、

「そんなキッパリ言わなくても……」


しかし、いくら歩き回っても白井がいない。

「それにしても居ないなあ、白井」

「まさか、山を下りてるんじゃ……」

金村がそう言ったが

「白井の性格からしてそれはないだろ」

「まあ、俺もそう思う」

俺も三浦もそれはないと自信があった。あんな飛び出し方をしたんだから普通に考えたらまだこの別荘の中にいるはずだ。


ふと思い出したかのように、俺は三浦に先程の疑問をきいた。

「なあ、三浦」

「何だ?」

「お前さっき外部犯の可能性は無いって言ったよな」

「無い…とは言ってない。可能性が低いって言ったんだ」

「何でそんなことが言えるんだよ?」

「だってこの別荘の電話が繋がらなかったんだ。それなら、電話線が切られたと考えられる」

「あっ、そうか。外部犯の場合、電話線を切ることを思い付きにくい」

「だから、“無い”じゃなくて“低い”なんだよ、それに外部犯が物取りの場合のみ………、もともと俺達を皆殺しにする気だったら切っててもおかしくはないし……」

「じゃあ、内部犯の場合誰が怪しいの?」

そう聞いたのは黙っていた金村だった。

「恐らく今田は鋭利な刃物で首を切られたんだろう。この別荘の中で鋭利な刃物は包丁しかないだろう。もちろん、台所にある。つまり、俺が台所にいたとき部屋にいた村田の可能性は低いだろう。が、後の人には包丁を取るチャンスは有った。だから、これ以上は踏み込めない。それに凶器が包丁とは限らないし、自分の荷物の中に凶器を入れればいつでもどこでも取れるけど……」

