9.

 僕は、悪くなんかない。

 あいつが――ソラが、サクラが好きだなんて、言いだすから。

 僕は、何もしていない。

 去年の夏、プールの底で足を滑らせてそのまま沈んでいった奴を、ただ眺めていただけだ。

 奴は助けを求めて手を差し出したが。

 僕は、何もしなかった。

 これでいいと。これでいいのだと。

 プールにはもう入りたくないな、とだけ思って。

 けれど、違ったのだ。

 僕は、ソラがいなくなれば全てがよくなると思っていた。

 まさか――サクラが飛び降りるなんてこと、思っていなかった。

 彼女はソラの訃報を聞いた瞬間、授業をやっていた音楽室から飛び降りた。

 頭を地面に思い切りたたきつけるようにして。決して死に損ねるなんてことが、ないように。


 僕は一人になった。


 でも、彼女は還ってきた。ソラだけを求めて。僕のことなど、忘れて。

 だから、僕は混乱する彼女に向かって言ってやったんだ。


「何言ってるの、サクラ。僕だよ。ソラだよ……まさか、忘れちゃったの?」

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