Sakura in Wonderland Extra

「いやー! 大変だったなー!」


 私がぐっと背伸びをしながら叫ぶと、溜息を交えて凛々子りりこが言う。


「もー本当に大変だったよ……てか、今も状況良く分かんないし……えーと、アゼル・ドジソンはもういいの?」


「ああ、勿論だ。私が君達の様な少女を狙うなど、言語道断。ドジソンの家に誓ってないと言える」


「はあ……そうですか……」


「大丈夫、緋鎖乃さんが記憶を消したから、本当に平気なの」


 不安げな凛々子に耳打ちをする。消えた記憶の部分を、適当な嘘で緋鎖乃さんが埋めていたけど、全てを聞いていた訳じゃないので、触れないでおく。


「元の世界に戻ったら、君達の親御さんには私から経緯を説明せねばな」


「あ、だ、大丈夫です、私から言っておくので! アゼルさんにはこれ以上迷惑かけられませんから!」


「む、いやいや、迷惑をかけたのはこちらではないか。頭を下げるべきなのは私だ」


「い、いいんですって! 落ち着いてからにしましょ! ほら、いきなりだと、パパママも頭に血が昇ってると思うんで、落ち着いてから! ね!?」


「それも一理ある……重ね重ね迷惑をかけるが、事情を説明して貰えるだろうか? 後日改めて謝罪を是非」


 変にパパママ達と絡まれては、とんでもない事になる。ここは慎重に慎重に。特に今回の話を聞いたら、ママはブチギレるだろうし。


「それはそうと、もう一人のお友達はいいのか?」


「え? もう一人って……此処には、凛々子と来たんですけど……」


「む? 先程凛々子殿を察知した時に、港町にもう一人居たと思ったんだが……確かに、今は反応がないな……私の勘違いか」


「凛々子、誰か見た?」


「んーん、兎とトランプの兵士しか見てなーい」


「だそうです」


「ふむ、私も記憶が混濁していたし、恐らく勘違いだろう。それでは、時間が戻り世界が崩れるのを待とうではないか」


「今直ぐあの黒い穴を開けて出られないんですか?」


「未来に戻るのを待たねば。今外に出ては、中途半端な未来……私達が来た世界よりも過去に出てしまう。恐らく、増幅された凛々子殿の能力と、私の能力は連動している。世界の完全な崩壊イコール、私達の未来と判断して良いだろう」


「成程……それじゃあ、少しだけ待ちましょうか」


 私は、緋鎖乃さんが散らかしたテーブルに寝そべって、真っ青な空を見上げた。


「ねーねー、私が居ない間何があったか聞かせてよ!」


 寝そべった私の顔を覗き込みながら、凛々子が言う。


「勿論!! もーーーね! 本っっっっ当にかっこ良かったんだよ!」


 そして、私は、空に輝く太陽に負けないくらい、瞳を輝かせていたと思う。


 私の、憧れの話。


「鎖子さんでしょ? 深鎖みさは鎖子さんが好きだねえ」


「好き! 能力一緒にするくらい好き! それに、私の名前、鎖子さんと同じ『鎖』が入ってるし! あーやばい、私緊張し過ぎて失礼な事ばっか言ったかも! めっちゃ舞い上がってた! 恥ずかし!!! はず!!!!!!」


「深鎖ママも私のママも鎖子さんの事好きだけど、多分深鎖が一番だと思うよ」


「えへへ、そうかなあ? えへへへ、ママと凛々子ママより凄いかなあ?」


「ちょっとキモいもん」


「え!? そ、そう!?」


 私は、親友の心ない言葉に思わず上体を起こした。


「でも、何かに没頭している人は皆キモいって学校の先生が言ってたから、別にいいんじゃない?」


「うーん、でも私はかっこ良くなりたいからなあ。キモいよりは、カッコイイ!」


「鎖子さんカッコイイもんね」


「うん!」


 私は、きっとまた瞳を輝かせて言った。


「鎖子伯母さんが世界一カッコイイよ!」

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