俺は自分で状況を確かめるように三浦の意見をまとめる。

「つまり、全員犯人の可能性があると言うことだ」

「そう言う事だな」

「じゃあ、白井が隠れて俺達を殺そうとしてる可能性も……」

金村が意表をついてきた。

「なくはないな……」

三浦も否定しない。可能性が有るのは分かるが信じたくなかった。

「さすがにそれは飛躍しすぎじゃないか?」

「じゃあ、やっぱり安田の呪いだろ」

また、これに戻る。


そんな中、再び照明が落ちた。

「また落ちたのか?」

三浦がため息をつく。

「上げに行くか?」

聞いてから何て当たり前な質問をしているのかと思った。

「そうだな」

俺達はブレーカーに向かった。

その途中、

「うわぁ」

金村の叫び声が響く。

「大丈夫か?」

「………………」

呼び掛けるが何の返答も無い。

「おい、金村、金村!」

「…………………」

「とりあえずブレーカーを上げよう」

三浦の提案をのみ、俺達は通ったことのある道を出来るだけ速く走った。

「着いた」

三浦の声に素早く叫ぶ。

「早く、ブレーカーを」

「分かってる」

『ガタン』

前のように電気がついた。

が、これで一件落着ではない。

今度は金村がいなくなったであろう場所に向かって走った。

しかし、

「この辺じゃなかったか?」

三浦の言葉に俺は呟く。

「多分……………」

全く姿が見当たらない。


「やっぱり、ブレーカーを上げる前に金村を探した方が良かったんじゃないか?」

意味もない言葉なのは自分で分かっていた。が、守りきれなかった自分にイラついて仕方なかった。

「そんなこと言ったって、あの暗闇の中どうやって探すんだよ」

三浦もイラつき出している。

「それでも、今考えれば、金村がいなくなった現場から離れたのはおかしかったよね」

もう、自分でも…………

「いきなり、何だよ?お前も賛成してたじゃないか?」

「違う。お前がいきなり走り出すからだ」

歯止めが…………

「何であの暗闇の中、俺が走ったのを分かったんだ?まさか、お前が犯人何じゃないか?」

「そんな訳ないだろ。誰だって足音で走ったことぐらい分かる」

きかなくなっていた…………

「どうだか?」

「もうい…」

『ドン』

俺は三浦にぶつかってしまった。なんせ、三浦が急に止まったからだ。

「いきなり、何で止まるんだよ」

「あれだよ」

三浦が指さした先には扉が開かれた部屋があった。が、電気はついていない。

俺はその部屋にどんどん近づく。

「バカ、それは罠だ。戻って来い」

俺は三浦の忠告を無視してさらに部屋に近付く。

「もういい、勝手にしろ。俺は1人で探す」

もはや、信頼していない友人の言葉など左に受け流していた。

ついに、部屋の前に来た。

持っていたゴム鉄砲を用意する。

そして、タイミングよく部屋に突入し電気をつけた。

「!」

余りにも不意を突かれ、ゴム鉄砲を落としてしまった。

そこは寝室だった。ご丁寧に金村の体と頭が並べられていた。


またしても、犯人にやられた。

「チクショー」

後ろを振り返るとすでに三浦はいなかった。

俺はとりあえず白井と三浦を探した。

が、なかなか見つからない。


「犯人は誰なんだ?」

この言葉が何度も頭をよぎる。

そんな事を思いながら歩いているとトイレに着いた。

怪しく思いその前で立ち止まる。

正確に言うとトイレの隣の階段の前で……。

今日、この別荘に来てから1回も上っていない。真っ暗で先は見えない。

俺は意を決して上った。


すると、2階の踊場に微かながら血が落ちているのに気付いた。

その血はとある部屋に続いていた。

もはや、自粛する理由なんて無い。すぐにその部屋を開けた。

『ガチャ』


思った通りの結末だ。

白井が首を切られていた。

その遺体をみて、俺は思った。

所詮、俺はまだ何も出来ていない。

誰一人として助けられていない。

その心が俺をさらにイラつかせると同時に絶望感も味あわせていた。


気付けば何分か立ち尽くしていた。

すると、目の前を

『ドタッ』

窓越しに三浦が落ちていくのが見えた。

顔は見えなかったが服装も体格も三浦だった。

上から落ちてきたと言うことは3階があるんじゃないかと思った。

が、上ってきた階段の隣に上に行く階段なんて無かった。

「と言うことは……」

俺は一目散に走り出した。

上ってきた階段とは逆の方向に走る。

すると、ドンピシャだ。上に行く階段がある。


さすがに、少しためらいかけたが、もう後戻りは出来ないと踏んで前に進んだ。

1段ずつ上がる。

残り数段になったとき一番上の段にあるものが置いてあった。

それは三浦の頭だった。三浦が落ちてきたとき顔はよく見えなかったのではなくて元々切り落とされていたのだ。

今日でいくつもの頭と体が別れた死体を見てきたのですでに慣れていた。

なので、気にせず3階の扉を開けた。


そこは屋上だった。

雨が降っている。

『ピカッ』

『ゴロゴロ……』

雷が鳴っている。

その雷の光はとある人物をかたどっていた。

「やっと来たのか」

「……」

その人物を初めて知った。

「な、んで……」

ポーカーフェイスではないので驚きを隠せない。いや、ポーカーフェイスの人でもこの驚きは隠せないだろう。

「何でお前が……、何でお前がこんな所にいるんだよ?」

「それぐらい推理してよ」

向こうが笑いながらねだってきた。

言われたので、こちらも意地になって考えた。すると、俺はピンと来た。

「そうか、お前が犯人なら全員殺せるよな」

絡まり合っていた糸がほどけた気がした。

「犯人はお前だったんだな、安田」

「ああ、そうだよ。みんな僕が殺したんだ」

「もっと早くに気付くべきだったよ。お前は学校の屋上から飛び降りたんだ。確か、あの建物は3階建て。一命を取りとめていてもおかしくはないよな」

「さすがだね。その通りだよ。俺は死ななかったが周りの人にわがままを言って学校に俺は死んだって伝えてもらったんだ。全ては今日の為に……」

そう言いながら、微笑んでいる。恐ろしい顔だ。

「にしても、トイレの窓から忍び込むとはなぁ」

すると、いきなり安田は爆笑しだした。

「ははははは…………」

「何がおかしい!」

「お前は探偵にはなれないな。俺は今日この別荘で集まることを知って3週間前に窓を壊して忍び込んでたんだ」

俺の推理は間違っていたのか?

「何だって?でも壊れた窓なんて1枚もなかったぞ」

「当たり前だよ。業者の人に直してもらったんだから。そのために3週間前に忍び込んだんだよ」

「じゃあ、ブレーカーを落としたのも……」

「ああ、俺だよ。それに電話線を切ったのも、懐中電灯を隠したのも俺さ」

「動機は聞くまでもないがあの事件か?」

「当たり前だろ!俺はお前たちに殺されかけた、いや殺されたんだ。あのせいで、俺は遠い所へ引っ越しそこで友達も作れず、人間不信になって大人になっても働けなかったんだよ」

「……」

もはや返す言葉もない。

「お前も殺してやる」

「!」

俺は空気に呑まれそうになった。

「そうだ。武器……」

が、全く見つからない。

「どうした?ゴム鉄砲なら金村の部屋に置いてきたんじゃないか?」

この言葉の後、忘れてきたことに気付く。

「見事に監視されていたんだな」

動揺を悟られないよう喋り続ける。

「もはや、お前は武器がない。ならば、今武器を持っていない俺に体当たりして来たらどうだ?」

罠の可能性も十分ある。いや、むしろ罠だろう。しかし、武器を持っていない俺にとっては他に取るべき道はなかった。

「やぁ」

俺は安田目掛けて突進した。

結果、安田にかわされ視界に入ったのは曇った空に大量の雨粒、あの日の光景、そのままの空、それに安田の立っていた場所の後ろだけポッカリ開いているフェンスだった。

「!」

屋上は雨のせいでブレーキがきかず俺はポッカリ開いていた隙間に吸い込まれるように入った。

そこから先は真っ逆さまに重力に任せて落ちるだけだった。まさに、前回と逆だ。

『ズドン』

「……………………」

なんとか一命はとりとめた。落下先に木がありその木がクッション代わりになってくれた。

が、動けない。どうやら、両足ともやってしまったようだ。


『ガチャ』

別荘の玄関の扉が開いた。あの別荘には1人しかいないので誰が出て来たか容易に見当が付く。

「だから言ったろう。お前は探偵にはなれないって」

「ああ、全くその通りだよ」

「実はここに良いものが2つある。まず、1つ目」

俺の視界に光が射し込む。

「この別荘に有った懐中電灯だ。そして、2つ目」


『ウィーン』

「!」

あまりに唐突で声がでない。

「チェーンソウだ」

出ない声できいてみた。

「どうするつもりだ?」

すると、安田は大爆笑しだした。

「良い質問だね。どれが良い?

1、両脚とも切り落とす、2、両腕とも切り落とす、3、首を切り落とす」

「その中から選ぶわけないだろ」

「分かったよ。じゃあ……」

『ウィーン』

「全部やってあげるよ」

けたたましい機械音と共に刃が足に近付いてくる。

「止めろ、止めろ、止めろ…………………」

暗くて安田の顔が全く見えない。

「じゃあ、まず右脚から」

鋭い刃が俺の脚に向かってくる。

「!」

あまりのことに声が出せない。

「案外、簡単に切れるんだね」

数秒で右脚が無くなった。

「どうする?逃げたい?」

笑いながら話しかけてくる。

それが安田の後ろでなびいている大木の葉っぱとマッチしていた。

「右脚が無いんだから逃げきれないだろ」

「その通りだろうね。でも、逃げてくれる方がイジメがいがあるのに」

「誰がお前の思い通りにするかよ」

もはや、ただの強がりでしかなかった。

「まあ、良いさ」

『ウィーン』

今度は左腕に近付けてくる。

「!」

「どう?イジメられてる気分は?」

また、今度は左腕が無くなった。

「………………」

意識が朦朧としてくる。さすがに限界が近いようだ。

「前回とは全く逆の立場だね。君達に挟まれて僕も“白”から“黒”に裏返ったのかな?まあ、良いや。君ももう死んでしまいそうだから最後はゆっくり首を切ってあげるよ」

『ウィーン』

意識が徐々に薄くなる。

チェーンソウが首に近付く。

俺達はとんでもない奴をイジメていたようだ。いや、俺達のせいでここまで変わってしまったのだろうか?あの事件で5人の人生が狂ってしまった。

「じゃあね」

『ピカッ』

安田の後ろに見える木から強烈な光が降り注ぐ。

体を物凄い電流が流れる。

『ゴロゴロ………』

「あああああ~」

俺ではない誰かの叫び声を聞きながら俺の意識はなくなった。

後日、ここで6人の死体が見つかったとか……。

コレが所詮“黒”の結末なのかもしれない。








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